サンジ×シケン×カイシ






「どうやって降りたらいいんだろ……」



それからスバル、キルア、ゴン、クラピカ、レオリオは3次試験会場であるトリックタワーのてっぺんに来ていた。どうやら下まで降りるのが今回の課題のようだ。



「きっとどこかに、下に通じる扉があるはずだ。この塔には必ず下へ続く道がある。試験官が用意した罠を見破らなければならないな」



クラピカは腕を組み、冷静な眼差しでタワーの床面を観察している。そして少し腰をかがめ、床の微細な隙間を指でなぞった。クラピカの奴、相変わらず頭がキレるな。俺は床に隠されたパネルを興味深そうに眺めた。確かに、よく見りゃ不自然な継ぎ目がある。俺としたことが、全然気づかなかったぜ。



「へえ、なるほどな。つまり、この床のどこかに隠し扉があるってわけか」

「床のどこかに仕掛けがあるって事だね! みんなで手分けして探そう!」



俺はクラピカが指差したあたりをスケボーの先端で軽く叩いてみる。コンコン、と軽い音がした。ゴンも頷いて、床を注意深く見つめはじめた。足でトントンと床を叩きながら、音の違いを探っている。こりゃ、見つけるのは骨が折れそうだぜ。



「つーか、この塔、どんだけ広いんだよ。制限時間内に見つけられんのか?」



俺は腕を組んで周囲を見渡した。だだっ広い円形のフロア。隠し扉は一つだけって可能性もある。そうなると、早い者勝ちの椅子取りゲームみてえなもんか。面倒くせえな。そう思ってるとゴンが手を振って俺達を呼ぶ。その側にはスバルもいる。



「ここに5つ分の隠し扉があるみたいだ」

「ゴンの言う通り、五つあるな。僕たちにぴったりの数だ。でも、これって一人ずつ落ちる仕組みかも……」



ゴンの奴、いつの間に見つけてやがったんだ。俺はゴンが指し示した床を注意深く観察する。確かに、五角形を描くように、わずかな溝が床に刻まれている。こりゃ、一本取られたな。



「へえ、やるじゃんか、ゴン。俺は全然気づかなかったぜ」



俺は感心したように言いながら、そのうちの一つのパネルの前にしゃがみ込んだ。指でなぞってみると、わずかに動く感触がある。間違いねえ、これが隠し扉だ。



「……で、どうする? 一人一つずつ、ってことか? なんかいかにも罠ですって感じだよな」



俺は他のメンバーを見回した。五人に対して五つの扉。あまりにも都合が良すぎる。この試験、そう簡単に行かせてくれるとは思えねえ。クラピカは俺の横で静かに頷いた。床のタイルの一つに足を軽く乗せると、わずかに沈み込む感触を確認している。



「一人ずつ落ちる仕組み……確かにその可能性は高いな。トリックタワーは個々の判断力を試すためかもしれない。スバル、準備はいいか? いざというときは自分の能力を信じることだ」

「……たしかに、用心はしたほうがいいよな」



スバルが頷いて、それぞれ一人分の通り道しかないそれを見ながら唇を引き結んだ。



「1・2の3で全員行こうぜ。ここでいったんお別れだ。地上でまた会おうぜ」



レオリオのその言葉と共に全員でパネルに飛び込んだ。扉をくぐったゴン、キルア、クラピカ、レオリオは再び顔を見合わせる。全員同じ部屋に落ちていたのだ。スピーカーから聞こえる声の説明によると、『多数決の道』というルートらしい。この部屋からは5人の人間が揃わないと出られないという。ゴンが部屋を見回しながら言った。



「スバルがいないね」



ゴンの言葉に、俺はハッと周囲を見回した。確かに、スバルの姿が見えねえ。クラピカとレオリオ、それにゴン。俺を含めて四人しかいない。あの時、確かに五人で同時に飛び込んだはずなのに。俺は舌打ちした。



「……チッ、そういうことかよ」

「スバルが選んだ扉は、おそらく別の部屋に通じる扉だったのだろう」

「スバルもこの部屋に来てくれりゃー良かったのにな。オレ達はあと1人、誰かが来るまで待たなきゃならねぇのか……」


五つの扉のうち、一つだけが別の場所に繋がるハズレだったってわけか。そして、スバルがまんまとそれを引いちまったんだ。クラピカも心配そうな顔で言う。レオリオは残念そうな顔で天井を見上げる。



