アイマイ×ナ×ライン






ステラの手を握ったまま、ゴンたちに近づいていく。彼女の手のひらから伝わる柔らかな温もりが、胸の奥をくすぐる。こんな風に感じるのは初めてじゃないのに、なぜか今日は特別な気がして仕方がない。



「おいゴン! 待たせたな」



ステラの手をさりげなく離し、ゴンに手を振る。だが、ゴンの目はすぐにステラと俺の間を行ったり来たりして、意味深な笑顔を浮かべている。



「へぇ〜、二人とも仲良さそうだね! 何かあったの?」



ゴンの天然ともいえる直球質問に、思わず咳き込む。



「バ、バカ! 何もねーよ!ただちょっと遅れただけだ」



顔が熱くなるのを感じながら、ステラの方をチラリと見る。彼女も照れた様子で、なんだかそれが妙に安心感を覚える。



「さ、次の目標はどこにするんだ? カードコンプリートまでまだまだだろ」

「そうだよ! 別にいつも通りでしょ。残りのカードも早く集めようよ!」



無理矢理話題を変えながら、それでも心の中でステラの存在を強く感じていた。ステラも照れたように頬を赤らめながらもそう言ってそっぽを向いていた。

俺はゴンの意味深な笑顔から視線をそらし、無理矢理話題をカード収集に戻す。ステラも同じように頬を赤らめてるのが見えて、なんだか嬉しいような、恥ずかしいような。



「そうだな! 次のカードはスロットシティで手に入れるって聞いたぜ。そこはカジノみたいな街らしいから、俺の計算能力が役に立つかもな」



ビスケは腕を組みながら、じっと俺とステラを観察している。あの目は何かを見抜かれている気がして、背筋が冷える。



「あんたたち、なんか雰囲気変わったわね〜。まあいいわ、作戦を立てましょう。ステラの癒しの能力と、キルアの電撃能力をうまく使えば有利に戦えるはずよ」



ビスケの言葉に頷きながらも、さっきからステラとの距離が妙に気になる。近すぎず、遠すぎず、なんだかいい塩梅の距離感。



「よっしゃ! 俺、絶対に強くなってやるからな! ステラもついてこいよ!」

「よーし! 次もみんなでカード手に入れようね!」



ステラはゴンとキルアの手を取り握りしめるとそのまま駆け出した。こうすることでキルアと手を繋いでいだことを誤魔化す作戦だ。

慌てて引っ張られながら、ステラの手の感触に意識が集中してしまう。柔らかいのに、どこか力強さを感じる指先。さっきまでドキドキしていた心臓が、今は奇妙な安心感で満たされていく。



「おい、急に走り出すなよ!」



文句を言いながらも、手を離そうとはしない。ゴンも一緒だからこそ、逆に自然にステラと繋がっていられる。こんな機会、そうそうないんだから。



「スロットシティまではまだ少し距離があるぜ。途中でビバックしないとな」

「そうね、それがいいと思うわさ」



夕陽が地平線に近づき、森の中に長い影を作り始めている。ステラの横顔が夕日で染まって、思わず見とれてしまう。

ステラは、ふとキルアを見るとキルアもこっちを見ていてバッチリと目が合ってしまう。一瞬どきっとしたが目は逸らさず微笑んでみせた。



「……夕日、綺麗だね」



夕日に照らされたステラの微笑みに、心臓が跳ね上がる感覚。目を逸らせないまま、その紫色の瞳に吸い込まれそうになる。



「あ、ああ……綺麗だな」



言いながら、夕日ではなくステラの横顔を見つめたままだった。そのことに気づいて慌てて視線を空へと移す。

辺りは徐々に暗くなり始め、キャンプの準備を始める三人。焚き火の炎が揺らめく中、空を見上げると星が輝き始めていた。



「スロットシティで勝負するなら、賭け事の戦略も考えておかないとな。俺の計算なら、ある程度は勝てると思うけど……」

「キルア、ギャンブル自信あるの?」

「当たり前だろ!」

「これは破産するタイプと見たわさ」



ステラが近くに座ると、肩がかすかに触れ合い、一瞬体が強張る。だが、すぐに力が抜けていく。





「ステラの癒しの能力も、うまく使えば何かの役に立つかもな。でも無理はすんなよ。お前が倒れたら……その……心配、するから」

「うん、ありがとう。でもキルアもだよ? キルアが怪我したりしたら私も嫌だからね!」

「……わかってるよ。お前も無茶すんな」



ゴンは肩をかすかに触れ合わせるキルアとステラを見て何かを察したように「オレ、ちょっと水汲んでくるよ! ビスケも手伝ってくれる?」と言って駆け出していった。ビスケは意味ありげにステラとキルアをみてからゴンを追いかけていった。

