メテオに×願いを×かけて
「失う、のが……? 私が……死んだ……から……?」
ステラはハッとしたようにキルアを見る。震える声で、キルアが怯えてる原因の心当たりを口にする。
お前の言葉に、俺の心臓がぎゅっと掴まれたみたいに痛む。そうだ、それだよ。お前が一度死んだから。俺の目の前で、冷たくなっていくお前を、俺はただ見ていることしかできなかった。あの時の絶望と恐怖が、今も俺の身体にこびりついて離れねえんだ。
「……ああ、そうだ」
震えるお前の手を、俺は両手で強く握りしめる。ちゃんと伝えねえと。俺の弱さも、醜い独占欲も、全部。お前の瞳を見つめて、ありのままの気持ちを吐き出した。
「お前がまた、この手から消えてしまうんじゃないかって……そう考えただけで、気が狂いそうになる。だから……お前がここにいるって、俺のものだって、確かめずにはいられなかったんだ」
その結果がお前を傷つけた。分かってる。最低だよな、俺。それでも、お前に触れて、お前の体温を感じていないと、不安でどうにかなりそうだったんだ。
「……キルア。ごめん、その事がそんなにもキルアを苦しめてたんだね……」
「……なあ、ステラ。もう一度、やり直させてくれ。今度はもっと、お前のこと大事にするから」
ステラは身を起こすとキルアの手を取り、そっと胸に抱きかかえた。ステラの鼓動がキルアの手に生きていることを伝える。
「どうしたら、不安じゃなくなる……?」
お前の腕に抱きしめられて、規則正しい鼓動が俺の手に伝わってくる。生きている。ステラは、ここにいる。その事実だけで、張り詰めていた何かが少しだけ緩む気がした。お前の温もりが、凍てついた俺の心をじんわりと溶かしていく。
「……ステラ」
俺はお前の問いにすぐには答えられなかった。どうしたら不安じゃなくなるかなんて、俺にも分からねえ。でも、一つだけ確かなことがある。
「お前が……そばにいてくれたら、それでいい。なあ、今夜はさ……ただこうして、一緒に寝てくれねえか? 何もしねえから」
今は、ただそれだけでいいんだ。お前の顔をもっと近くで見たくて、俺はそっとお前の身体を引き寄せた。額を合わせて、お前の紫色の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「……うん、いいよ。いつも、一緒に寝てたでしょ?」
自分の胸に顔を埋めたまま泣いてるキルアがたまらなく愛おしくて、同時にキルアのトラウマを作ってしまった事が悲しくて、ステラはキルアの後頭部に手を回してあやすように撫で続けた。
「大丈夫だからね。私はいつもここにいるよ。キルアのそばにいるからね……」
お前の手が俺の頭を優しく撫でる感触に、胸の奥が熱くなる。泣いてるなんて認めたくねえけど、この温もりがあまりにも心地よくて、自然と涙が溢れてくる。ステラの声が、俺の心を包み込むように響く。
キルアはステラの優しい言葉と、頭を撫でる温かい手に、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れるのを感じた。子供のように声を殺して泣きじゃくり、彼女の胸に顔を強く押し付ける。弱さを見せることへの羞恥心よりも、受け入れてもらえた安堵感が勝っていた。
「……ん」
しばらくして、少し落ち着きを取り戻した彼は、しゃくりあげながら短く返事をする。まだステラの胸から顔を上げることはできない。
「……いつも、じゃねぇだろ。最近は……俺がめちゃくちゃにするから、お前、避けてたじゃんか」
その声には拗ねたような響きと、自覚している罪悪感が滲んでいた。彼女の言う「いつも」が、壊れてしまう前の幸せな日々を指していると分かって、また胸が締め付けられる。
「うん……。そうだったね。だってキルア何かの拍子にすぐ襲ってくるもん」
「……襲ってくんのは、お前が可愛すぎるからだろーが……でも、ありがと。……そうやって、そばにいてくれるだけで……少し、マシになる」
少し照れくさそうに呟きながら、キルアはそっとステラの頬に手を伸ばす。その指先で、彼女の柔らかな肌の感触を確かめるように優しく撫でた。彼はそっと顔を上げ、涙で濡れた目元を隠すようにステラを見つめた。その瞳の奥には、まだ消えない不安と、彼女への深い愛情が揺らめいている。
「うん……これからもずっと、そばにいるよ」
「……バカ。こんなに優しくすんなよ」
