ハンター×シケン×カイシ






ここが、ハンター試験会場……。僕は120番のプレートを手に辺りを見回す。そこでトンパと名乗る男に話しかけられ下剤入りのジュースを渡される。



「これ、飲んでも大丈夫なのかな。なんか怪しいけど……」



じっと手の中の缶を見つめるキャスケット帽を被った少年の横顔を、俺はスケボーに乗りながら何気なく見ていた。さっき馴れ馴れしく話しかけてきた、あのオッサンのジュースか。



「おい、アンタ。それ、飲まない方がいいぜ」



俺がそう言うと、そいつは驚いたように顔を上げた。まあ、当然か。いきなり話しかけられたんだからな。



「毒だよ、それ。微量だけどな。俺ん家のトレーニングに比べりゃ屁でもねーけど、アンタみたいなヒョロいのが飲んだら試験どころじゃなくなる」

「ありがとう、これ毒入りだったんだ。捨てようか迷ってた所だったんだ、助かったよ」



スバルはいきなり声をかけられて驚いたものの、キルアの好意には素直に感謝し礼を述べる。



「僕はスバル。君も同い年くらいか? よろしく」



スバルは低くも高くもない少年の声で言って、手を差し出す。



「……キルア」



差し出された手を一瞥し、俺はポケットに手を突っ込んだままで見据える。警戒を解いたわけじゃない。ただ、こいつからは殺気や敵意を感じなかった。それだけだ。短く名前だけを告げると、ポケットから手を出してスバルの手を軽く握った。すぐに離すつもりだったが、その手は思ったより小さく、柔らかかった。なんだか、調子が狂う。



「同い年くらい、か。ま、そんなとこだろ」

「キルア、ね。よろしく」



そっけなく答えつつも、俺は目の前の"スバル"という少年を観察していた。キャスケット帽で顔はよく見えないが、妙な雰囲気の奴だ。こいつも、ただのガキじゃなさそうだな。俺はジュースを開けて豪快に飲み干したあと、周囲を警戒するように視線を巡らせた。



「それ、毒入りって言ってなかったか?」



俺がジュースを飲み干すのを見て、スバルは驚いたように目を丸くしている。まあ、当然の反応か。普通のガキなら即死、少なくとも動けなくなる毒だ。



「言っただろ? 俺ん家のトレーニングに比べりゃ屁でもねーって。この程度の毒は慣れてる」

「へー……すごいな」



空になった缶を軽く握りつぶし、ゴミ箱に向かって正確に放り投げる。スバルの視線がまだ俺に突き刺さっているのを感じた。



「それより、アンタさ。なんであのオッサンが怪しいって分かったんだ? 普通、親切にされたら信じちまうもんだろ。特に、アンタみたいな……」



言いかけて、言葉を切る。見た目通りのお人好しには見えない。こいつ、一体何者なんだ?俺は探るようにスバルの顔を覗き込んだ。



「最初から親切な顔して近づいてくる奴は大体敵じゃん? 映画とかアニメとかゲームとかって大体そうだしさー」



スバルはなんてことのない顔して笑った。と、その時ベルの音が大きく鳴り響いた。面接官の「これより、ハンター試験を開始いたします」という言葉を皮切りに受験生達が一斉に走り出す。スバルもそれに続こうと動き出しながらキルアに目を向けた。



「もう一次試験が始まったみたいだ。みんな走り出してる。ねえ、どっちが先に着くか競争しない? ローラーとスケボーどっちが速いかな?」



スバルはそう言ってよく使い込まれたローラーシューズをトントン、と軽く爪先を床に当てた。ローラーシューズ、ね。なるほど、それでここまで来たってわけか。俺のスケボーとどっちが速いか、だと?フン、面白いこと言うじゃねえか。

ニヤリと口角を上げ、俺はスケボーに片足を乗せる。目の前のスバルとかいうヤツ、ただのガキじゃないとは思ってたが、なかなか度胸がある。トンネルの先はまだ見えない。だが、こいつとなら退屈しなくて済みそうだ。俺は軽く地面を蹴り、走り出した大勢の受験生を追い抜きながら、スバルを挑発するように振り返った。



「上等だ、乗ってやるよ。その競争。ただし、負けた方は昼飯おごりな。それで文句ねえだろ?」

「いいよ、絶対昼飯奢らせるから」



スバルも負けず劣らずな速度でキルアの隣に並んで走る。周囲の受験者たちが息を切らせながら走ってる様子をちらりと見て楽しげに笑う。



「キルアのスケボーもかっこいいじゃん。でもみんな必死だね。まだ先は長そうだけど」



スバルの言葉に、俺は鼻で笑ってやった。こいつ、口だけじゃなく本当に速い。大したもんだ。だが、俺に勝てると思うなよ。



「たりめーだろ。俺の愛用のスケボーだからな。余裕そうじゃんか。ま、俺もだけどな」



隣を走るスバルの横顔を盗み見る。ローラーシューズで走ってるとはいえ息一つ切らしていない。こいつも相当な手練れか。ますます面白くなってきた。俺はわざとスピードを少し上げ、スバルの数メートル先に出る。トンネルの壁に反響するスケボーの音と、ローラーの音が心地いい。



