ヒカリ×ガ×キエタ
シュートとナックル。モラウの弟子である二人と対峙する。
「ステラを待たせてるんだ、時間はかけられねぇ」
キルアは指の関節をポキリと鳴らし、全身に薄っすらと電光を纏わせる。悲しみに沈んでいる暇はない。ステラを迎えに行くためには、目の前の壁を越えなければならない。
「ゴン、準備はいいか? ……こいつらを倒して、必ずステラのところに戻るぞ。あいつに会ったら、聞きたいこともあるしな」
シュートがキルアの前に立ち、ナックルがゴンの前に立った。
「これからアタシの念能力でアンタ達の念力を回復しながら鬼の特訓を始めるわさ。二人の刺客を倒すまで続けるからそのつもりで」
ビスケの言葉に、一瞬だけ眉をひそめる。念の回復と特訓を同時にだと?無茶苦茶なこと言いやがる。だが、今の俺たちにそんなことを言っている資格はねえ。ステラが戦ってるんだ。俺たちがここで立ち止まるわけにはいかねえんだよ。
「……面白え。望むところだぜ」
俺は目の前のシュートを睨みつけたまま、口の端を吊り上げた。こいつらを倒す。そして、もっと強くなる。ステラを救うためなら、どんな無茶な特訓だろうと乗り越えてやる。
「ゴン、聞いただろ? 泣き言はなしだ。さっさとこいつらを片付けて、ステラの治療法を探しに行くぞ」
全身のオーラを練り上げる。指先から散る電光が、俺の覚悟を示すように激しく瞬いた。ステラ、待ってろ。必ず、お前の元へ帰るから。
それからゴンとキルアはビスケによる鬼の特訓を受けながらもようやくシュートとナックルを倒すことに成功する。ゴンは自分の手を見て、自分が格段に強くなっていることを実感していた。ビスケは念能力を使い、ゴンとキルアの念力を回復する。二人を見て力強く頷いた。
「強くなったわね。アタシは逃げるけど、ナックルとシュートはアンタたちと共に戦いに行くそうよ」
「カイトを助けるんだ。ステラの治療法を見つけ出す。カイトが何か知ってるはずだ」
ゴンの言葉を聞きながら、俺はゆっくりと立ち上がった。ナックルたちが仲間になるだと?正直、まだ信用しきったわけじゃねえ。だが、今は使える駒はなんでも使うべきだ。
「……カイトが治療法を知ってる保証はどこにもねえだろ」
冷静に、だが否定するわけじゃない。わずかな可能性でも、それに賭けるしかねえんだ。俺は病院の方向を見やる。ステラが、待っている。
「けど、今は他に手がかりもねえ。カイトを探しながら、治療法に関する情報も集める。二手に分かれた方が効率的かもしれねえな」
ゴンの方を向き、真っ直ぐにその目を見据える。俺たちは強くなった。だが、油断は禁物だ。カイトを助ける道も、ステラを救う道も、どっちも茨の道に違いねえ。
「行くよ、キルア。ステラとカイトを助けに行くんだ!」
ゴンの言葉に強く頷き、俺はNGLの不気味な森へと足を踏み入れた。空気が違う。重く、淀んでいて、そこら中から悪意に満ちた気配が漂ってくる。ステラを救うため、カイトを助けるため、俺たちはこの地獄の入り口に立ったんだ。
「ああ、行くぞ」
隣を歩くゴンは、不安よりも決意をその目に宿している。ナックルとシュートも、緊張感を漂わせながら周囲を警戒していた。カイトがこの先にいる。そして、ステラを救う手がかりも。そう信じるしかねえ。腕に残るステラの温もりを思い出す。あいつは今も一人で戦ってる。俺たちがここで立ち止まるわけにはいかねえんだ。どんな化け物が待っていようと、この先に進むしか道はねえ。
「絶対に、二人とも助け出す」
俺は自分に言い聞かせるように呟き、神速の準備を始めた。
「行くぜ、二人を助けに」
シュートが震える声で呟いた。ゴンの瞳は変わらず虚ろなままだが、その奥には揺るぎない決意が宿っている。
「……行こう」
短く、しかし重いゴンの言葉に、全員が頷く。東ゴルトー共和国へ。カイトを救い出し、ステラを治す方法を見つけ出すために。
「ステラのことはビスケに頼んである。あいつなら、俺たちよりうまくやれるはずだ」
ナックルがそう言った。今は前だけを見る。恐怖も絶望も、全て力に変えて。
「絶対に……あいつらをぶっ潰す」
ゴンが言った。ゴンの低い声が、NGLの湿った空気に重く響く。その瞳の奥に宿る揺るぎない決意に、俺は静かに頷いた。あいつの言う通りだ。今はただ前に進むしかねえ。
