コクハク×ユウヤケ×ゴンドラ






「うん! 行ってみたい! ねえねえちょっとくらいは遊んでもいいんじゃない? 面白いところ案内してよ! あ、GIのカード集めがてらに、ね?」



ステラはワクワクしながら言うが、振り向いた瞬間に目を逸らすキルアを見て不思議そうに歩み寄り、その顔を覗き込む。



「……キルア?」



ステラの顔が近づいてきて、俺は思わず後ずさった。近い……近すぎるんだよ。その紫の瞳に吸い込まれそうで。



「お、おう! もちろんだ。遊びながらカード集めができるとこなら知ってるぜ」

「そんなとこあるの?」



落ち着きを取り戻そうと、俺は咳払いをした。ステラの期待に満ちた表情を見て、胸がキュッと締め付けられる。



「スロットシティの中央広場にはゲームセンターがあってな、そこでGIのプレイヤーがよく情報交換してるんだ。ついでに射的とかもできるぜ」



窓の外に広がる夜景を指さしながら、街の方角を説明する。ステラの髪から甘い香りがして、一瞬言葉に詰まった。



「あと、街の東側には……その、観覧車もあるんだ。景色もいいし……」



背後でゴンがニヤニヤと笑っているのが分かる。こいつ、絶対分かってやがる。



「えっ観覧車!? 乗ってみたい!」



ステラは楽しそうにはしゃいだ声を上げてキルアの手を取って喜んだ。



「ねえ、ゴンも行くでしょ? 観覧車! 私観覧車ってちょっと乗ってみたかったんだー!」



ステラの手が触れた瞬間、電流が走ったような感覚で体が固まる。手を引っ込めるタイミングを失い、そのまま握られた状態で頭が真っ白になる。



「あ、ああ………観覧車か! いいぜ、もちろん!」



興奮したステラの顔を見て、思わず声が弾んだ。ゴンに視線を向けると、あいつは意味ありげな笑みを浮かべている。



「ゴンも行くよな?」



半分は誘い、半分は助けを求める目で見つめる。ゴンはちらりとステラを見てから、にっこり笑った。



「うん! でも……あれ? カード集めの相談、ロビーでしたいって言ってたよね? ステラとキルアで先に行ってて。後から追いつくよ!」



ゴンの言葉に、心臓が跳ね上がる。こいつ、わざとやってるな……。でも、ステラの手がまだ俺の手を握ったままで、断る理由が見つからない。



「あれ、そうなの? えっと……じゃあカードの話し合い、しよっか?」



ステラはキルアの顔を見上げて問いかける。キルアの手を握っていたことに気づくとステラはさりげなくそっと離した。

ステラの手が離れた瞬間、不思議と寂しさを感じる。視線が合うと、思わず目をそらしてしまった。



「あ、ああ……そうだな。カードの話……」



言葉が途切れる。ゴンの『後から追いつく』という言葉が頭をよぎる。二人きりになるチャンスなのに、ここで逃げるのはダサすぎる。俺はゾルディック家の跡取りだったんだぞ。



「いや、カードの話は観覧車の中でもできるし、せっかくだからさ。ゴンがそう言うなら、先に行ってみるか? どうかな?」



自分で言っておきながら、心臓が早鐘を打つ。ステラの紫の瞳がキラキラと輝き、その表情に息を呑む。声がかすれるのを誤魔化しながら、少しだけ勇気を出して提案する。ゴンが背後でサムズアップしているのが見えるが、無視することにした。



「えっ? 今から!? てっきり明日行くのかと思ってた。もう夕暮れだけど……ほんとに今から観覧車行くの?」




ステラは驚いた顔をしてゴンと俺の顔を見比べている。ステラの言葉に胸が高鳴り、上着の裾を無意識に握りしめる。夕焼けに照らされる彼女の顔が、いつもより愛らしく見える。