顔を上げると、お前の紫色の瞳がすぐそこにあって、少しだけドキッとする。お前の言葉が俺を安心させるけど、もっと近くで感じていたいって気持ちが抑えきれねえ。
「……今夜はさ、本当に……ただ腕の中で眠っててほしい。……それだけでいいから」
「なあ、ステラ……もうちょっとだけ、こうしててくれ。お前のこと、ずっと離したくねえんだ……少しだけ、我慢してくれよ」
お前の首元にそっと顔を寄せ、その匂いを吸い込む。心臓が早くなるのが自分でも分かる。この距離、この瞬間が永遠に続けばいいのにって思っちまう。
「キルア……大好きだよ。私、もっと強くなりたいな。キルアを安心させてあげられるくらい」
キメラアントにやられて死んでから何があったのか、いつの間にか差がついていたように思う。キルアの方がうんと強くなってしまったと感じていた。
お前の「強くなりたい」って言葉が、俺の胸に小さく、でも確かに響いた。俺を安心させるため、か……。そうじゃねえんだよ。お前はただ、お前のままでいてくれればいい。でも、その健気な想いがどうしようもなく愛おしい。
「……お前はもう、十分強いよ」
「そんな事……ないよ……」
俺はお前の頬をそっと両手で包み込み、潤んだ紫色の瞳を覗き込む。そこに映る俺の顔が、見たことねえくらい優しい顔をしてて、少しだけ気恥ずかしくなった。
「俺がお前を守る。だから、お前は俺のそばで笑っててくれ。……それだけでいいんだ」
ゆっくりと顔を近づけて、お前の唇に自分のそれを重ねる。ただ触れるだけの、優しいキス。もう傷つけたりしねえ。そう誓うみたいに、ゆっくりと離れた。
「……なあ、ステラ。今夜は、お前の寝顔、ずっと見ててもいいか?」
「ん……いいよ……ずっとこうしててあげる」
触れ合うだけの、優しいキスを受け入れて、キルアの腕の中で、ステラもキルアの背中に手を回して抱きしめながら目を閉じる。
「こうしてると、安心する……」
抱きしめ合うことで互いの鼓動が一つになった気がした。
お前の返事を聞いて、俺は満足げに小さく笑みをこぼす。腕の中でお前が目を閉じるのを見て、その無防備な姿に愛しさが込み上げてきた。俺の背中に回された腕の力強さが、お前の気持ちを伝えてくれているようで、胸が熱くなる。
「……俺もだよ。お前がこうして腕の中にいると、ホッとする」
お前のウェーブがかったピンクの髪にそっと口づけを落とす。甘い香りがして、心臓がトクンと跳ねた。もう二度とこの温もりを手放したくない。その想いを込めて、お前の身体を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
「なあ、ステラ。明日の朝、目が覚めた時も……俺の隣にいてくれるか?」
不安を隠せない俺の声が、少しだけ震える。お前が眠りにつく前に、もう一度だけ確かめておきたかったんだ。
「うん……約束、ね」
朝が来ると、ステラは目を覚まし、目の前で眠るキルアを見て微笑んだ。キルアの目が開かれるのを見て、ステラはキルアの前髪にそっと口づけをする。
「おはよう、キルア。よく眠れた?」
目の前でお前が微笑んでいる。夢じゃねえ、ちゃんと俺の腕の中にいる。お前が俺の髪に唇を寄せた感触に、心臓が大きく跳ねた。昨夜の不安が嘘みたいに消えていく。
「……ん、おはよう……お前が隣にいたからな……すげえ、よく眠れた」
寝ぼけた声で返事しながら、お前の腰に回した腕に力を込めて、もっと自分の方へ引き寄せる。まだ離したくねえ。お前の温もりと匂いを、全身で感じていたい。お前の紫色の瞳をじっと見つめる。朝日に照らされてキラキラ輝くその瞳に吸い込まれそうだ。俺はゆっくりと顔を近づけ、お前の額に自分の額をこつんと合わせた。
「……なあ、ステラ。今日の予定、全部キャンセルしねえ? このまま一日中、お前のこと独り占めしてえんだけど」
「ん、いいよ……二人で、プラネタリウム、行きたいな」
キルアと星空を見に行こうという約束してたことを思い出して呟いてみる。
お前の口から出た「プラネタリウム」っていう単語に、俺の心臓が小さく跳ねる。そういや、そんな約束もしたな。二人きりのデートなんて、想像しただけで頬が緩みそうだ。
「……プラネタリウム、か。いいぜ」
「うん。ゴンとアルカにお願いして、今日は二人でデートしちゃおう」
額を合わせたまま、くすぐったそうに笑う。ゴンとアルカには悪いけど、今日だけはお前を俺だけのものにしたいって思うのは、我儘か?
