ウラギリ×ト×シツボウ






全員でアジトを突き止め、乗り込む作戦を立てた5人はそれぞれ動き出すことになった。ゴンとクラピカとレオリオが車に乗って旅団の追跡、キルアとセンリツがビルを移動しながらの別ルートからの偵察。



「すごい雨ね……こんな日は隠密には向いてるけれどこっち側も相手の動きがわかりにくいわ」



センリツが警戒態勢を取りながら静かに声を出した。降りしきる雨がアスファルトを叩く音だけが響く。センリツの言う通り、この雨は敵の気配を消し、同時に俺たちの気配も消してくれる。好都合だが、油断はできねえ。



「ああ、まったくだ。けど、おかげでこっちの足音も消せる。奴らも同じことを考えてるかもしれねえがな」



俺はビルの屋上の縁に立ち、ずぶ濡れになりながら街を見下ろす。雨粒が視界を遮るが、集中すれば些細な変化も見逃さねえ。暗殺の仕事で、もっと悪天候の夜は何度も経験してきた。ふと、胸をよぎった不安を口にする。ステラは生きている。でも、どんな状態で?旅団に無理やり協力させられてるのか、それとも……。



「……なあ、センリツ。ステラの心音……お前なら、もし近くにいれば分かるか?」

「もちろんよ。遠く離れていても聞こえるわ。けれど私はステラさんに会ったことはないの……」



申し訳なさそうに首を横に振る。センリツの言葉に、そうだよな、と心の中で呟く。会ったこともねえやつの心音なんて分かるわけがねえ。俺が馬鹿なことを聞いた。その直後、街の明かりが一斉に消え、世界が完全な闇に包まれた。作戦開始だ。



「……チッ!」



闇の中、狙いを定めていたマチの気配に飛びかかる。だが、俺の蹴りは空を切った。しまった、読まれてたのか……!?刹那、背後から糸のようなものが体に絡みつき、身動きが取れなくなる。強烈な力で引き寄せられ、壁に叩きつけられた。



「ぐっ……!」



肺から空気が押し出される。なんだこの糸……!?念か!必死にもがくが、糸はびくともしねえ。視界の端で、ゴンがノブナガに捕まるのが見えた。くそっ、しくじった……!



「ゴン……!」



ステラを助けに来たはずが、俺たち自身が捕まっちまうなんて。最悪の状況だ。だが、クラピカの作戦はまだ終わっちゃいねえ。こいつらが俺たちに気を取られてる今が、あいつのチャンスのはずだ。



レオリオがラジオの時報を鳴らし、停電させる。闇に乗じてゴンがパクノダを蹴り、キルアがマチを蹴って逃げ出そうとするがキルアがマチに捕らわれ、ノブナガがゴンを捕らえた。ゴンとキルアは逃げられなかったが変装したクラピカが蜘蛛の頭を引っ捕らえるという作戦はひとまず成功する。

クロロ、キルアとゴンで人質交換をするという事で話は纏まり、ゴンとキルアは拘束されたまま船へと移動する。引率係はパクノダとステラだった。



「キルア……ゴン……」



船の中は妙に静かだった。波が船体を叩く音と、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。ゴンと俺は念糸で固く縛られ、身動き一つ取れねえ。そして目の前には、パクノダと……ステラがいた。



「……ステラ」



掠れた声で名前を呼ぶ。生きていた。その事実に安堵する一方で、なんでお前がここにいるんだ、という疑問が胸を締め付ける。その目は俺たちをどう見てるんだ?敵か?それとも……。



「……なんで、旅団と一緒にいるんだよ」



問い詰めるような声色になってしまうのは仕方ねえだろ。俺は、お前が死んだと思って……!感情が昂るのを必死で抑え込む。パクノダがいる手前、下手に動くことも、感情を出すこともできねえ。ただ、その紫色の瞳から目が離せなかった。



「うん……あとで、全部話すから。今は……今だけは私のこと信じてほしい」



ステラはキルアの顔をまっすぐに見つめた。パクノダは穏やかな顔をしてステラを見つめ、囁く。



「ステラの選択を私は尊重するわ。大事な妹のようなものだもの」



ステラの言葉に、俺の頭は真っ白になった。信じてほしい、だと……?こんな状況で、何をどう信じろって言うんだよ。隣でパクノダが「大事な妹」なんて抜かしてるのが聞こえて、腸が煮え繰り返る思いだった。



「……ふざけんな」



喉から絞り出した声は、自分でも驚くほど低く、冷たかった。縛られたまま、俺はステラを睨みつける。その紫色の瞳に映る俺は、どんな顔をしてる?



