シショウ×ノ×シショウ
ゴンの唐突な言葉に、俺は少し面食らった。なんだよ、急に。
「……なんだよ、改まって。気色悪いな」
照れ隠しに悪態をつきながら、俺はそっぽを向く。だが、ゴンの真っ直ぐな瞳は、俺の心を捉えて離さない。こいつはいつもそうだ。恥ずかしいくらい、ストレートに感情をぶつけてくる。俺はステラの方をちらりと見た。あいつも驚いた顔をしているが、どこか嬉しそうだ。まあ、俺も……悪い気はしねえけど。
「……当たり前だろ。俺たち3人で最強なんだからな」
俺はぶっきらぼうにそう言って、再び歩き出した。耳が少し熱いのは、きっと気のせいだ。
「うん! 私、そんなに強くないかもだけど、サポートなら任せてよ! 火力アップ、拡散力アップだよ! それに治療も使えるよ!」
ステラもゴンとキルアを見て笑顔を浮かべた。ゴンがステラとキルアの肩を組んで「オレたち、サイコーのチームだよね!」と言った。ステラはゴンの肩に手を置いて笑顔で頷いた。
「もちろんだよ!」
ゴンの腕が俺とステラの肩に回される。ったく、こいつは距離感が近い。だが、その熱量が嫌じゃねえから不思議だ。ステラの笑顔がすぐ隣にあって、なんだか胸が騒がしくなる。
「……はいはい、わーったよ。最強でサイコーのチームな」
俺は呆れたように言いながらも、口元が緩むのを止められなかった。プレイヤー狩りだの、カード集めだの、面倒なことは山積みだが、こいつらと一緒なら退屈はしねえだろうな。
「で? 最強チームの最初の目標は何にするんだ? まさか、このまま突っ立ってるだけじゃねえだろうな、ゴン」
俺はわざと挑発するように言って、ゴンの顔を覗き込む。まずは情報収集か、それとも手近なイベントをこなすか。こいつの答え次第で、俺たちの冒険が始まる。
「気配を感じる。二人とも構えて!」
ステラはローラーシューズを起動して構える。しかしついてきていたのはロリータ服を着た金髪の少女一人だった。
「あの! 私を仲間に入れてください!」
突然現れた少女の言葉に、俺は思わず眉をひそめた。仲間に入れてくれ?さっきプレイヤー狩りのチームを断ったばっかりだっていうのに、またかよ。
「……はあ? あんた、誰だよ」
俺は警戒を解かずに、少女を頭のてっぺんからつま先まで観察する。金髪のロリータ服。このゲームの世界観に合っているようで、妙に浮いてる。ゴンもステラも、困惑したように少女を見つめていた。
「いきなり出てきて仲間に入れてくれって、そんな簡単に信用できるかよ。目的は何だ?」
俺は冷たく問いかける。こいつがただの世間知らずか、それとも何か裏のあるプレイヤーか。見極めねえと。この世界じゃ、人のいい奴から消えていくんだ。
「私はビスケット=クルーガー! プロハンター! これからは私がコーチしてやろうと思ってんの。特別にタダでいいよ! そのかわりビシビシ鍛えるわさ!」
その少女はどーんと胸を張って答えた。
「ハッ。 冗談言うな。見ただけで分かるぜ、お前より俺たちの方が強いって」
腕を組んで突き放すように言ったが、ビスケットの表情は全く崩れない。むしろ楽しそうに笑っている。ステラと目が合う。彼女も怪しいと思っているようだ。
「それに、タダでコーチしてくれるとか、怪しすぎるだろ。何か企んでるんじゃねーのか?」
ポケットに手を入れながら、万が一の攻撃に備える。こんな小さな女の子が本当にプロハンターだなんて信じられない。でも、この世界じゃ見た目で判断するのは危険だ。俺自身がそうだったように。
「あたしはウイングの師匠をしてたわよ。これでも57歳! 念を覚えて約40年、あんたたちより先を行ってるわさ! それからあたしは変化系よ!」
「「57!?」」
ゴンとステラは同時に声を上げた。その金髪の少女はびしっと人差し指を上に指していきなり「はい、凝。何が見えた?」と言う。
「「……数字の1!」」
ゴンとステラは同時に答えていた。ビスケットの堂々とした態度に、思わず目を細める。57歳?冗談にしても度が過ぎてる。でも、ウイングさんの師匠だと?それが本当なら、話は別だ。
「へえ、ウイングさんの師匠ねぇ」
わざとらしく肩をすくめて、懐疑的な視線を向ける。でも内心では警戒を強めていた。本当に強いなら、俺たちにとって貴重な出会いになるかもしれない。ステラの方をちらりと見る。彼女は少し興味を示しているようだ。ゴンは相変わらず純粋な好奇心で目を輝かせている。
「でもさ、本当に57歳だったら、なんでそんな見た目なんだよ。本当にそんなに強いのか見せてくれよ」
