ドッヂ×ボール×ゲーム
修行しつつカード集めを開始する4人。目的は一つだ。その後はカードを手に入れるためにドッヂボールをする事になり、ステラとゴンとキルアとビスケとヒソカとゴレイヌとでチームを組んで参加した。しかし試合中にステラはボールに弾き飛ばされ、その場に倒れ込んだ。
ステラがボールに弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる光景がスローモーションのように見えた。心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。なんでこいつはいつも無茶ばっかり……!
「ステラッ!」
俺はゴンの叫び声と同時に駆け寄り、ステラの体を抱き起こす。ぐったりとした体は思ったよりも熱く、浅い呼吸を繰り返していた。その姿を見て焦りが胸を締め付ける。
「おい、しっかりしろ! ステラ!」
呼びかけても、紫色の瞳は虚ろに宙を見つめるだけだ。ヒソカの気配が背後で濃くなるのを感じたが、今はそんなことどうでもいい。このままじゃまずい。あいつの能力で自分を癒やす体力も残ってねぇんじゃねえのか?
「う……きる、あ……ごめん、失敗しちゃっ、た……」
ステラはゆっくりと身を起こし、痛みに顔を歪めながらもキルアに笑顔を浮かべた。
「私は大丈夫だから、ドッヂボール……絶対、勝ってね」
ステラの痩せ我慢に、俺の頭の中で何かがプツンと切れる音がした。大丈夫なわけあるかよ。顔は青白いし、声だって震えてる。なんでこいつは、いつも自分のこと後回しなんだ。
「……ふざけんな!」
俺は自分でも驚くほど低い声で怒鳴っていた。ステラの肩がびくりと震える。でも、止められなかった。
「何が大丈夫だ! お前がそんな状態で、勝って嬉しいわけねえだろ!」
俺はステラの体を無理やり抱え上げると、コートの外に向かって歩き出した。ゴンの戸惑ったような声が背後から聞こえるが、振り返らなかった。
「試合はゴンたちに任せる。お前は少し黙って休んでろ」
腕の中で、ステラが何か言いたそうに口を開くのが見えたが、俺はそれを無視した。今はとにかく、こいつを安全な場所で休ませることしか考えられなかった。お前のその無理な笑顔が、一番心臓に悪いってこと、分かってんのかよ。
「……ごめん、結局、足引っ張っちゃった……」
ステラはキルアに抱えられながらしゅんっと眉を下げて落ち込んでいる。
「でも、ありがとうキルア……キルアの腕の中って……なんか、安心するんだ……」
ステラはキルアの胸元に顔をすり寄せて安心しきった顔をする。
胸元にすり寄せられたステラの顔から、甘い匂いがして心臓が跳ねた。安心する、だと……?こいつ、自分が今どんな状況で、どんなこと言ってるか分かってんのかよ。さっきまでの怒りが、ステラの言葉一つで急速にしぼんでいく。
「……当たり前だろ。誰が運んでやってると思ってんだ。足引っ張ったとか、くだらねえこと考えてんじゃねえ。お前が無事なのが一番だっつーの」
悪態をつきながらも、腕の力を少しだけ強めて、ステラが落ちないように抱え直す。俺の腕の中で安心しきった顔を見せるなよ。調子が狂う。ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、その言葉は本心だった。コートから聞こえてくるゴンの雄叫びに、俺は小さく息をつく。あいつらなら、きっと勝ってくれるはずだ。だから今は、お前のことだけ考えさせてくれよ。
「……うん、キルアを独り占めした気分、かも。なんてね。あれ、今キルアの鼓動速くなった。大丈夫?」
ステラは顔を上げてキルアの顔を上目遣いに見つめる。
俺の心臓の音、こいつに聞こえてんのかよ……!ステラの上目遣いと「鼓動速くなった」っていう指摘に、俺は全身の血が顔に集まるのを感じた。やべえ、これは、どう考えてもやべえだろ!