「あいつらには俺から言っとくよ。今日のステラは俺が独り占めするってな」
お前の唇のすぐ近くで囁くと、甘い匂いがしてクラっとした。このままキスしちまいそうになるのを、なんとか堪える。今日の俺は、お前をちゃんと大事にするって決めたんだ。
「……じゃあ、準備するか。最高のデートにしてやるから、覚悟しとけよ」
「うん! キルアは私だけのお星様なんだ、でも君を星座になんてしてあげないけどね」
ステラはそう言って茶目っ気たっぷりに笑うとキルアの頬にチュッと可愛らしいリップ音を立てながら口づけて、すぐ離した。
「おはよう、のキスだよ。キルア。今日も愛してる」
そう言って蕩けそうなほどの笑顔を浮かべた。
お前の言葉と、頬に残る柔らかい感触に、俺の思考が一瞬停止する。不意打ちのキスと「愛してる」なんて言葉に、心臓がうるさいくらいに鳴り響いた。蕩けそうな笑顔なんて見せられたら、こっちの理性が持たねえだろ……バカ。
「……っ、お前、それ反則だろ……俺だってお前を夜空になんか閉じ込める気はねえよ。俺の隣で、俺だけのために輝いてりゃいいんだ」
照れ隠しに悪態をつきながらも、緩みそうになる口元を必死で引き締める。朝からこんなに可愛いことすんなよ。プラネタリウムに行く前に、俺がお前をめちゃくちゃにしちまいそうだ。腕に力を込めてお前を強く抱き寄せ、耳元で囁く。お返しとばかりに、今度は俺からお前の唇を深く塞いだ。朝の挨拶だけじゃ、もう我慢できねえよ。
「んんっ……!」
「……今日のデート、期待してろよ。お前が俺のことしか考えられなくなるくらい、甘やかしてやるから」
今度はキルアの方から深く、甘く、貪るようにキスをされる。唇が離れる頃には息が上がっていた。ステラはキルアの首元に甘えるようにすり寄りながら囁いた。
「ふふっ、私達いつか一緒にお星様になろうね。ずっとずっと一緒だよ。アルタイルとベガみたいにね」
お前の無邪気な言葉に、俺の胸がチクリと痛む。ずっと一緒……その言葉がどれだけ俺を救って、同時に縛り付けるか、お前は分かってねえんだろうな。アルタイルとベガみたいに? 離れ離れになるみてえな言い方、すんなよ……。
「……星になんかならなくても、俺たちは、ずっと一緒にいられるだろ」
俺はそう呟くと、お前の身体をもう一度強く抱きしめる。この腕の中にいる限り、お前をどこにも行かせねえ。誰にも渡さねえ。その温もりを確かめるように、お前の髪に顔を埋めた。
「……ほら、準備するぞ。そんな可愛い顔してると、デート行く前に俺が我慢できなくなるからな」
名残惜しそうに身体を離し、お前の鼻先に軽くキスを落とす。少しだけ意地悪く笑いかけてみせると、お前の紫色の瞳が揺れるのが見えた。その反応がたまらなく愛おしくて、俺の心を満たしていく。今日のデート、絶対にお前を笑顔にしてみせる。
「ふふ、そうだね。ただね、ほんとに幸せだなーって思って。今日はいっぱい甘い時間を過ごそうね、キルア。キルアが大好きだよ」
鼻先にキスをされて、キルアの頬をそっと撫でながらまた蕩けそうなほどの笑顔を浮かべた。準備をしながら、ステラは言葉を続ける。
「私ね、キルアとならほんとになれると思ってるんだよ。夜空に2つ並んだお星様みたいに、ずっと二人で輝いてるの。ね、素敵でしょ?」
お前の言葉が、まるで呪いみたいに俺の心にまとわりつく。星になるってことは、死ぬってことだろ。なんでそんなこと、笑いながら言えるんだよ。一度失った恐怖が蘇ってきて、背筋がぞっと冷たくなるのを感じた。
「……素敵、なもんかよ」