腕を組んで、ビスケットを観察する。もしそうなら、相当な実力者だ。GIでは強い味方が必要になる。でも、まだ全面的に信用するつもりはない。
「座って、ブック出して適当に相談してるふりして。あたしの背後に敵がいる」
突然ビスケは何かに反応し、手短に指示を出した。そして「気配を探ろうとしないで、敵に情報が伝わる。何か適当な話してて」と言った。
「……このカードって何に使うのかな?」
「あ、それ、さっきオレが拾った石だ。石もカード化されるなんて知らなかった」
ステラとゴンはすぐにブックを出して自然に話し出した。
こいつマジで本物かもな……。一瞬で状況を察知して的確な指示。まるで毒見の訓練を受けたみたいに俺たちの反応を見ている。
「へえ、石のカードか。どんな効果があるんだろうな」
自然に演じながら、周囲の気配を探る。直接"凝"を使わなくても、訓練された感覚で状況を把握できる。背後の気配は確かにある。数は……一人か二人。
「試してみれば? 何か特殊な効果があるかもしれないぜ」
ステラの方をさりげなく見る。彼女も察したようだ。敵の動きを待つ。手はポケットに入れたまま。いつでも電撃を放てるよう準備している。
そうして無関心を装いつつビスケは表情を変えず「敵は結構場数を踏んでるわね。この場合どうすればいいと思う? あんた達の意見は?」とブックを見てるふりをしながら言う。
「……このまま3人で行動する」
「オレも」
ゴンも頷いて同意する。ステラはキルアを見て首を傾けた。
「キルアはどう?」
ビスケットの言葉を聞きながら、カードを何気なく手のひらで回転させる。敵が場数を踏んでいるなら、下手に動くのは危険だ。
「このまま様子を見る。奴らが何を狙ってるのか見極めたほうがいい。今は敵の出方を待つ。下手に動いて変に警戒させるより、このままカードについて話し合ってる方が自然だろ」
ステラの問いかけに、ちょっとだけ視線を合わせる。彼女の紫色の瞳には不安と期待が混ざっている。そんな表情を見せられると、どうしても守りたくなる。ポケットに手を入れたまま、指先に少しずつ電気を集中させる。いつでも発動できるように準備しながら、ビスケットの反応を窺う。
「ん、まー正解だわね。でも敢えて別行動を取る。あたしが一人離れてあんた達三人から離れたら敵は100%あたしを追ってくる。そしたらあの高い岩山に着いたら絶をして、監視。いいわね?」
ビスケはそう言うといきなりキルアの頬にバチーンと派手な音を立ててビンタをした。呆気にとられるステラとゴン。
「そんなに言うならいいわよ! もうやってらんないわバイバイ!」
呆気にとられていたステラもとっさにビスケを睨んだ。
「ああそう、勝手にしてよ! さよなら!」
ビスケのビンタに一瞬思考が停止する。頬に走る熱い痛みよりも、その突然の行動に驚きを隠せない。ゴンの怒ったような声と、ステラの鋭い視線がビスケに突き刺さるのが分かった。こいつ、本気で俺たちと別れるつもりか?いや、違う。これは芝居だ。敵に見せるための。だとしたら、乗ってやるしかねえ。
「ああ、そうかよ! お前みたいな偉そうな奴、こっちから願い下げだ!」
わざとらしく吐き捨てて、ビスケに背を向ける。ステラが俺の服の裾を心配そうに掴むのが分かった。その小さな手を振り払わないように、そっと肩越しに彼女を見る。大丈夫だ、という合図を送るつもりで。
「行くぞ、ゴン、ステラ。あんな奴放っておこうぜ」
「え? あっ芝居なの?」
ゴンは今頃納得している。
「キルア、大丈夫……?」
ステラはキルアに身を寄せ、そっとキルアの叩かれて少し赤くなった頬に手を触れた。その間にもビスケは一瞬のうちに敵を床に叩きつけていた。そしてビスケは「念での戦いならあんたを殺してた」と言った。
頬に触れるステラの指先の柔らかさに、思わず心臓が跳ねる。さっきまでの殺気立った空気が嘘みたいだ。ビスケの芝居にまんまと乗せられたのは癪だが、今はステラの心配そうな顔の方が気になる。
「……平気だよ、これくらい。あいつ、手加減くらいはしたみてーだし」
俺はステラの手をそっと握って安心させるように微笑む。ゴンの間の抜けた声が聞こえるが、今は気にならなかった。ビスケは一瞬で敵を制圧した。さすが57歳、伊達じゃない。
「それより、すげえな、あの婆さん……いや、ビスケ。本当に一瞬だった」
「婆さんなんて本人に言ったら駄目だよキルア」
敵が倒れている方を見やる。念での戦いなら殺してた、か。ウイングさんの師匠ってのは本当らしい。こいつについていけば、俺たちはもっと強くなれるかもしれない。ステラを守るためにも、必要な力だ。