ゴンの気遣いとビスケの視線に気づかないふりをして、俺は焚き火に視線を落とす。あいつ、意外と鋭いところあるよな。二人きりになったことで、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返る。沈黙が気まずくて、何か話さなきゃと思うのに、言葉が出てこねえ。ステラの横顔を盗み見る。炎に照らされた頬がほんのり赤く染まっているように見えた。俺のせいか、それとも火のせいか。確かめるのが怖くて、すぐに目を逸らす。肩が触れ合っている部分から、じんわりと熱が伝わってくる。



「それに、お前の能力は回復だけじゃねえだろ。ジンから色々教わったんだろ? いざとなったら、ちゃんと自分の身を守れよ」



俺はぶっきらぼうにそう言って、近くの枝を火の中に放り込んだ。パチパチと火の粉が舞い上がる。本当は、俺がお前を守るって言いてえのに、素直になれない自分がもどかしい。



「そうだね、大丈夫だよ。自分の身くらい自分で守れないとね」



ステラの返事に、どこか寂しさを感じてしまう。もっと頼ってほしいのに、「大丈夫」という言葉が壁のように感じられた。俺は膝を抱え、焚き火の揺らめきに視線を落とす。



「……別に、頼ったっていいんだぞ。俺だってゴンに助けられてばっかだし……それに、お前には……その、俺がついてるから」



自分でも驚くほど、素直な言葉が口からこぼれた。ステラが驚いてこっちを見る気配がする。言い終えた瞬間、顔から火が出そうになる。なんだよ、俺。何言ってんだ。恥ずかしさを誤魔化すように、わざとぶっきらぼうに付け加える。



「……ま、ゴンもいるけどな!」

「何急に。優しいキルアなんてちょっと気持ち悪いよ?」



ステラはからかうようににやっと笑ってみせた。最初の頃のことをちょっと思い出した。あの頃は、よくこんな事を口にしていた気がする。



「……でもありがとう。いつもキルアには助けられてるけどね」



ステラの言葉に、一瞬カチンときた。気持ち悪い、だと?俺がせっかく素直になってやったってのに、こいつは……。だが、すぐに続いた「ありがとう」という言葉に、怒りは霧のように消えていく。



「……っ、るせーな! 気持ち悪いは余計だ! ……お前が弱いだけだ」



照れ隠しに悪態をつきながら、そっぽを向く。だけど、口元が緩んでしまうのは止められなかった。助けられてるって、ちゃんとわかってんじゃねえか。それだけで、胸の奥が温かくなる。わざと意地悪く言ってやると、ステラが隣でくすくす笑う気配がした。その笑い声が心地よくて、俺もつられてしまいそうになる。夜が更けていく。この静かな時間が、ずっと続けばいいのに、なんてらしくないことを考えていた。



「……ゴンとビスケ、なかなか戻ってこないね。どこまで行ったんだろ?」



ステラはふと、ゴンが走り去ったいった方に目を向けた。心配そうなステラの顔を見て、肩をすくめる。ゴンとビスケのやつ、どこまで行ったんだか。



「あいつなら大丈夫だって。何か見つけたら夢中になるタイプだからな。ビスケもついてるし。それより……」



言いかけて、ふと口を閉じる。ステラの横顔が火の光に照らされて、普段よりずっと柔らかく見える。ピンクの髪が風になびいて、そのたびに甘い香りがする。



「……寒くないのか? 火に近づけよ」



何気なく言って、自分の座る位置を少しずらす。ステラが隣に来るスペースを作るように。この距離感が、どうしてこんなに俺の心臓をうるさくするんだろう。



「……え? う、うん……ありがとう」



ステラは一瞬驚いたようにキルアを見たがおずおずとキルアの作ったスペースに身を寄せた。一気に近くなる距離感にステラはキルアの方に顔を向けられなくなる。



「ゴンってそういうとこあるもんねー、困ったねえ。いつ戻ってくるんだろ?」



ステラが俺の隣に座ると、なぜかいつもより心臓の鼓動が速くなる。距離が近すぎて、彼女の髪の香りが風に乗って鼻をくすぐる。ステラはわざと俺から視線を外しているみたいだけど、その頬が焚き火の光より赤くなっているのが見えた。俺も何だか変な気分になる。