「でも、油断してっと置いてくぜ?」



挑発するように振り返ると、スバルは楽しそうに笑っていた。なんだよ、その顔。こっちのペースが狂うだろ。

そのままスバルはキルアと競争しながら走っていたがしばらくして、前を走っていた自分と同じくらいの年代の男の子とすれ違う。



「へえ、他にも僕とキルアみたいな子供が参加してたんだ」



じーっと少年を見ていると、少年もそれに気付いて走りながら振り返り、驚いた顔をしたあとに笑顔を見せた。話しかけようとした刹那、スーツ姿のおじさんが先に口を開く。



「おいガキども、汚ねーぞ。そりゃ反則じゃねーか、オイ!!」

「「何で?」」



スーツ姿のおじさんに言われた俺とスバルは綺麗に声をハモらせて問いかける。スーツの男は息を切らしながら、俺とスバルを指差して喚き立てる。汗だくでみっともねえツラだ。



「スケボーとローラーシューズなんて、てめーら走ってねえじゃねえか! 体力試験だぞこれは!」



くだらねえ言い掛かりだ。俺は呆れてため息をついた。横を見ると、スバルも同じような顔をしてる。



「は? 別に走れなんて言われてねえだろ。一次試験は試験官についていく、それだけだ」

「そうだよ。試験官はついて来いって言っただけだもんね」

「君が準備不足なだけなんじゃない?」



キルアが反論してすかさずその少年が同意し、それにスバルが挑発するように続けた。



「ゴン!! てめ、どっちの味方だ!?」

「怒鳴るな、体力を消耗するぞ。何よりまずうるさい。テストは原則として持ち込み自由なのだよ!」



金髪の青年の言葉にスーツ姿の男性はぐっと押し黙る。キルアとスバルはじーっと少年を見ていた。



「僕は12歳、君は?」

「もうすぐ12歳!」



スバルの問いかけに、ゴンと呼ばれてた少年は元気よく答えた。スバルと、ゴンという少年が楽しげに話している。なんだか、同じくらいの年の奴と話すのは新鮮な気分だ。まあ、俺には関係ねえけどな。



「ふーん、お前ゴンっていうんだ。俺はキルア」



俺はスケボーに乗ったまま、ゴンに自己紹介する。こいつもスバルと同じで、妙な雰囲気を持ってる。ただのガキじゃねえのは確かだ。



「へえ、キルアも12歳?」

「まあな」



ゴンが屈託のない笑顔で聞いてくる。こいつら、試験中だってのに緊張感ねえな。ま、俺も人のこと言えねえか。

ゴンは元気よく笑いながら返事をする。汗ひとつかかず、まるで散歩でもしているかのように余裕の表情だ。ゴンは前方を見つめ、目を輝かせていた。それを見たキルアはやっぱ俺も走ろっと、と言ってスケボーを降りた。それを見たスバルも、仕方ないな、と言ってローラーをしまった。このローラーは自在に出したり引っ込めたりできる。装着型ローラーなので靴自体は改良すれば何にでも付けられるようになっている。



「僕はスバルだよ。12歳。みんな綺麗に同い年なんだ?」



スバルの言葉に、俺はちらりと横目で見る。ゴンもスバルも、涼しい顔で走っている。なんだかんだで、こいつらと一緒に走るのも悪くない、なんて思っちまってる自分がいるのが不思議だ。



「へえ、お前も12かよ。偶然だな」



俺はわざとぶっきらぼうに答える。だが、内心では驚いていた。この試験会場で、自分と同じくらいの年の奴が二人もいるなんて。



「ま、体力には自信あるみてーだし、これくらい余裕だろ?」



ゴンとスバル、どっちも底が見えねえ。面白い。ゾクゾクする。俺は口の端に笑みを浮かべ、二人を挑発するように少しだけペースを上げた。こいつらとなら、退屈な試験も楽しめそうだ。俺は、今度は金髪の青年とスーツ姿のおじさんの方を見る。



「おにーさんとオッサンの名前は?」

「オッサ……これでもお前らと同じ10代なんだぞオレはよ!!」

「「「ウソォ!?」」」



俺とスバルとゴンの声が、綺麗にハモった。金髪の青年は既に他人のふりをして走り始めているな。



「あー!! ゴンとスバルまで……!! ひっでーもォ絶交な!!」

「ねえ、この先もっと難しくなるかな? 楽しみだな!」



レオリオの嘆きも構わずゴンは笑顔で言った。それからもスバルたちは走り続け、もう始まってから4、5時間は経っていた。一体どこまで走るつもりなんだろう。クラピカとレオリオとは次第に距離が空き、スバル、キルア、ゴンの三人で並んで先頭を走っていた。長かった薄暗い地下道を抜けると、目の前には湿原が広がっている。ここまで長かった。スバルはふぅ、と一息をつく。流石に疲れたな。けど、目の前には大きく広がる森。何となくさっきの地下道以上に嫌な感じがする。ヒゲを生やした試験官のオジサンが説明を始めた。



「ヌメーレ湿原、通称“詐欺師の塒”です。二次試験会場へはここを通らないと辿り着けません。この湿原にしか生息していない珍奇な動物たち……。その多くが人間をも欺き食糧にしようとする、狡猾で貪欲な生き物です」



試験官のサトツが淡々と説明を続ける。湿原、ね。確かに気味が悪い。そこら中から得体の知れない気配がする。暗殺稼業で培った勘が、危険を告げていた。



「騙されないよう、しっかり私についてきてください。騙されると、死にますよ」











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