「ああ、今からでもいいだろ。夕焼けの景色、きっと綺麗だぜ」

「あとからゴンも来るんだよね? じゃあ……行こっか。観覧車乗ってみたいし……」



そう言いながら、自然な流れでステラの隣を歩き始める。二人きりになる緊張と期待で、手のひらに汗をかいているのを感じる。観覧車が近づくにつれ、その巨大な輪郭が夕暮れに浮かび上がる。キルアは少しだけステラに近づき、肩が触れそうになる距離を保つ。



「なぁ、ステラ。実はゴン、あとから来るつもりないと思うんだ。あいつ、わざとこうしてるんだよ」

「……えっ?」



照れくさそうに頭をかく。声を潜めるように続ける。



「俺たち二人きりになるように……」

「どういう……こと? えっ……?」



観覧車のチケットを買い、並ぶ列に並びながら、キルアは言葉を選んでいる。ステラの横顔を盗み見て、心臓の鼓動が早まる。



「ステラに話したいことがあって……ちょうどいい機会かもしれない」

「話したいこと? カードの話?」



観覧車の乗り場に進む間、ステラの戸惑った表情を見て、自分の鼓動がさらに加速するのを感じる。さっきまでの自信が少し揺らいで、手のひらが冷たい汗でべたつく。



「ああ……まぁ、カードの話も……あるけどさ」



言葉が喉の奥で詰まる。観覧車のゴンドラに乗り込み、二人だけの空間に閉じ込められる。シートに座ったステラの向かいに腰掛け、窓の外に広がる夕暮れの街を見つめる。

観覧車のゴンドラに乗り込むとキルアと完全に二人きりの密室になって妙に意識してしまい、ステラは落ち着きなく窓のに目を向けた。初めて見る景色にステラは目をキラキラさせていた。



「わあっ、綺麗……!」

「ああ、キレイだな……」



徐々に上昇するゴンドラから見える景色に感嘆しつつ、実際にはステラの姿に見とれている自分に気づく。どう切り出せばいいのか、言葉が見つからない。



「ステラ、俺さ……お前のこと……」



緊張で声が裏返りそうになり、一度深呼吸をする。夕陽に照らされたステラのピンクの髪が風に揺れ、紫の瞳に夕焼けが映り込む様子に、胸が締め付けられる感覚。



「初めて会った時から、なんていうか……気になってたんだ」

「え……? 何、を……?」



真剣な表情のまま、ステラの驚いた顔をじっと見つめる。観覧車はゆっくりと上昇し、二人を街の喧騒から遠ざける。空気が重く感じる。



「お前のこと……好きなんだ」



告白の言葉を発した瞬間、胸の奥で何かが解き放たれたような感覚。けれど同時に、ステラの反応が怖くて、視線を少しだけ窓の外に逸らす。



「最初はスバルって名前の奴だと思ってて...…でも本当の姿を見た時から、ずっと気になってた。ゴンとはまた違う感じで……別に今すぐ返事がほしいわけじゃない。ただ……言っておきたかったんだ」