「なっ……! んなわけねーだろ! お前を抱えてるから疲れてんだよ、バーカ!」
咄嗟に悪態をつくが、声は情けないくらい上擦っていた。ステラの紫色の瞳が、俺の動揺を見透かすようにじっと見つめてくる。その視線から逃れるように、俺はぷいっと顔をそむけた。試合会場の喧騒から離れた静かな場所に着くと、俺はステラをそっと木陰のベンチに座らせた。だが、その小さな体を離すのが名残惜しくて、俺は無意識にステラの腕を掴んだままだった。
「……とにかく、ここで大人しくしてろ。いいな?」
「うん、ここで休んでるから、キルアは試合に戻って。ゴンはきっと、キルアを待ってるよ。絶対勝つって信じてるから、ね」
ステラに重ねられた手の温かさと、「信じてる」という言葉が、俺の胸にずしりと響く。戻れ、だと?お前をここに一人置いて、試合に戻れっていうのかよ。ゴンが待ってるのは分かってる。でも、今はこの手を離したくなかった。
「……ああ、分かってる。すぐ戻ってくる。ゴンたちと、必ず勝ってな」
俺は短く答えると、ステラの手をそっと握り返した。名残惜しい気持ちを振り切るように、ゆっくりとその手を離す。そのまま振り返らずにコートに向かって駆け出す。背中にステラの視線を感じながら、俺は奥歯を噛みしめた。大丈夫だ。あいつは俺を信じてる。だったら、俺はその信頼に全力で応えるだけだ。今、俺の中で何かが燃え上がっていくのを感じた。
ドッヂボールに勝利し、無事カードを手に入れたがキルアの手はボロボロになっていた。骨は砕け、ひどく腫れ上がっている。
試合の興奮も、カードを手に入れた高揚感も、今はもうどうでもよかった。砕けた骨が軋む痛みさえ、どこか遠くに感じられる。俺の頭の中は、ステラのことでいっぱいだった。あいつ、ちゃんと休んでるだろうか。一人で不安になってねえだろうか。
「……ステラ」
早足でベンチに向かうと、ステラは俺の姿を認め、心配そうに駆け寄ってきた。その顔を見ただけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。俺はボロボロになった手を隠すように後ろに回した。こんな無様な姿、こいつに見せたくねえ。
「終わったぞ。約束通り、勝ってきた」
努めて普段通りの口調で言う。だが、ステラの紫色の瞳は、俺が隠した手の方をじっと見つめていた。その視線に、俺は思わずたじろいだ。
「おかえり、キルア」
ステラは隠されたキルアの手を取り、念能力を使って風を操作し、キルアの手の傷を癒やし始めた。
ステラの手が俺の手に触れた瞬間、ふわりと温かい風が吹き抜けた。風……?いや、これは念か。驚いて目を見開くと、骨が砕けるような激痛が、嘘みたいにすうっと引いていくのが分かった。腫れ上がっていた手の甲が、見る見るうちに元に戻っていく。
「お前、これ……」
ステラの念能力が癒やし系なのは知っていた。でも、こんなに強力だったとは。自分の体を癒やすだけでなく、他人の、しかもここまでボロボロになった怪我さえも治せるのか。
「……サンキュ。でも、無理すんなよ。お前も疲れてんだろ」
やっとのことで絞り出した言葉は、自分でも驚くほど素直な響きをしていた。俺はもう片方の手で、治療してくれているステラの頭をそっと撫でる。その髪は、思ったよりもずっと柔らかかった。
「……うん。大丈夫だよ。GIに来て、ちょっとだけ体力ついたみたい」
それでもステラの足元はどこか覚束ない。ステラの体がふらついたのを見て、俺はとっさにその肩を支えた。大丈夫だなんて言うけど、顔色はまだ悪い。こいつ、また無理してやがる。
「どこが大丈夫なんだよ。立ってんのもやっとな癖に」
呆れた声が出ちまう。俺の怪我を治すために、自分の限界まで念を使ったんだろう。その優しさが嬉しい反面、危なっかしくて見ていられねえ。
「おら、こっちにもたれろ。少し休むぞ」
「うん、ありがとう」
俺はステラの腕を引いて、もう一度ベンチに座らせる。ゴンたちがこっちに来るまで、少し時間があるはずだ。その間くらい、こいつのそばにいてやりたい。
「……ありがとな、ステラ。お前がいなきゃ、この手、当分動かせなかった」
隣に座り、さっき治してもらった手を開いたり閉じたりしながら、素直な気持ちを口にする。こいつの前だと、どうも調子が狂う。でも、それも悪くねえなって、今は思えるんだ。
「うん。サポートなら任せて。私、幻影旅団に拾われた時、サポート要員でもあったんだよね。ジンに念能力を教わって、攻撃技も会得したけど」
