トクベツ×ト×マモリタイ






「ストレートだよね」というステラの言葉に、俺はハッとして頬に触れていた手を引っ込めた。確かに、今日はらしくねえことばっか言ってる。でも、そうさせたのは全部お前のせいだろ。ゴンの視線にも気づいて、余計に気まずくなる。



「……うるせえな。お前が変なことばっか言うからだろ」



俺は顔に集まる熱を誤魔化すように、わざとぶっきらぼうに言い放った。赤くなってるであろうステラの頬から目が離せない。心臓がうるさい。こいつといると、本当に調子が狂う。



「とにかく、もう俺の前から勝手にいなくなったりすんじゃねえぞ。分かったな?」



これは命令だ。俺はステラの紫色の瞳を真っ直ぐに見つめて念を押した。もう二度と、あんな思いはごめんだ。こいつは俺が守る。誰にも指一本触れさせねえ。



「えー! なにそれ、『ヨークシンには俺とゴンで行く、お前はついてくるな』って突き放したのキルアじゃん」

「ステラを置いていったこと後悔してたんだよねーキルアは」



ステラは口を尖らせて文句を言う。ゴンはにひっと笑って言った。

キルアは「うっ」と言葉に詰まり、ゴンとステラの攻撃的な視線に思わず後ずさる。そうだった。俺がヨークシンに行くって言って、ステラに「ついてくるな」って突き放したんだった。あまりにも俺らしくない発言をした自分に、内心で頭を抱える。



「そ、そんなんじゃねえよ!」



必死に否定しようとしたが、ステラの尖った表情とゴンの意地悪な笑顔に、言い訳が通用しないことは明らかだった。



「……ったく、うるせえな。わかったよ。お前も一緒に来いよ。でも、危ないことがあったら、その時は俺の言うことを聞くんだぞ。お前は……俺たちにとって特別なんだよ。だから、守らせろ」



渋々と認めつつも、心のどこかで安堵している自分がいた。ステラがいてくれた方が、落ち着くんだ。こいつが側にいないと、変なことばかり考えてしまう。



「認めた! キルアが認めた! 自分の過ちを素直に認めた! ……明日は雨かな?」



ステラは面白がってゴンと一緒になって連呼する。ゴンも「きっと大雨だよ!」と笑っていた。



「うるせぇな!」



俺は思わず大声を出して、二人を睨みつける。冷静さを失っている自分に驚きながらも、言葉を止めることができない。



「『守らせろ』って。ほんとキルアって意外と過保護なんだから。……特別って?」

「そうだよ、特別だって言ったんだ。だから何だよ」



ステラはゴンを見る。ゴンはキョトンとするだけだった。ステラの質問が胸に突き刺さる。ステラが困惑した表情で俺を見つめているのがわかる。俺は思わず視線を外してしまう。



「お前がいなくなったとき、俺...…」



言葉に詰まった。あの時感じた恐怖を言葉にするのは難しい。



「幻影旅団と一緒に死んでるなんて写真見せられて、頭が真っ白になったんだよ。たとえ偽物だってわかっても、あんな思いは二度としたくない。だから守るって決めたんだ。お前を失うくらいなら、俺が代わりに...…」



両手をポケットに突っ込み、少し顔を背け、言いかけて止まった。ステラの表情が心配そうに変わる。



「さっき、『別になんとも……』って言ってたのに、急にどうしたの? だめだよ。代わりになるなんて。絶対嫌だからね。『俺達にとって特別』って……ゴンも? 本当に?」

「当たり前だよ! キルアもステラも特別な友達なんだ!」



ゴンの「当たり前だよ!」という真っ直ぐな言葉に、俺はなぜか救われたような気持ちになる。そうだ、ゴンも同じ気持ちなんだ。俺一人で抱え込む必要なんてねえんだ。俺はステラの頭にポンと手を置き、少し乱暴に髪をかき混ぜた。



「……そういうことだよ。わかったか?」



ゴンの言葉を借りるみたいで少し癪だが、今はこれが精一杯だ。俺は少し照れくさくなって、わざとそっぽを向く。ステラの驚いたような、でもどこか嬉しそうな顔から目を逸らすためだ。



「だから、もう勝手なことすんじゃねえぞ。俺たちの目が届くところにいろ。お前がいないと、調子狂うんだよ」



これは本心だ。こいつがそばにいないだけで、こんなにも心がざわつく。もう二度と、あんな思いはしたくない。俺は決意を込めて、夜空を見上げた。ヨークシンの空も、こんな風に星が見えればいいんだがな。



