ショウソウ×ト×コンラン






ステラの能力で全身に風が纏わりつくのを感じる。体が軽くなり、力がみなぎってくる。すげえ……これがこいつの能力か。ゾクゾクするような高揚感と同時に、隣で戦うステラを守らなきゃならねえっていう強い使命感が湧き上がってきた。



「サンキュー、ステラ! 助かるぜ!」



ニヤリと口角を上げて、襲い来る蟻の化け物を見据える。カイトが叫ぶより先に、俺は地面を蹴っていた。身体能力が倍増した今なら、こいつらの動きにも十分ついていける。



「まずは俺が様子を見る! ゴンは援護を頼む!」



手の中に電気を集中させ、瞬時に敵の懐へ飛び込む。ただの獣じゃねえ。こいつら、間違いなく念を使ってる。だが、今の俺の速さなら!



「雷掌(イズツシ)!」



俺の放った電撃が蟻の体を直撃し、甲高い悲鳴を上げさせた。だが、倒すには至らない。ちっ、思ったよりタフだな……!

キルアの攻撃が弾かれたのを見て、ステラは息を呑んだ。今の電撃でも決定打にならないなんて……!これがキメラアントの強さ……!



「キルア、下手に近づくな! 奴は強化系だ!」



カイトが冷静に叫ぶ。ステラは自分の無力さに唇を噛んだ。ジンに教わった念。でも、それだけじゃ足りない。何か、私だけの武器が……!まだだ……!ジンとの修行で学んだのは、ただサポートするだけではない。



「風の刃(ウイングソード)!」



ステラは両腕を薙ぐように振るう。凝縮された風の刃が複数、キメラアントに向かって飛翔した。



「風の靴(シルフステップ)!」



同時にステラは地面を蹴り、驚異的な速度でキルアの隣に着地する。彼の背中を守るように。

背後からステラの気配がして、思わず振り返りそうになるのを堪える。無茶しやがって……!だが、そのおかげで隙ができた。風の刃がキメラアントの硬い外骨格を切り裂き、奴の動きが一瞬鈍る。



「ナイス、ステラ!」



今だ!俺はステラの作り出した好機を逃さない。増強された身体能力に、さらに電光石火を上乗せする。



「お前の相手は俺だろ!」



敵の注意を再び俺に引きつけ、一気に間合いを詰めた。連携なら、俺たちが負けるわけねえ!

キルアの動きに合わせ、ステラはさらに念を練り上げる。彼の速さに、私の力を乗せる!



「"追い風"(ブースト)! キルアに私の風を!」



操作系の能力で、風のオーラをキルアに付与する。彼の神速(カンムル)に追い風が加わり、動きがさらに加速した。



「ゴン、今よ! 奴の死角から!」



私の声に、ゴンが大きく頷く。三人の呼吸が、今、一つになった。

ステラが付与してくれた風のオーラが、俺の神速と完全に一体化する。視界が加速し、敵の動きがスローモーションに見えた。これなら……!



「ステラ、ゴンから離れるな! 俺が一気に動きを止める!」



地面を蹴る。雷鳴のような轟音と共に、俺の体は敵の懐へと閃光のように飛び込んだ。こいつの硬い甲殻ごと、全身の神経を焼き切ってやる!

キルアがとどめを刺すと、ステラは安堵の息をつき、キルアとゴンに駆け寄る。



「二人とも、大丈夫? これが、キメラアント……。これでも雑魚の方なんだろうね、きっと……」



ステラは不安そうに呟いた。

キメラアントの死骸から目を離し、不安そうな顔をするステラを見る。俺は無意識に彼女の頭に手を置いていた。



「……ああ。だが、心配すんな。俺たち三人なら、どんな敵が来ても大丈夫だろ」



ステラの髪は思ったより柔らかい。少し気まずくなって手を離すと、俺はゴンの方を向いた。



「それより、カイトはどこ行った? さっきから気配が遠ざかってる」



カイトは先の方にいたキメラアントを倒して振り返る。



「お前ら、やるじゃないか」



感心したように言ってからカイトは「先へ急ぐぞ。こいつらが繁殖し出したら……世界が滅亡しかねない」と続けた。カイトの言葉に息を呑む。世界が滅亡……?ただの魔獣じゃねえってことか。ステラを見ると、彼女も同じように顔を強張らせていた。俺はステラの隣に一歩寄り、彼女の手を強く握る。