「お前、自分が何言ってんのか分かってんのか? こいつらは……幻影旅団だぞ! なんでお前がそっち側にいるんだよ!」



激情に任せて叫びそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪える。今にも縛られたこの念糸を引きちぎって、ステラの肩を掴んで問い詰めてやりてえ。でも、できねえ。俺はただ、裏切られたような絶望感の中で、お前の顔を見ることしかできなかった。



「パクノダ……。私……幻影旅団には戻らない。本当は、そう言いに来たの」



パクノダはステラを見て微笑んだ。



「いいのよ。ステラと会えて……ステラが生きてて……本当に良かった。ステラがこの先どこへ行ったとしても、ずっと家族よ」

「ありがとう……パクノダ。会えて、良かった」



パクノダとステラの会話が、まるで別世界のことのように聞こえる。家族?何言ってんだこいつら。俺の知らないところで、勝手に話を進めやがって。怒りと混乱で頭がどうにかなりそうだ。



「……はっ、戻らない、だと? じゃあ今まで、こいつらと一緒にいたってことかよ」



俺は嘲るように鼻で笑った。ステラの言葉は一つも頭に入ってこねえ。ただ、こいつが俺たちを裏切って旅団側にいたっていう事実だけが、ナイフみたいに胸に突き刺さる。



「お前、ゴンがどんな思いで……俺が、どんな気持ちで……!」



言いかけて、言葉に詰まる。今にも張り裂けそうな感情を、どこにぶつければいいのか分からねえ。パクノダの穏やかな表情が、余計に俺を苛立たせた。こいつは、何もかも分かった上でステラを利用してたに違いねえ。

ステラはキルアに敵を見るような目を向けられ、一瞬だけ傷付いたような顔をした。



「……私は流星街出身なの。生まれてすぐ捨てられて、幻影旅団に拾われた。……信じてもらえないなら、いい。クロロと無事に交換するまで見届けようと思ってたけど……」



ステラは一度だけキルアを見て、泣きそうな顔でそれだけ言ってその場から離れた。

ステラが背を向けて去っていく。その小さな後ろ姿が、雨に濡れた甲板に消えていくのを、俺はただ黙って見ていることしかできなかった。流星街?旅団に拾われた?そんなこと、一言だって聞いてねえ。



「……待てよ……!」



喉から出た声は、自分でも驚くほどか細かった。呼び止めたかった。今すぐ追いかけて、腕を掴んで、全部嘘だって言わせたかった。でも、念糸に縛られた体はびくともしねえ。



「くそっ……! なんだよ、それ……!」



怒りなのか、悲しみなのか、ごちゃ混ぜになった感情が腹の底から突き上げてくる。信じてもらえないなら、いい……?ふざけんじゃねえ。勝手に話して、勝手に諦めて、勝手にいなくなるなよ……!俺たちの知らないところで、お前は一体何を背負ってたんだよ。なあ、ステラ。

























やがて無事にクロロはパクノダの元へ、キルアとゴンはクラピカの元へと戻り。拘束は解かれた。パクノダはキルアとゴンの顔を見て微笑み、それからクラピカを見て言った。



「ステラは生まれてすぐ捨てられて、私達が拾って育てた。けれどあの子が6歳の時に行方不明になった。だからステラは『緋の眼の事件』には関わってないわ。本当よ。あの子を責めないであげて……あの頃はまだ、幻影旅団じゃなかったのよ。あの子は何も知らなかったの」



そう言ってクロロを連れて去って行った。パクノダの言葉が静かに響き、去っていく背中を無言で見送る。ステラが緋の眼の事件に関与していない……その事実は、復讐の対象ではないという安堵と、彼女が背負ってきた孤独への同情を同時に私にもたらした。



