アラタ×ナ×カンケイ
それから三人で夜景を見たあとにホテルに戻った。夕食もお風呂も済ませてあとは寝るだけだった。三人がけの大きなベッドにステラは腰掛けていた。
「楽しかったね。観覧車、きれいだった」
ベッドに腰掛けながら、ステラの言葉に微笑む。窓から漏れる月明かりが彼女のピンクの髪を銀色に染めていた。
「ああ、景色もよかったけど...…」
言いかけて口を閉じる。ゴンがバスルームから出てくるのが聞こえた。さっき手を繋いでいたときの感触がまだ手のひらに残っている気がする。
「お、ゴン。もう寝るのか?」
「うん! 明日も早いからね。それにさ...…」
ゴンはタオルで髪を拭きながらニコッと笑った。ゴンは意味ありげに俺たちを見て、不自然に大きなあくびをする。
「急に眠くなっちゃったよ。先に寝るね。キルアとステラは、もう少し話してていいよ!」
そう言うと、ゴンはベッドの端に潜り込み、わざとらしく背中を向けた。バレバレの配慮に、思わず頬が熱くなる。
「あいつ...…気づいてるな」
小声で言いながら、恐る恐るステラの手に自分の手を重ねる。月明かりの中、ステラの紫色の瞳が輝いているのが見えた。
ステラはキルアの手が重ねられると一瞬びくりと手を跳ねさせた。
「う……こんなことならベッド3つある部屋にするんだった。……キルア……は、眠くない……?」
ゴンのあからさまな配慮に赤くなって俯いた。告白される前に取った宿だったからこの事態を想定していなかった。ベッドの上でキルアの手が重ねられ、まっすぐに見つめられる。その顔を直視できずに俯いた。
ステラの言葉に小さく笑みを浮かべる。その顔を俯かせる仕草が妙に可愛くて、心臓が高鳴るのを感じた。
「全然眠くないぞ。むしろ今、すごく冴えてる。なあ、ステラ...…さっきの観覧車で言ったこと、本気だからな」
そっと指を絡めながら、ステラの手を優しく握る。ゴンの寝息が聞こえ始めたが、演技なのか本当に寝たのか判断できない。声を少し落として続ける。少し間を置いて、ステラの顔を見上げようと身を寄せる。心臓の鼓動が耳まで届きそうだ。
「俺、お前のこと、ずっと...…その...…好きだった。今日言えてよかった。ゴンには明日にでも話そうな。あいつなら...…きっと喜んでくれるよ」
月の光がステラのピンクの髪を銀色に染める。この瞬間を永遠に覚えていたいと思った。
「キルアは……初めから、その、告白するつもりで観覧車の話を持ち出したの? いつから……私の事意識してたの? ハンター試験で出会ってからずっと一緒に過ごしてきたよね」
あの時はただただ観覧車に乗るのが初めてで楽しみで、それ以外の意味なんて考えてなかった。でも今はこの関係をゴンに話すという言葉に胸が高鳴る。
「ゴンに話してくれるなら……わ、私も一緒に行くからね」
ステラの質問に、思わず手が少し震える。いつから好きだったのか、自分でも正確には言えない。でも、あの瞬間のことは鮮明に覚えている。
「最初は男だと思ってたんだぜ? 『スバル』って名前で男装してたからな。でも本当の姿を見た時、なんか...…胸がざわついた。天空闘技場で一緒に訓練した時とか、ゴンと三人で過ごした日々とか...…気づいたら、お前のことばっか見てた」
少し恥ずかしそうに髪をかきあげながら、ステラの手をそっと握りしめる。月明かりに照らされたステラの顔を見つめ、思い切って腕を伸ばして肩を抱く。小さく笑いながら、ステラの髪に触れる。ピンクの髪が月の光を反射して、とても綺麗だと思った。
「ああ、ゴンには二人で話そう。あいつ、絶対喜ぶよ。『やっと言ったのかー!』とかって」
キルアに肩を抱き寄せられ、少し驚いた顔をする。キルアとの距離が近くなり、身体が密着する。キルアの空いてる方の手を握りしめた。
「って事は……私が男装してたのを明かした瞬間からキルアとの関係は変わってたんだね。私、性別を明かすのが少し怖かったんだよね。話したらこの友達関係が変わってしまうかもしれないって。でも……良い変化、だったのかも……」
キルアの言葉に笑う。
「やっと言ったのかーって、ゴンはいつから知ってたの? キルアの気持ちを」
ステラの言葉に、一瞬言葉が詰まる。ゴンのことだ、きっと俺が自覚するよりもずっと前から気づいていたんだろう。あいつはそういう奴だからな。肩をすくめながら、抱き寄せた腕に少し力を込める。ステラの体温が伝わってきて、胸の奥が温かくなる。
「さあな。あいつ、妙に勘が鋭いから...…多分、結構前から気づいてたんじゃねえか?」
「そっか……なんかそう考えたら今までの事が急に恥ずかしくなってきた」
「お前が女だって分かった時、驚いたけど...…それ以上に、なんか嬉しかったんだ。お前との関係が変わるのが怖かったって...…俺もだよ。でも、こうなってよかった」