「繁殖って……どういうことだよ? こいつら、もっといるのか?」



不安を隠せない。だけど、ステラの前で弱気な姿は見せたくない。握った手に力を込めた。キルアの問いに、カイトは重々しく口を開いた。



「奴らは女王が産む。そして、女王は他の生物を捕食し、その生物の特徴を持った子供を産むんだ。もし人間を捕食し続ければ……」



その言葉に、ステラはぞっとした。キルアの握る手に力がこもるのがわかる。



「……私たちが、あんな化け物に……?」



その光景を想像し、ステラの声は微かに震えた。震えるステラの声に、俺はハッとする。握った手にさらに力を込め、彼女の顔を覗き込んだ。



「……んなことさせねぇよ。絶対に」




不安を振り払うように、強い口調で言い切る。ステラを守る。その決意が、恐怖よりも強く俺の心を支配した。



「女王がいる場所さえ分かれば、叩くのはそこだけでいいはずだ。行くぞ、ステラ」



ステラはキルアの手を握りしめた。しかし遥か彼方にいるピトーの円に引っかかり、ピトーは驚異的跳躍力とスピードで飛んだ。一直線にカイト、ゴン、キルア、ステラの元へ飛んできてその鋭い爪を光らせた。カイトが叫ぶ。



「逃げろ! お前たちが敵う相手じゃねえ!」



だが、もう遅い。鋭い爪がカイトの腕を切り落とした。



「カイトっ!!」



ステラの悲鳴が響く。ゴンもキルアもステラも反応できず、気付いたらカイトの腕がなくなっていた。

ステラの悲鳴が耳をつんざく。目の前の光景が信じられない。カイトの腕が……ない。俺の体は恐怖で縫い付けられたように動かなかった。



「……ステラ、ゴンを連れて逃げろ!」



震える声を必死に抑え込み、二人を背中に庇うように立つ。こいつは……次元が違う。それでも、俺がこいつをここで食い止めなきゃ、ステラが死ぬ。



「カイト……が……っうわああああああああああっ!!」



カイトがやられて見境をなくしたゴンは一直線にピトーに向かって突っ込んでいく。



「ゴン!!」



ステラは咄嗟に反応してゴンの体をキルアの方へと弾き飛ばした。その瞬間、ピトーの爪がステラの身体を貫いていた。ステラの体が爪で串刺しになる。



「いっ……う……」



ステラは咄嗟に水を操作する念能力を使って自分の血液を押し留めた。そのまま地面に倒れ込む。

目の前で起きたことが、スローモーションのように見えた。ゴンを庇って、ステラの体が貫かれる。赤い、赤い飛沫が宙を舞い、俺の頬に生温かい感触を残した。息が、止まる。



「……ステラッ!!!!」



喉を引き裂くような叫び声が、自分のものであると理解するのに数秒かかった。頭が真っ白になる。恐怖で固まっていた足が、ようやく動く。違う、動け。動け、俺の足!

倒れ込むステラの小さな体に駆け寄る。その腹からは信じられない量の血が流れていて、俺の手が真っ赤に染まっていく。嘘だろ、おい、なんで……。



「しっかりしろ! ステラ! 死ぬな!」



呼びかけても、ステラの紫色の瞳から光が消えていく。ゴンが怒りに我を忘れてピトーに向かっていくのが見えた。止めなきゃ、あいつも死ぬ。でも、腕の中のステラが……冷たくなっていく……!



「お前ら、早くステラを連れて逃げろ! ゴン! ステラをこのまま死なせるな!」



カイトが叫び、片腕でピトーに立ち向かっていく。



「こいつは俺に任せて早く逃げろ!!」



カイトの悲痛な叫びが、俺の耳を殴りつけた。腕の中のステラはぐったりとして、血の匂いが鼻につく。死なせるな……?分かってる、そんなこと!



「くそっ……! くそっ!」



ステラの体を慎重に、だが素早く抱え上げる。思ったよりずっと軽い。こんな小さな体で、ゴンを庇いやがって……。怒りと絶望で、視界がぐにゃりと歪む。ゴンが怒りでピトーに突進しようとするのを、残った腕でなんとか抑える。こいつまで失うわけにはいかねえ!



「ゴン! しっかりしろ! ステラが死んじまうぞ!」



俺の言葉に、ゴンの動きが止まる。その隙に、俺はステラを抱えたまま地面を蹴った。カイト、死ぬなよ……!絶対に!

ゴンはキルアを追って走る。二人とも全身汗だくになりながら森を抜けて元の場所に戻ってきた。キルアのタートルネックが汗を吸ってぐっしょりと濡れている。



「キル……ア……好き、だよ……ごめん……ね」



ステラは必死に癒やしの風の念能力で自己治療をするがその力は弱まっていく。そのまま眠るように目を閉じ、だらりとその手が落ちた。ステラの言葉が、頭の中で何度もこだまする。



───好きだよ……ごめんね。



なんで謝るんだよ。なんで……! 腕の中でぐったりとしたステラの体温が、少しずつ失われていくのが分かる。心臓が氷の塊になったみたいに冷えていく。



「……ステラ? おい、ステラ! 目ぇ開けろよ!」



必死に呼びかけるが、閉じられた瞼はぴくりとも動かない。弱々しく続いていた念のオーラが、完全に消えた。嘘だろ。冗談だろ、おい!