「……そうか。彼女もまた、奪われた者だったのだな。」



私は静かに呟き、ゴンとキルアに向き直る。



「ステラの無事を確認する。それが今の我々の最優先事項だ。彼女の過去がどうであれ、仲間であることに変わりはない」



パクノダの言葉が頭の中で反響する。緋の眼の事件には関わってない……?旅団じゃなかった……?じゃあ、一体なんなんだよ。何も知らなかったのはこっちの方だ。俺は呆然と、あいつらが去っていった闇を見つめることしかできなかった。



「……なんだよ、それ……」



さっきステラが言っていた言葉が、パクノダの言葉と重なって胸に突き刺さる。流星街、捨てられた、拾われた……。俺が何も知らずに、勝手に疑って、あいつを傷つけるような言葉を投げつけた。



「俺は……」



一番知りたかったはずなのに、一番聞きたかったはずなのに、いざ目の前にしたら感情に任せて拒絶した。あいつの泣きそうな顔が、脳裏に焼き付いて離れねえ。



俺は、なんて馬鹿なことを……!



自分の足元を見つめる。解放されたはずなのに、見えない鎖で縛られているような気分だ。パクノダの言葉が、俺の犯した過ちの重さを突きつけてくる。俺は、ステラの言葉を信じようともしなかった。



「……最低だ、俺……」



唇から漏れたのは、自分自身への罵倒だった。あいつがどんな思いで俺たちの前に現れたのか、考えようともしなかった。ただ、裏切られたという思い込みだけで、あいつの心を深く傷つけた。顔を上げる。船はもう遠く、夜の海に溶け込んで見えねえ。ステラはあの船に乗ってるのか?それとも、どこか別の場所へ……?考えるだけで胸が張り裂けそうだ。



「あいつ、どこに行ったんだ……? 追いかけるぞ、ゴン」



隣にいる親友に、決意を込めて告げる。今さら虫のいい話だって分かってる。それでも、会って謝らなきゃ気が済まねえ。俺の言葉で傷つけたんだ。俺の言葉で、伝えなきゃならねえことがある。



冷たいアスファルトを踏みしめて歩く。人通りのない寂れた路地裏でステラは立ち尽くしていた。



嫌われちゃった……。



涙がポタポタっと垂れてアスファルトに染みを作る。これからどうしたらいいのかわからない。幻影旅団は今は盗賊集団となってる、戻る気はない。



全部なくなった。独りぼっちになっちゃった……。



とめどなく涙がこぼれ落ちていく。街灯に照らされて涙がキラキラと光って視界がぼやける。



冷たい夜風が、火照った頬を撫でていく。ゴンと一緒に、ただひたすら走っていた。ステラが消えた方角だけを頼りに、息を切らしながら。あいつの泣きそうな顔が、脳裏から離れねえ。俺のせいだ。俺が、あいつを独りにさせた。



「……っ、ぜってー見つけ出す……!」



奥歯をギリッと噛み締める。後悔なんていくらしたって足りねえ。でも、ただ後悔してるだけじゃ何も変わらねえんだ。ごちゃごちゃになった頭の中で、それでも一つの思いだけがはっきりしていた。あいつに会って、伝えなきゃならねえことがある。

今、あいつはどんな顔をしてる?独りで泣いてんのか?そう考えただけで、胸が張り裂けそうだった。もう二度と、あんな顔はさせねえ。俺はアスファルトを強く蹴り、さらに速度を上げた。闇雲に走っても埒が明かねえ。一度立ち止まり、肺いっぱいに空気を吸い込む。冷静になれ、俺。暗殺者の勘を研ぎ澄ませろ。あいつならどこへ行く?独りになったあいつが、安らげる場所なんて……。



「……っ、あっちだ!」



ふと、ある路地の奥から微かな気配を感じ取った。泣いているような、か細い気配。間違いない、ステラだ。俺はゴンに一言断りを入れ、壁を蹴って屋根へと跳び上がる。最短距離で、あいつの元へ。



「ステラ……!」



街灯に照らされた路地裏に、見覚えのある小さな背中を見つけた。肩を震わせ、俯いて泣いている。その姿が、心臓をナイフで抉るように痛かった。俺は屋根から音もなく飛び降りる。



「……ごめん」



やっと絞り出した声は、自分でも情けないほど震えていた。俺の言葉に、ステラの肩がびくりと跳ねる。顔を上げたその紫色の瞳は、涙でぐしゃぐしゃだった。そんな顔させたのは、全部俺のせいだ。











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