「……ああ」
短く応え、俺は全身の神経を研ぎ澄ませる。ビスケにステラを任せたのは正解だ。あいつなら、俺たちよりもずっと頼りになる。だからこそ、俺たちは俺たちのやるべきことをやるだけだ。この先に待ち受けるのは、想像を絶する化け物どもだ。だが、恐怖に足が竦むことはねえ。守るべきものがある。取り戻さなきゃならねえ仲間がいる。その想いが、俺を前に突き動かす。
「カイトを助け出し、ステラの治療法を見つける。目的はそれだけだ。余計な感傷に浸ってる暇はねえぞ」
仲間たちに、そして何より自分自身に言い聞かせるように呟き、俺は闇の奥を睨みつけた。
東ゴルトー共和国に潜入した俺たちは、キメラアントの選別が始まっていることを知る。国民を強制的に集め、念能力者だけを選び出して兵隊にする、非道な儀式だ。
「……許せねぇ。こんなこと」
ナックルが拳を握りしめる。
「ステラを治す方法を探しながら、選別を止める。どっちもだ!」
ゴンの決意に満ちた瞳に、キルアはハッとさせられる。そうだ、迷ってる暇なんてない。どっちもやるんだ。
「……ああ、そうだな。ステラを救う方法の手がかりも、この選別の中に……あるいは、奴ら王の側近が何か知ってるかもしれねぇ」
ゴンの言葉に、俺は思考を切り替える。そうだ、感傷に浸ってる暇はねえ。ステラを救うことと、目の前の非道な儀式を止めること、どっちもやらなきゃ意味がねえんだ。
「……ああ。悠長に情報を待ってるだけじゃ、手遅れになる可能性もある」
俺は冷徹に状況を分析する。選別を止めれば、奴らの計画に遅れを生じさせられる。その混乱に乗じて情報を奪う。それが一番効率的だ。
「ゴン。お前は真っ直ぐ進め。俺が援護する。ナックルとシュートは周囲の雑魚を頼む」
短く指示を出す。ステラの寝顔が脳裏をよぎる。あいつを安心させるためにも、俺はここで迷うわけにはいかねえ。俺は、もうただの暗殺者じゃねえんだからな。
だけど、現実はいつだって非情だった。
ピトーに改造されて操り人形となったカイトがいた。カイトは、近づく者をただ攻撃する殺戮人形となっていた。ゴンのオーラが凄まじい勢いで膨れ上がる。その怒りは、目の前のカイトを操るネフェルピトーに向けられていた。
「……お前が、カイトを……ステラを……!」
キルアはゴンの肩を掴む。今にも飛び出しそうな親友を必死に止める。
「待てゴン! そいつはもうカイトじゃねぇ! ピトーの能力で動いてるだけだ!」
ゴンの肩を掴む手に、思わず力が入る。こいつの怒りも、絶望も、痛いほどわかる。だが、今ここで感情に飲まれたら、全員死ぬだけだ。
「落ち着け! お前の気持ちはわかる! けど、今は冷静になれ!」
俺はゴンの前に回り込み、その虚ろな目を見据える。怒りで我を忘れた獣のようなオーラ。こんな状態のゴンを、俺は見たことがない。ピトーの野郎……ゴンに何てことしやがる。
「いいか、ゴン。俺たちの目的を忘れるな。カイトを助けること、そしてステラの治療法を見つけることだ。ここで死んだら、全部終わりなんだぞ!」
叫ぶように言う。ステラの名前を出すと、ゴンのオーラがわずかに揺らいだ。そうだ、思い出せ。俺たちが何のためにここまで来たのかを。俺はもう、仲間を見捨てる選択はしねえ。絶対にだ。だが、ゴンの怒りは収まらない。俺の手を振り払い、カイトの姿をした人形へと一歩踏み出す。ゴンの瞳から光が消え、ただ目の前の敵だけを映している。そのあまりの変貌ぶりに、俺は背筋が凍るのを感じた。これは……ヤバい。
「……どけよ、キルア」
静かだが、有無を言わさぬ迫力が込められた言葉。キルアはゴンの前に立ち塞がる。
「嫌だ! お前を死なせるわけにはいかねぇ! ステラが悲しむだろ!」
ゴンの怒りは収まらない。俺の手を振り払い、カイトの姿をした人形へと一歩踏み出す。俺の言葉も、今のゴンには届いていない。あいつは俺の肩を強く押し退けると、一直線にピトーに向かっていく。その背中からは、今まで感じたことのない禍々しいオーラが溢れ出していた。
「待て、ゴン!」
俺の制止を振り切り、ゴンはピトーに殴りかかる。凄まじい衝撃波が巻き起こり、俺は思わず腕で顔を庇った。ちくしょう……!完全に頭に血が上ってやがる。こうなったら、俺がやるしかねえ。ステラのためにも、ゴンを死なせるわけにはいかねぇんだ!