「だからぁ、『ヨークシンには俺とゴンで行く、お前はついてくるな』って突き放したのキルアでしょ! 勝手なことなんてしてないもん」



ステラは口を尖らせて文句を言う。その後で少し不安そうにキルアを見た。



「……でも、これからも二人についていってもいいの? 私……その……流星街出身で、旅団の元仲間……だけど……」



ステラの口から出た「流星街」「旅団の元仲間」という言葉に、俺は息を呑んだ。心臓がドクンと嫌な音を立てる。だが、それも一瞬のことだった。目の前で不安そうに揺れる紫色の瞳を見たら、そんなことはどうでもよくなった。



「……だからなんだよ」



俺はステラの尖らせた唇に人差し指をそっと当てた。驚いて見開かれた瞳を、真っ直ぐに見つめ返す。



「お前がお前であることに変わりはねえだろ。どこで生まれて、昔誰といたかなんて、今の俺たちには関係ねえよ第一、俺だって元暗殺者だぜ? お互い様だろ」



そうだ。こいつがステラで、俺たちの仲間で、俺が守りたいと思った奴。それだけで十分だ。他のことなんて、知ったことか。俺は少し意地悪く笑って見せた。お前だけが暗い過去を背負ってると思うなよ。お前の過去も全部含めて、俺たちが受け止めてやる。だから、もうそんな顔すんな。



「そうだよ! 関係ないよ、そんなの! ステラは俺達の友達だ!」

「……うん、ありがとう。元暗殺者……そうだったね、ゾルディック家だもんね。……ちょっと忘れてたかも」



その時レオリオからゴンに連絡が入り『クラピカが倒れた。念能力を酷使しすぎたらしい。俺はすぐに病院に運んだ。安静にしていれば大丈夫だ』と書いてあり、ゴンがそれをキルアとステラにも見せた。

レオリオからの連絡を見て、さっきまでの和やかな空気が一瞬で張り詰める。クラピカが倒れた……?念の使いすぎだ?俺はゴンのスマホを覗き込み、眉をひそめた。



「……ったく、あいつは無茶しすぎなんだよ。緋の眼になると見境がなくなるからな」



舌打ちしながらも、胸の奥がざわつく。旅団のことで頭がいっぱいで、冷静さを欠いていたんだろう。俺はポケットに手を突っ込み、すぐに思考を切り替えた。



「で、病院はどこなんだ? 安静にしてれば大丈夫って言っても、放っておくわけにはいかねえだろ」



俺はゴンとステラの顔を交互に見る。ステラが心配そうな顔をしているのが気にかかるが、今はクラピカが優先だ。とにかく、すぐに行くぞ。

ゴンがレオリオと連絡を取り、「病院は……あっちの方だって!」と言って駆け出す。ステラも走り出してゴンの横に並んだ。



「クラピカ……大丈夫なの? というか私……クラピカのそばに行って大丈夫かな……?」

「大丈夫に決まってるよ! ステラはオレ達の仲間なんだから!」



ゴンの言葉に一瞬だけ安堵するが、すぐにステラの不安そうな横顔が目に入り、俺は眉を寄せた。クラピカがクルタ族の生き残りで、旅団を憎んでいることは知っている。ステラがそれを気にするのも当然だ。



「……馬鹿、何言ってんだよ」



俺は走りながらステラの腕を掴み、自分の隣に引き寄せた。こいつはすぐ一人で抱え込もうとする。



「ゴンの言う通りだ。それに、今はそんなこと気にしてる場合じゃねえだろ。クラピカが心配なら、そばにいてやれよ。それが仲間ってもんだろ」



それに、俺がお前を一人にするわけねえ。俺はステラの手をぎゅっと握り直した。言葉にはしないが、そう伝えようとする。病院までの道のりが、やけに長く感じられた。



「……なんか優しいキルアって調子狂うけど……ありがとう」



照れ隠しに憎まれ口を叩きながらもキルアの手を握り返した。もう片方の手はゴンが握りしめる。ゴンはにひっと笑いながら言う。



「そうだよ! それに、オレたちがついてるでしょ? 急ごう! クラピカが心配だ!」

「うん!」



ゴンとステラ、三人で手を繋いで走るなんて、ガキみてえで少し気恥ずかしい。でも、ステラが俺の手を握り返してきた時、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。俺の左手にはステラの温もり、右手はポケットの中。これでいい。これが、俺たちの形だ。