「ゴン! もっと速く走れ! このままじゃステラが……ステラが死んじまう!」



背後を走るゴンに叫ぶ。声が震えているのが自分でも分かった。抱きかかえる腕に力がこもる。頼むから、死なないでくれ。お前がいなくなったら、俺は……。意識を失ったステラの心音がゆっくりになっていく。腕の中でステラの心音がどんどん弱くなっていくのが、抱きしめる腕を通して直接伝わってくる。ドクン……ドクン……と、命の灯火が消えかけるように間隔が長くなっていく。クソ、まずい、まずい……!



「おい、しっかりしろ! 寝るな、ステラ!」



焦りが全身を駆け巡り、俺は無我夢中で叫んでいた。返事がないことは分かっている。それでも、声をかけ続けなければ、こいつの意識が本当にどこかへ行ってしまいそうで怖かった。



「ゴン! この近くに町か村はねえのか!? 医者がいる場所ならどこでもいい!」



背後を走るゴンに怒鳴るように尋ねる。もう俺の電気じゃどうにもならねえ。医療の念能力者か、せめて腕のいい医者が必要だ。頼む、間に合ってくれ……!



「……ぁ……、」



ゴンは泣きそうになりながら必死に匂いをかぎ分け、町のある方を指差す。



「あっちだ!」



不意に頬を撫でた風。それが合図だったかのように、腕の中で刻まれていた微かな鼓動が、ぷつりと途絶えた。全身の血が凍りつく。嘘だろ。心音が、ない。



「……え?」



ステラの胸に耳を当てる。何も聞こえない。静寂が耳鳴りのように頭に響く。さっきまで確かにあった温もりが、急速に失われていく。



「おい……冗談だろ、ステラ! 起きろよ! ステラッ!」



必死に体を揺するが、人形のようにぐったりとしたままだ。俺は自分の掌に電気を集中させ、簡易的なAEDのようにステラの胸に押し当てる。ドクン!と体は跳ねるが、心臓は動かない。



「動け……動けよ! クソッ!」



何度も、何度も電気を流す。焦りと絶望で、視界が滲んでいく。死なせない。絶対に、死なせてたまるか!その時、微かにとくん……と心音が鳴る。



「血が足りてないんだ! 循環ができなくて、すごくゆっくりになってる!」



それを見たゴンが慌てて叫んだ。ゴンの叫びが、絶望に沈んでいた俺の意識を無理やり引き戻した。微かに、本当に微かに、ステラの心臓が動いた。血が足りねえ……?循環ができてねえ……?そうか、血か!



「血……!」



俺は迷わず自分の手首に噛みついた。鋭い痛みと共に、鉄錆びの匂いが口の中に広がる。早く、一秒でも早くこいつに……!ステラの唇に自分の手首を押し付け、流れ出る血を口元へと運ぶ。頼む、飲んでくれ。俺のでよければ、いくらでもくれてやるから。



「……ステラ、しっかりしろ……!」



血を流し込みながら、もう片方の手でステラの胸に電気を流し続ける。心臓を無理やり動かしてでも、全身に血を送らねえと。ゴンの指差す方向を睨みつける。町……あそこまで行けば、助かるかもしれない。絶対に、助ける。お前を失うなんて、もう二度とごめんだ。

ステラの喉がこくんと動いてキルアの血を飲み込んでいく。ほんの少しだけステラに体温が戻り、心音がゆっくりと動き出す。

ステラの喉が微かに動くのを感じ、俺は安堵と焦りが入り混じった複雑な感情に襲われる。腕の中の体がほんの少しだけ温かさを取り戻した。弱々しいが、確かに心臓が動いている。まだだ、まだ死なせねえ。



「……よし、いい子だ。そのまま飲め」



自分の血を流し込み続けながら、ゴンの指差す方向へ再び走り出す。森を抜け、開けた荒野の向こうに、ようやく小さな町の灯りが見えた。希望の光だ。



「ゴン! 先に行って医者を探せ! 俺はステラを連れてすぐに行く!」



ステラを安全な場所に運ぶまで、絶対に死なせるわけにはいかねえ。何があっても、こいつだけは守り抜く。



「わかった!」



ゴンは全速力で駆け出す。











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