顔が熱くなるのを感じながら、再びステラに視線を向ける。夕陽に照らされたステラの表情を見つめる。

ステラは目を瞬きさせながらキルアを見つめていた。時が止まったような感覚だった。キルアに告白されたんだと理解するのに少し時間がかかった。



「……あ……」



頬が熱くなるのを感じる。ステラは頬を赤らめて少しだけ俯いた。



「私も……キルアが好き……」



観覧車が最高地点に近づくにつれ、ゴンドラが揺れる。ステラの言葉を聞いた瞬間、キルアの心臓が大きく跳ねる。信じられないというように瞳が開かれ、頬が紅潮する。



「本当か?」



思わず身を乗り出し、ステラの顔をもっとよく見ようとする。夕陽に照らされた彼女の赤い頬が、キルアの心を強く揺さぶる。



「なんか……変な感じだな。ドキドキする。ゴンに会った時とも違う。なんていうか……お前と一緒にいると、変に緊張するけど、安心もするんだ」



素直な気持ちを口にし、照れくさそうに髪をかきあげる。観覧車はちょうど頂点に達し、一瞬静止したように感じる。二人の周りに広がる景色は、まるで別世界のよう。



「……最初は上から目線で嫌な奴だなって思ってたけど……一緒に過ごすうちに、いつの間にか……好きになってた」



それからちょうど頂点に達した観覧車の外の景色に目を向ける。



「ね、ねえ、一番高いとこまで来てる……ね、すごい……」



観覧車の頂点で時間が止まったような感覚に包まれる。眼下には街の灯りが宝石のように煌めき、遠くには海の輪郭が夕闇に溶け始めていた。ステラの言葉に、胸の奥が熱くなる。



「ああ……すごいな」

「綺麗だね……向こう側の夕闇が深くなっていくのがよく見えるよ」



でも、俺が見ているのは窓の外の景色じゃなかった。ステラの横顔に落ちる夕陽の光が、彼女を何よりも美しく見せていた。キルアは照れ隠しに肩をすくめ、少し笑う。



「上から目線だって? まあ、最初はそうだったかもな。お前も最初は危なっかしい奴だなって思ってたけどよ……今はこうして……」

「今はこうして……?」



言葉に詰まりながら、恐る恐るステラの手に自分の手を重ねる。指先が触れた瞬間、電気のような感覚が走った。



「観覧車も下り始めるな。この時間が……ずっと続けばいいのに」



自分の手にキルアの手が重ねられると触れた指先から電気のような感覚が走り、ドキドキと胸を高鳴らせていた。そっと握り返してキルアの顔を見つめる。



「うん……私も、そう思う。ずっとこうしていたいね」

「ああ……」



観覧車がゆっくりと下降を始め、二人の手は自然と強く握り合ったままだ。ステラの小さな手からは意外な温かさが伝わってくる。言葉少なに返事をするが、その一言に多くの感情が詰まっている。風を切る音と車内の静けさだけが漂う空間で、俺はステラの紫色の瞳をまっすぐ見つめる。



「なあ、ステラ。下りたら……ゴンに何て言う? あいつ、絶対気づくぞ。まあ、どうせあいつは『よかったね!』って笑うだけかもな」

「ゴン……、そ、そう……だね……なんかちょっと恥ずかしいけど、この先も三人で冒険するんだし……」



緊張と期待が入り混じった声で尋ねると、ステラは照れくさそうにはにかんだ。俺たちの手が繋がったまま、観覧車は地上へと近づいていく。ステラのピンクの髪が夕暮れの光に揺れるのを見ながら、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。少し気恥ずかしそうに笑いながら、俺はステラの手をそっと握り直す。



「降りても……このままでいいか?」

「うん……もちろん、いいよ。私ももう少しこうしていたいから」



ステラもキルアの手を握り返した。キルアと手を繋いでゆっくりとゴンドラから降りていく。

観覧車から降り立った瞬間、俺たちの視界にはゴンの姿。まだ気づいていない様子だ。ステラの手を握ったまま、少し汗ばむ手のひらを感じる。



「よし、自然に振る舞おう。いつも通りに」



耳元で囁くと、ステラのうなじが少し赤くなるのが見えた。ゴンは笑顔でこちらに手を振り、駆け寄ってくる。俺たちの繋いだ手に気づいたのか、一瞬目を丸くするが、すぐに何も言わずに笑顔に戻る。



「おーい! 楽しかった? 次はどこに行く?」

「ああ、どこでもいいぞ。お前が行きたいところに付き合うよ」



ゴンは何も言わないが、視線が時々俺たちの手に落ちるのがわかる。意図的に気づかないふりをしているんだろう。こいつ、案外繊細だな。ステラの手を握ったまま歩き始める。この温もりが、昔抱えていた闇を少しずつ溶かしていくようだ。



「でも、もうすぐ日が落ちるな。どっか高いところから夜景でも見るか?」











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