フネ×タンケン×カイシ






俺たちは競争するように廊下を駆け抜ける。ゴンのやつ、こういう時は子供みたいにはしゃぎやがって。まあ、俺も人のことは言えねえか。



「一番乗りは俺だ!」

「オレも負けないぞ!」



階段を二段飛ばしで駆け上がり、ゴンとスバルを追い抜く。こんなだだっ広い船の中を探検するなんて、ワクワクしねえわけがねえ。



「おい、スバル! お前その靴、反則じゃねえか?」

「そんなルールはないよ!」



ローラーシューズで軽快に追い上げてくるスバルに、俺はわざと悪態をついた。暗殺の仕事で飛行船に乗るのとは大違いだ。こんなに楽しいなんて、知らなかったぜ。



「っ! 誰か来る……」



船内探検を楽しんでいると突如、凄まじい剣気が体を襲う。スバルは瞬時にその方向へ体を捻った。すると、そこにはネテロが立っていた。

背筋が凍るような、圧倒的なプレッシャー。全身の産毛が逆立つ。間違いない、こいつはヤバイ。俺が今まで出会ってきたどんな奴よりも格が違う。



「……ネテロ会長」



俺は警戒レベルを最大に引き上げ、いつでも動けるように身構えた。ゴンとスバルも、さっきまでのはしゃぎっぷりが嘘のように固まっている。



「こんなとこで、何の用だよ」



探検は中断だ。このジジイ、ただの散歩でこんな殺気を垂れ流すわけがねえ。俺たちに何か仕掛けてくるつもりだ。面倒なことになりそうだぜ。



「そう邪険にしなさんな。退屈なんで遊び相手を探してたんじゃ。どうかな? 3人とも。ハンター試験、初挑戦の感想は?」

「うん、楽しいよ! 想像と違って、頭使うペーパーテストみたいのないし」

「楽しめてるよ。……友達……も、できたし」



ネテロの質問にゴンが無邪気に笑って答え、スバルはボソリと言ってゴンとキルアに視線を向けた。

スバルの言葉に、俺は一瞬、言葉に詰まった。友達……か。確かに、ゴンやこいつと一緒にいると、今まで感じたことのない感覚になる。だが、それを素直に認めるのは、なんだか癪だった。



「……ふん。馴れ合ってる暇はねえよ。試験はまだ終わってねえんだからな」



俺はネテロから視線を外さずに、ぶっきらぼうに答える。このジジイ、俺たちの反応を見て楽しんでやがる。品定めされてるみてえで、気分が悪いぜ。



「で、感想を聞いてどうすんだよ。まさか、ここで追加試験なんて言わねえだろうな?」



俺は挑発するように会長を睨みつけた。こいつの強さは底が知れない。だが、ここでビビってたら、ハンターになんてなれるわけがねえ。



「わしとゲームをせんかね? もしそのゲームでワシに勝てたら、ハンターの資格をやろう。方法はシンプルじゃ。わしからこのボールを取るだけ。三人で挑戦してもかまわんよ」



ハンターの資格、だと?俺はネテロの言葉を反芻し、奴が手にしているボールに視線を落とした。ただのボール取りゲームで、あの過酷な試験をパスできるってのか。そんな美味い話があるわけねえ。



「……はっ、じょーだんだろ。そんな簡単なことでハンターライセンスが手に入るなら、誰も苦労しねえよ」



俺は鼻で笑ってやった。どうせ、何か裏があるに決まってる。このジジイ、見た目通り一筋縄じゃいかねえ。暗殺稼業で叩き込まれた勘が、警鐘を鳴らしていた。



「どうせ、ただ取るだけじゃねえんだろ? 時間制限とか、何か特別なルールでもあんだろ?」



俺はネテロを睨みつけ、探りを入れる。ゴンは目を輝かせてるが、スバルは警戒してるみてえだな。こいつの強さは、まだ底が見えねえ。迂闊には乗れねえぜ。



「オレやるよ! 楽しそうだし!」



ゴンはワクワクが隠せない様子でそう言ったが、スバルは疲れて眠くなったのか目をとろんとさせていた。



「ん……うん、キルアとゴンがやるなら僕も……やろうかな……」



ゴンの即答と、スバルの気の抜けた返事。対照的な二人の反応に、俺は思わずため息をついた。ゴンは相変わらず面白そうなことにはすぐ飛びつくな。スバルは……さっきまでの警戒心はどこ行ったんだよ。