準備する手を止め、お前の肩を掴んで自分の方へ向かせる。不安を隠せない俺の目が、きっとお前を射抜いているはずだ。お前の笑顔を見るのが、今は少しだけ辛い。
「俺は、お前と星になんてなりたくねえ。生きて、隣で笑っててほしいんだ。……それじゃ、ダメなのかよ」
声が震えるのを止められなかった。お前を失うくらいなら、俺はなんだってする。だから、そんな縁起でもねえこと、二度と言わないでくれ。お前の手を取り、その指先に俺の唇を押し当てた。ただ、この温もりだけが、俺の唯一の真実なんだ。
「ごめん……軽率だったね……どっちかが取り残されることなく、二人で一緒に星になれたらいいなって思ったの。本当に、今すぐにってわけじゃなくて……」
震える声で言いながら指先に唇を押し当てるキルアを見て、そっと抱きしめた。キルアの後頭部を優しく撫でながら囁く。
「私だって……キルアに置いていかれるのは怖いよ……」
お前の震える声と「怖いよ」っていう言葉が、俺の心に突き刺さる。そうだ、俺だけじゃねえ。お前だって、俺を失うのが怖いんだ。俺たちは同じ気持ちなんだ。その当たり前の事実に気づいて、俺は固く握りしめていた拳の力をそっと抜いた。
「……ああ、ごめん。俺の方こそ、大声出して……」
お前の背中に腕を回し、そっと抱きしめ返す。お互いの震えが伝わって、それがなんだかおかしくて、俺は小さく息を吐いた。お前の温かい身体が、俺の不安を少しずつ溶かしていく。
「……もういい。その話は終わりだ。星になんかならねえ。俺たちは生きて、ずっと一緒にいる。それでいいだろ?」
「……うん。今度こそ、絶対に、キルアを置いていったりしない。だから、キルアも私を置いていかないで……。約束ね」
お前の髪に顔を埋めて、その香りを深く吸い込む。大丈夫だ、ステラはここにいる。俺が守る。そう自分に言い聞かせながら、俺はお前の身体をゆっくりと離した。
「ほら、プラネタリウム、行くだろ? お前がそんな顔してたら、今日のデート、最高の思い出にしてやれねえじゃんか」
わざと明るい声を出して、お前の頬を軽くつねる。少しだけ期待を込めて、お前の瞳を覗き込んだ。今夜、きっと特別な夜にしてやるから。
「うん、行こう、キルア。今日だけじゃなくて、毎日が宝物の日々になる……っへ、なんれつねふのー」
頬をつねられ怒ったように言いながらも二人で手を繋いで、外に出た。晴天の空なのに、流れ星が降っていた。
「見て、キルア。昼間なのに流れ星だよ」
お前の指差す方を見上げると、真っ青な空を白い光がすうっと横切っていくのが見えた。昼間の流れ星なんて、初めて見たかもしれねえ。まるで、これからの俺たちの未来を祝福してくれてるみたいで、柄にもなく胸が高鳴るのを感じた。
「……ほんとだ。すげえな」
繋いだ手にきゅっと力を込める。お前が隣にいて、こんな不思議なもんを一緒に見られる。それだけで、世界が輝いて見えるんだ。お前と出会ってから、俺はこんな気持ちばっかりだ。
「……なあ、ステラ。今日のプラネタリウム、ただ星を見るだけじゃ終わらせねえから」
「へ?」
お前の紫色の瞳をじっと見つめて、意地悪く笑いかけてやる。昼間の流れ星なんて見ちまったら、期待しちまうだろ?今夜、お前が俺だけの星だって、ちゃんと教えてやる。その綺麗な瞳に、俺だけを映してほしいんだ。
「……覚悟、しとけよ」
メテオに願いをかけて
fin.
To the stars in the night sky, I swear eternal love.
On nights when stars twinkle, I think of you.