ステラの握り返してくれた手に、自分の気持ちが伝わるように力を込める。月明かりが部屋を静かに照らす中、二人の時間だけがゆっくりと流れていく。
「明日、ゴンに話したら...…三人でまた新しい冒険が始まるな。今度は...…今までとは少し違う関係でさ」
「え……私が女で、嬉しかったの……? 違う関係での冒険……なんか別の意味でもドキドキする」
ステラの驚いた表情を見て、自分の正直な気持ちを口にしたことに照れが込み上げてくる。でも、もう隠す必要はないんだ。
「ああ...…嬉しかったよ。なんていうか、お前が男だと思ってた時も、一緒にいて楽しかったけど...…女だって知った時、なんか可能性が広がったというか」
言葉に詰まりながらも、ステラの目をまっすぐ見つめる。
「別にお前が男でも女でも、ステラはステラだけどさ。ただ...…こうして抱きしめられるのは、やっぱり嬉しいんだ」
ステラの髪を優しく撫でながら、少し照れくさそうに笑う。夜風が窓から入ってきて、二人の髪を揺らす。
「可能性が広がった……? それは、友達よりもっと近い距離を想像してたって事?」
ステラもキルアの目を見つめ返す。こんなに至近距離からキルアの目を見つめたのは初めてかもしれない、と思った。キルアの手が優しくステラの髪を撫でていた。キルアに肩を抱かれて、こうしているのが少し不思議で、でもすごく心地よかった。
「ま、まあ...…そういうことかな。ずっとお前のことが気になってたんだよ。ただの友達として見られなくなっていたんだ。でも最初は男だと思ってたから、自分でも混乱してて...…」
顔が熱くなるのを感じながら、ステラの言葉に正直に答えようと決める。ステラの顔を見つめながら、言葉が自然と溢れ出す。
「ゴンは絶対喜ぶよ。きっと『おめでとー!』って全力で言ってくるんだろうな。あいつ、意外と大人なところもあるからさ、気づかないふりしてたのかもしれない」
「ふふ、ゴンに感謝しないとね。ずっと見守ってくれてたって事だもんね」
「ゴンには本当に感謝してる。あいつがいなかったら、こうして...…こんな風になることもなかった」
窓の外から聞こえる虫の音に耳を傾けながら、少し間を置く。ステラの手を取り、小さく微笑む。
「明日ゴンに話す時、絶対笑われるよな...…でも、いいんだ。俺たちの冒険、これからもずっと続くんだから。次はどんな場所に行こうか? 三人で見たい景色、まだまだたくさんあるよな」
「まずはGIで手に入れたカード使ってジンに会いに行くんでしょ? それにはここをクリアしないとだけど」
「そうだな、まずはGIクリアだ。ジンに会うためにも全力で協力するよ。」
キルアはステラの目を覗き込むように見つめる。ステラもキルアの顔を見つめながらキルアの手を握り返した。そして思い出したように言う。
「ハンター試験の後、男装を明かしてからはキルアとは喧嘩ばかりしてたよね。私がまだ友達として見てるのに、キルアの意識だけが変わってたからだったのかな。今思うと」
俺はくすっと笑いながら、ステラの言葉を思い返す。
「そうだったな。お前が女の子だって分かってからは、なんか変に意識しちゃって...…どう接していいか分からなくなってたんだ。だから余計に意地になってたのかも」
二人の握った手を見つめ、親指でステラの手の甲を優しく撫でる。
「それにしても、こうしてるのが不思議だな。数日前までは喧嘩ばかりしてたのに...…でも、やっぱりこっちの方がずっといい」
ふと窓の外を見て、夜空に浮かぶ星を見上げる。
「私ね……星って好きなの。だってキルアみたいだから。特に電撃を放つキルアはお星様みたいに綺麗だよ。だからね……」
ステラはキルアに少しもたれかかってうとうとしている。キルアの体温が心地よくて、そのまま目を閉じて眠ってしまった。三人がけのベッドの端ではゴンが既に寝息を立てて眠っていた。
ステラの言葉が、静かな夜に響く。星みたいに綺麗……?俺が?予想外の言葉に、心臓が大きく跳ねた。顔が熱くなるのを感じる。そんな風に思ったこと、一度もなかったから。
「なっ……お前、何言って……」
言い返そうとしたが、肩にかかる重みと穏やかな寝息に気づく。俺にもたれかかったまま、ステラはもう夢の中だ。無防備な寝顔は、今まで見てきたどんな表情よりも愛おしく思えた。
「……反則だろ、そんなこと言って寝るなんて」
小さな声で悪態をつきながらも、口元が緩むのを止められない。俺はステラを起こさないようにそっと身体を支え、ゆっくりとベッドに横たえる。ゴンが寝ている反対側のスペースに、静かに。そして、その隣に自分も滑り込んだ。
「おやすみ、ステラ」
囁きかけるように言うと、俺はステラの髪にそっと触れた。明日、ゴンに話したら、どんな顔をするだろうか。きっと、この幸せな時間は、もっと賑やかで楽しいものになる。そんな未来を思い描きながら、俺も静かに目を閉じた。