「おい、スバル。眠いならやめとけよ。足手まといどころか、怪我じゃすまねえかもしれねえぞ……まあ、やるってんなら止めねえけどな。俺も参加するぜ」



俺はネテロを睨んだまま、スバルに釘を刺す。このジジイ、ボールを取らせる気なんてサラサラねえだろ。遊びのつもりで参加したら、痛い目を見るのは確実だ。こんな胡散臭い話、乗る気はしねえ。だが、目の前のジジイがどれほどの使い手なのか、この肌で確かめてみたいって気持ちも嘘じゃねえ。それに、ゴンとスバルを二人だけで行かせるわけにもいかねえだろ。



「大丈夫? スバル……オレ、無理はしなくていいと思うよ」



キルアはネテロに向き直り、自信たっぷりな笑みを浮かべた。ゴンもその横に並んで立ち、スバルに心配そうな顔を向けて言う。スバルはそんな二人を羨ましげに見つつ、眠さが限界なのもあり結局壁側に寄りかかって寝てしまった。

俺は壁際で寝息を立て始めたスバルを一瞥し、フンと鼻を鳴らした。ったく、緊張感がねえ奴だな。まあ、こいつがいない方が、余計な心配をしなくて済むか。



「……準備できたぜ、ジジイ。さっさと始めようぜ」



俺はゴンの隣に並び、ネテロに向き直る。全身の神経を研ぎ澄まし、相手の一挙手一投足を見逃さないように集中する。遊びじゃねえ。こいつは本気だ。



「ゴン、油断すんなよ。こいつ、ただモンじゃねえ」

「うん! でもオレ、なんかワクワクしてるんだ!」



ゴンの能天気な顔を見て、思わず釘を刺す。暗殺者の勘が、目の前の老人の底知れない実力を告げていた。一瞬でも気を抜けば、やられる。

その後ゴンとキルアは共闘したが、結局ネテロの右手と左足がほとんど使われてないことを見抜いたキルアはさっさと勝負を捨て、寝てるレンの隣に向かう。ゴンはそのままネテロとのゲームを楽しんでいた。

俺は壁に寄りかかって眠るスバルの体が、ぐらりと傾くのを見て、素早くその肩を支えた。ったく、こんな無防備に寝やがって。ゴンがまだネテロとやり合ってる音が遠くに聞こえる。アイツは本当にタフだな。



「……しょうがねえな」



俺は小さくため息をつき、スバルの体を自分の肩に寄りかからせるようにして、隣に座り込んだ。こいつの寝顔、やけに無邪気で拍子抜けするぜ。さっきまでの緊張感が嘘みてえだ。俺は腕を組み、ゴンとネテロの攻防に意識を集中させる。ゴンはまだ諦めてねえ。あの集中力と執念は、素直にすげえと思う。だが、あのジジイからボールを奪うのは、今の俺たちじゃ不可能だ。



















「ん……あれ、キルア?」



柔らかな朝日が差し込み、スバルは目を覚ますがまだ寝ぼけているのか女の子のような声を出した。それから自分がキルアに寄りかかって寝ていたことに気付くと少し頬を赤らめながらキルアから体を離した。



「ごめん……僕、キルアに寄りかかって寝ちゃってたみたい。重くなかったか?」



それも一瞬のことで、すぐに少年らしい声になっていた。

俺は壁に背を預けたまま、横目でスバルを一瞥する。寝起きで気の抜けた顔しやがって。さっきまでの女の子みてえな声、聞かなかったことにしてやるか。



「……別に。お前、軽いからな」



思わず口から出た言葉に、自分で少し驚く。もっと皮肉っぽい言い方でもよかったはずだ。俺はバツが悪くなって、ぷいと顔をそむけた。



「それより、ゴンはどうした? まだあのジジイとやってんのか?」



視線の先では、ゴンがまだネテロに食らいついていた。夜通しやってたのかよ、あいつ。その体力と集中力は、化け物じみてるぜ。俺は呆れと感心が入り混じったため息をついた。











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