「ゴンのやつ、自分が見つけたものに夢中になりすぎて、他のことは全部忘れちゃうからな」

「そこがゴンのいいところでもあるんだけどね」



ステラの肩が俺の腕にかすかに触れて、思わず体が硬直する。でも、不思議と嫌な感じはしない。むしろ……心地いい。



「そうだな、ゴンはそこがいいんだよな。一直線すぎて、時々心配になるけど……寒くないか?」



その言葉は小さく、ほとんど囁くように出てきた。ステラの存在が近すぎて、普段の調子で話せないみたいだ。焚き火の炎がゆらめき、二人の影が大きく揺れる。この瞬間、ゴンがいなくて少し悪いけど、ホッとしている自分がいることに気づいた。早く戻ってきてほしいような……もう少しこのままでいたいような。変な気持ちだ。



「うん……キルアとこうしてるとあったかいし、寒くないよ」



ステラの言葉に小さく笑みをこぼす。この距離感が心地いいと思ってるのは、俺だけじゃないみたいだ。風が少し強くなり、ステラの髪が揺れて俺の腕に触れる。思わずその感触に息を呑む。こんな風に誰かと近くにいることなんて、今までなかった。



「……この世界での任務、ちゃんとクリアできるかな。俺、お前とゴンを守れるか自信ないんだよな」



本当は言うつもりなかった弱音が、なぜかこの距離感で自然と零れ出る。焚き火の炎が二人の間で踊り、その光がステラの紫色の瞳に映り込んでいる。



「でも……今はこうしていられて、悪くない。ゴンが戻ってきたら、また全力で走り出さなきゃならないしな」

「キルアはいつも守ろうとしてるよね……。私はそんなに頼りないかな。私だって守られるばかりじゃなくて、キルアのことも守りたいって思ってる……」



ステラは少し寂しそうに笑った。そのまま立ち上がり、テントに向かっていった。



「私、もう寝るね」



ステラが立ち上がった背中を見つめながら、胸に広がる妙な感情を抑えられない。言葉が足りなかったのかな……。



「待てよ……」

「え?」



思わず声が出た。ステラが振り返る。焚き火の光が彼女の顔を柔らかく照らしている。



「お前が頼りないなんて一言も言ってないだろ。逆だよ……あんな風に言ったのは……俺がお前といると、守りたいって気持ちが強くなりすぎるからだ」



言いながら、自分の頬が熱くなるのを感じる。こんな正直な言葉を口にするなんて、自分でも驚いた。



「でも……お前の気持ちも大事にしたい。俺たち……お互いを守ればいいんだ。そうだろ?」



ステラの表情が少し和らいだように見える。テントに消えていく彼女の後ろ姿を見送りながら、明日への期待と不安が入り混じった気持ちで焚き火を見つめた。焚き火の揺らめく光が、夜の静けさの中で唯一の慰めのようだった。ステラはテントに戻ったが、その背中を見送った後も、彼女の存在が焚き火の側に残っているような気がする。



「なんだか……変なヤツだな、俺」



ぽつりとつぶやき、膝を抱えて座る。炎を見つめながら、頭の中はステラのことでいっぱいになる。突然、遠くから物音がした。咄嗟に身構えるが、それはゴンではなかった。小さな動物が茂みをかすめていく。緊張が解けると同時に、ゴンの心配が湧いてきた。



「こんな時間まで何してるんだよ……あいつら」



立ち上がり、テントの方をちらりと見る。ステラは眠っているだろうか。明日はスロットシティへ向かう予定だ。ゴンが戻らなければ……そんな考えを振り払う。



「絶対に、二人とも守ってみせる。それが……俺のやり方だから」



決意を新たに、焚き火に少し薪を足した。明日への準備は整っている。あとはゴンとビスケを待つだけだ。











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