こうしてビスケの念の修行が始まった。ゴンとキルアは何かあったらすぐ凝を使う癖をつける特訓と、寝てる時でも危険を察知する特訓と、念を使ってトンネルを掘る特訓に明け暮れた。既に念を取得してるステラも少しだけアドバイスをした。
「だいぶ強くなってきたね。自然と凝を使う習慣も身についたし」
ステラはキルアとゴンとは別にビスケと体術訓練を行っていた。念は使えても肉体の方は強くないと自覚していたからだ。ステラは頬に擦り傷を作りながら笑った。
ステラの頬にある擦り傷を見て、俺は思わず眉をひそめた。体術訓練とはいえ、あいつ容赦ねえな。でも、ステラは痛そうな顔ひとつせず、嬉しそうに笑ってる。その強さに、少しだけ胸がチクリとした。
「たりめーだろ。誰に修行つけてもらってると……」
言いかけて、口をつぐむ。ビスケに修行つけられてるのは事実だが、それを素直に認めるのは癪だ。俺はそっぽを向き、ポケットに手を突っ込む。
「お前こそ、その傷どうしたんだよ。無理してんじゃねーの?」
ぶっきらぼうな言い方になったが、本心だった。ステラが強くなりたいって気持ちは分かる。でも、無茶してほしくない。ふと、ステラのツインテールが汗で少し首に張り付いているのが目に入り、なんだか落ち着かない気分になった。
「大丈夫だよ、ちょっとキツイけど……これくらいで音を上げるわけにいかないもん。私も、ゴンとキルアと一緒に冒険したいから。実際私って念は使えるけど多分一番弱いと思うから」
ゴンとキルアに追いつきたい。その一心だった。
ステラの言葉に、俺は思わず唇を噛んだ。弱い?こいつが?冗談じゃねえ。幻影旅団に育てられ、ジンに鍛えられた奴が弱いはずない。でも、その瞳は真剣で、俺たちに追いつきたいっていう必死さが伝わってきて、何も言えなくなった。
「……んなことねーよ。お前は弱くねえ。それに、一緒にいるのに強いとか弱いとか、関係ねーだろ」
やっと絞り出した声は、自分でも驚くほど優しかった。ステラの頭にそっと手を伸ばし、少し乱れたツインテールを撫でる。その髪が、思ったより柔らかくて驚いた。ゴンの言う「仲間」って、こういうことなのかもしれない。ただ隣にいて、支え合う。暗殺一家で育った俺には、まだ少し眩しすぎる考えだったけど。俺はステラから視線を外し、トンネルの奥を見つめた。
「俺たち、三人で強くなるんだよ」
「うん……ありがとうキルア。三人で強くなろうね! それにキルアも擦り傷ついてるから、おそろいだね」
ステラも手を伸ばし、キルアの擦り傷に触れない位置で手を止めた。念能力を使って風を操作し、癒やしの波動を送る。
「痛いの痛いの飛んでけ〜」
ステラの指先から流れ込んでくる、温かくて優しいオーラ。まるで陽だまりにいるみたいだ。擦り傷のヒリヒリした痛みが、すうっと引いていくのが分かる。なんだよ、これ……。念能力か?
「……っ、おい、何だよこれ……お前、こんなスゲー能力隠してたのかよ……」
驚きと、それ以上の戸惑いで声が上ずる。ステラの「痛いの痛いの飛んでけ〜」なんて子供っぽい呪文とは裏腹に、その力は本物だ。こんな能力、今まで見たことも聞いたこともねえ。俺は自分の頬に触れる。傷はもうほとんど塞がっていた。ステラを見つめると、彼女はただにこにこと笑っている。その無邪気な笑顔に、心臓がうるさく鳴り始めるのを感じて、俺は慌てて視線を逸らした。
「……これ使うと、ちょっと眠くなるんだけどね。体力消耗しちゃう、みたい……そう、私の欠点って体力のなさ……」
ビスケとの訓練の直後に使ったせいもあり、急激に体力が失われ、ステラはそのままキルアの肩にもたれかかって目を閉じた。
ステラの体重が不意にずしりとかかってきて、俺は慌ててその体を支えた。肩に触れる寝息がやけに静かで、さっきまでの元気な姿が嘘みたいだ。体力消耗しちまうって、こんな一瞬で眠っちまうほどなのかよ。
「おい、ステラ? ……マジで寝てんのか」
声をかけても反応はない。すうすうと規則正しい寝息だけが聞こえる。その無防備な寝顔を見ていたら、さっきまでの驚きがどこかへ消えて、代わりに胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……馬鹿野郎。無理しやがって」
悪態をつきながらも、その声は自然と優しくなる。起こさないようにそっとステラを抱え上げると、思ったよりも軽くて驚いた。この小さな体で、俺たちのために無理してたのか。俺はステラの額にかかった髪をそっと払い、その寝顔を見つめた。
「ゴン、ビスケのとこに戻るぞ。こいつ、寝かせねえと」