「……当たり前だろ。お前こそ、俺たちから離れんなよ」



ゴンの言葉に被せるように、ぶっきらぼうに言う。照れくさくて、前だけを向いて走った。夜の冷たい空気が火照った頬に心地いい。



「クラピカの奴、無茶しやがって……。あいつ、自分の限界とか考えねえからな。俺たちが行くまで、おとなしく寝てりゃいいけど」



病院の明かりが見えてきた。俺は繋いだ手に力を込める。不安そうなステラを安心させるように。そして、自分自身に言い聞かせるように。大丈夫だ。俺たちがついてる。

病院に駆け込むとベッドに寝かされたクラピカとその側に座るレオリオがいた。クラピカの額には濡れタオルが置かれている。レオリオは片手を挙げて出迎えた。



「よっ。クラピカは熱を出して寝てるから静かにな」

「クラピカ……。レオリオ……」



クラピカとレオリオは自分のことをどう思ってるんだろう。ステラはクラピカの事は心配だったが入り口付近で足を止め、近寄るのを躊躇う。

レオリオの静かな声が病室に響く。俺は入り口で立ち止まったステラの横顔を盗み見た。こいつ、また一人で考え込んでやがる。クラピカが旅団をどれだけ憎んでるか、嫌でも知ってるからな。不安になるのも無理はねえか。俺はステラの背中にそっと手を当てた。驚いて少し震えた肩が、こいつの不安を物語ってる。



「おい、ステラ。いつまでそこに突っ立ってんだよ。クラピカが心配なんだろ? だったら、さっさと顔見てこい」



俺はぐいっとステラの背中を押した。優しく言うなんて柄じゃねえ。でも、お前が一人で壁を作るのは、もう見たくねえんだよ。俺とゴンがここにいる。何も心配すんな。



「でも……目が覚めたときに私がいたらクラピカ、気も休まらないんじゃないかな……。私はクラピカの『緋の眼』には関わっていないけど、でも……」



キルアに背中を押されたが、ステラは首を横に振った。



「クラピカが心配だからこそ、負担をかけるようなことはしたくないの。私は……ここでいいよ……」



ステラの言葉に、俺は思わず小さくため息をついた。この距離感、どこか見覚えがある。俺だって、最初は同じだった。家族の血を引くってだけで、自分を責めて、周りを傷つけることを恐れて。



「バカ言うな。クラピカがお前を嫌うと思ってんのか? あいつはな、ハンター試験の時から、お前のことを信頼してたんだぜ。過去なんて関係ない。今、目の前にいる奴を見て判断するタイプなんだ」

「だけど……」



俺はステラの目をまっすぐ見つめ、低い声で続けた。病室の方をちらりと見やる。クラピカの青白い顔が見えた。



「それに...…お前が旅団と関わりがあったことを、あいつはもう知ってるはずだ。レオリオの大きな口からとっくに漏れてるさ。でもな、クラピカはお前をここまで仲間として受け入れた。それが全てだろ?」



俺は再びステラの肩に手を置き、優しく、でもしっかりと前に押す。



「行けよ。仲間だろ?」

「……うん……。ありがとう、キルア」



ステラはキルアに促されるようにしてクラピカのベッドに歩み寄る。それから不安そうにレオリオを見る。レオリオは立ち上がり、ステラの頭にポン、と手を置いた。ステラは驚いたようにレオリオを見上げたあと、クラピカに視線を向けた。



「クラピカ……」



ステラがクラピカのベッドサイドに歩み寄るのを、俺は少し離れた場所から見守っていた。レオリオの奴、意外と気が利くじゃねえか。ステラの頭に手を置くその仕草が、まるで「心配すんな」と言っているようで、少しだけ安心する。



「………」



ステラが不安げにクラピカを見つめている。その小さな背中が、今にも押し潰されそうだ。俺は無意識に一歩踏み出し、ステラのすぐ後ろに立つ。何かあったら、すぐに支えられるように。ゴンも隣に来て、心配そうにクラピカの顔を覗き込んでいる。静かな病室に、寝息と、俺たちの微かな呼吸音だけが響く。今はただ、クラピカが目を覚ますのを待つしかない。



「大丈夫だ。俺たちもいる」



聞こえるか聞こえないかくらいの声で、ステラに囁いた。お前はもう一人で抱え込む必要なんてねえんだよ。俺も、ゴンも、レオリオも、そしてあいつも……みんなお前の仲間なんだからな。











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