その時だった。ピトーは負傷したコムギを抱えて「カイトを治す、約束する。だからお願いだ、今はこの子を治させてほしい。カイトは必ず治す」と土下座して頼み込んだ。腕の中の少女……コムギを守るピトーの姿は、カイトとステラを傷つけた化け物とは思えないほど必死だった。
ゴンの拳が、怒りと戸惑いの間で震えている。ピトーの申し出は罠かもしれない。だが、もし本当なら……カイトが助かる唯一の道かもしれない。そして、それはステラを治す手掛かりにも繋がる可能性がある。
「……ふざけるな。コムギなんかどうでもいい。今すぐにカイトを治せ」
ゴンの言葉は、怒りよりも冷たい響きを帯びていた。ゴンの冷徹な言葉が、洞窟に響き渡る。その瞳は、もはや怒りすら通り越して、ただ目の前の敵を排除することだけを考えているように見えた。俺はゴンの隣に立ち、警戒を解かずにピトーを睨みつける。
「……ゴン、待て」
こいつの言っていることが本当かどうか、今はまだ判断できねえ。だが、もし万が一、本当にカイトを治せるんだとしたら……。そして、その能力がステラにも応用できるとしたら……。
「ピトー、お前がどうやってカイトを治すのか、まずは説明しろ。嘘やごまかしは通用しねえぞ。少しでもおかしな素振りを見せたら、お前とそこの女、二人まとめて殺す」
俺は殺気を込めて言い放つ。今は冷静にならなきゃならねえ。ゴンの暴走を止め、最善の選択をする。それが俺の役目だ。ステラが目覚めた時、ゴンまでいなくなっちまったら、あいつが悲しむからな。
「ボクの念能力で治せる……」
ピトーはただ腕の中のコムギを庇うように抱きしめる。その瞳はゴンを真っ直ぐに見据えていた。
「この子を治すまで、ボクはここを動けない。それが終われば……カイトを治す。必ず約束は守る」
ゴンの全身から、黒いオーラが禍々しく立ち昇り始める。空気がビリビリと震え、圧が俺の肌を刺す。
「……どっちが先かなんて、お前が決めることじゃない」
その声は、もはやゴンのものではなかった。絶望と憎悪が凝縮されたような、冷たくて重い響き。
「今すぐ、カイトを治せ。それが最後のチャンスだ」
ゴンの全身から立ち昇る、禍々しいオーラ。それはもはや、俺の知っているゴンのものじゃなかった。絶望と憎悪が凝縮された、底なしの闇。俺は本能的な恐怖に、背筋が凍るのを感じた。
「……待て、ゴン! そいつは……!」
これはヤバい。このままじゃゴンは人間に戻れなくなる。俺はゴンの腕を掴もうとするが、その前に凄まじいオーラに弾き飛ばされた。ピトーが絶望的な表情でゴンを見上げている。こいつの言っていることが本当なら、カイトも……そしてステラも助かる可能性がある。その可能性を、ゴンの怒りで潰させるわけにはいかねえ。
「ゴン、頼む、落ち着け! ステラを……ステラを思い出せ!」
俺は叫ぶ。あいつを目覚めさせるには、もうその名前を出すしかねえ。お前が壊れたら、あいつは誰のために目覚めるんだよ!俺の叫びは、しかし、今のゴンには届かない。その瞳は昏く淀み、ただ目の前のピトーだけを映していた。ピトーはコムギを抱えたまま、ゴンの変貌を信じられないといった表情で見上げている。
「……キルアは……いいよね。冷静でいられて。関係ないからっ」
ゴンから発せられたのは、あまりにも冷酷な拒絶の言葉だった。その声には何の感情も乗っていない。まるで遠い世界の出来事を語るように。
「お前が今すぐカイトを治さないなら、オレは……お前を殺す」
ゴンの身体がミシミシと音を立て、筋肉が強制的に成長していく。絶望が、親友の魂を喰らい尽くそうとしていた。