ステラはキルアの肩に頭を預ける。
「でもこれでキルアを癒せるなら嬉しいな」
ステラの言葉に、俺は思わず息を呑んだ。幻影旅団のサポート要員……?そんな過去があったのか。だから、こいつは他人のために自分を犠牲にすることに慣れちまってるのか。肩に預けられた重みと、「嬉しいな」という囁きが、俺の胸を締め付ける。
「……馬鹿。お前が無理してんの見て、俺が嬉しいわけねえだろ。お前はもう誰かのサポートじゃねえ。俺たちの仲間だ。ゴンも、俺も、お前を守りてえんだよ」
俺はそっとステラの頭に自分の頭を寄りかからせた。甘えるような仕草に心臓がうるさいけど、今はこいつを安心させてやりたかった。だから、もっと自分を大事にしろ。その言葉は、なぜか喉の奥でつっかえて出てこなかった。代わりに、俺はステラの小さな肩をそっと抱き寄せる。今はただ、この温もりを感じていたかった。
「……守りたいって……キルアはいつもそう言うよね。わ、私はそんなに頼りないかな……?」
ステラは不意にキルアに肩を抱きよせられ、キルアの体温と匂いに包み込まれるような気がして急に意識してしまい、頬を赤らめている。
肩を抱き寄せたステラの体温が、服越しにじわりと伝わってくる。頼りないかと聞かれ、俺は言葉に詰まった。頼りないとか、そういうことじゃねえ。ただ、放っておけねえんだ。こいつの危なっかしさも、時折見せる強さも、全部含めて。
「……そういう意味じゃねえよ。お前は強い。でも……なんていうか、見てるとハラハラすんだよ。自分のこと、もっと大事にしろって思う」
俺は視線を逸らし、ぶっきらぼうに呟く。頬が赤らんでいるステラの顔を直視できねえ。俺の鼓動も、さっきからうるさくてたまらなかった。その小さな肩が、どれだけのものを背負ってきたのか。俺にはまだ全部は分からねえ。でも、これからは俺も一緒に背負いてえ。そう思った。
「……おら、もう平気か? ゴンたちが戻ってきちまう前に、行くぞ」
照れくささを誤魔化すように立ち上がり、俺はステラに手を差し出した。この気まずい空気を何とかしたかった。差し出した俺の手も、少しだけ熱を持っていた。
「えっ……、う、うん……行こっか」
差し出された手を見て少し戸惑うような顔をしたあと、おずおずとその手を取って立ち上がった。キルアの手はなんだか熱を持っていて触れた瞬間心臓が小さく跳ねた。
ステラの小さな手が俺の手に触れた瞬間、胸がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。こいつの手、こんなに小さかったっけ?自分の手のひらに収まってしまうような繊細さに、妙に意識が向いてしまう。
「ああ、行こう。ゴンのやつ、きっと大はしゃぎしてるぜ」
ステラの横を歩きながら、時折チラチラと横顔を見る。夕日に照らされたピンクの髪が風になびくたび、なんだかそわそわする。いつもはそんなことないのに、なんでだ?
「な、なぁ……お前、そのツインテール……似合ってるな」
思わず口から出た言葉に、自分でも驚く。照れ隠しに少し早足になりながら、遠くに見えるゴンたちの姿に向かって歩を進めた。
「えっ!? なに、急に……?」
いきなりキルアから髪型を褒められてどきんと胸が高鳴る。慌ててキルアの後を追って走り出した。
「ねえ、どうしたのキルア。置いてかない……」
しかし追いつくとキルアの顔が真っ赤になっていて言葉を失う。
思わず速足になっていた俺の背中にステラの声が追いかけてくる。ヤバい、なんでこんな恥ずかしいことを口にしちまったんだ。絶対に顔が真っ赤になってるのがわかる。俺はぎこちなく振り返り、ステラと目が合った瞬間にまた視線を逸らす。
「べ、別に何でもねえよ! ただ……その……ただ似合ってると思っただけだ。変なこと言って悪かったな」
言葉に詰まる俺を見て、ステラは首を傾げている。その仕草がまた妙に可愛くて、余計に頭が混乱する。ため息をつきながら、少しだけペースを緩める。遠くからゴンの元気な声が聞こえてきた。
「お、ゴンたちだ。行くぞ、ステラ」
名前を呼びながら、思わず彼女の手を取っていた。この温もりに、なぜか慣れてきている自分がいることに気づく。
「えっ? うん……ゴンもビスケも嬉しそうにしてるね」
自然な流れでキルアに手を取られ驚いたがキルアと手を繋ぎながらゴンたちの元へと走っていく。キルアと手を繋ぐのはこれが初めてではないのにむずがゆくて変な気持ちだった。