「あのバカ、一人でどこ行きやがったんだ。よりにもよって、一番足手まといになりそうな奴がいねえとか、最悪だろ」



俺は苛立ち紛れに壁を蹴った。五人揃わなきゃ出られねえってのに、どうすりゃいいんだよ。ゴンが心配そうな顔でこっちを見てる。んな顔したって、どうにもならねえっつーの。



「スバルは必ず無事だ。この先何があるかはわからないが……そう信じて進むしかないだろう」

「うん。大丈夫、スバルなら絶対に生き延びてる!」



クラピカとゴンの言葉に、俺は黙って腕を組む。信じるしかねえ、か。呑気なこと言ってやがる。だが、あいつらがそう言うなら、今はそう思うしかねえのかもしれねえ。ゴンは眉をひそめ、天井を見上げている。その目には決意の光が宿っている。



「……ふん。あいつがそんなタマじゃねえことくらい、俺が一番よく分かってる」



俺はぶっきらぼうに吐き捨てた。そうだ、あいつはただのガキじゃねえ。それに、俺が保証してやる。……なんて、柄じゃねえな。



「それより、なんだよこいつ。最悪のタイミングで、最悪の奴が現れやがった」



現れた五人目はトンパだった。俺は目の前に現れたトンパを、心底嫌そうな目つきで睨みつけた。こいつが来たってことは、ろくなことにならねえ。五人揃わなきゃ出られねえって状況で、よりにもよって新人潰しかよ。最悪だぜ。













一人違うルートに降り立ったスバルはキョロキョロと辺りを見回す。そして、すぐそこに立っていた男に気付いて警戒するように身構える。見覚えのない黒髪の男は、ただじっとスバルを見つめる。その顔に表情はなく、ただ冷たい視線だけがスバルを捉えていた。彼は針を指先から伸ばしながら、ボードを見てわずかに首を傾ける。そこには”二人で協力する道“と書いてあった。……なるほど、この空間には二人しかいないんだな。しばらくの間、よろしく。……と心の内で思うことにした。

スバルは小さく肩をすくめるとその男と共に先へ進む。この空間は、どうやら協力して進まないといけないようになっているようだった。彼は音もなくスバルの隣を歩き、その顔に感情は見えないが、時折チラリとスバルを観察している。

彼は壁に仕掛けられた罠を軽々と回避しながら、細い針を取り出し、前方の暗闇に向かって放つ。何かが作動する音が鳴り、先に進む道が開かれる。スバルは前方の壁に手をかざした。壁には複雑な回路のようなものが浮かび上がる。



「これは……二人で同時に操作する必要があるみたいだ」



スバルがそう言うと彼はスバルの方を見ずに、壁の別の場所に手を添える。その仕草には無駄がなく、計算され尽くしている。そして、初めて喋った。中性的で綺麗な声で。



「ここに手を置いて。3秒後に同時に時計回りに回転させる」



スバルは驚いたが言われた通りにし、二人が同時に操作すると壁が静かに動き始め、新たな通路が姿を現す。彼はわずかに顔を傾げ、スバルを見つめた。

目の前にいっぱいに罠が飛んできて反応が遅れたスバルは、咄嗟にローラーシューズで風を起こし、それらを吹き飛ばす。彼は微かな関心を示すように視線を落とし、スバルのローラーシューズの動きを観察する。その目には計算するような冷たさがある。

再び歩く二人だが、彼は突然立ち止まり、床に細い針を投げる。針が刺さった場所から床が崩れ落ちるのを確認してから、迂回路を指差す。



「念能力……」



それを使える者がハンター試験に来ること自体が珍しく、スバルは驚いたように口にする。彼は微かな驚きを顔に浮かべたが、すぐに無表情に戻る。スバルの念能力への言及に対し、針を指の間でくるりと回した。

通路の闇に溶け込むように進みながら、前方に現れた落とし穴を軽々と飛び越え、振り返ってスバルを見つめる。その目には何か冷たい光が宿っている。彼はゆっくりと一歩近づき、目に追えない速度でスバルの被った帽子を指で弾いた。



「あっ……!」



スバルは慌てて帽子をキャッチするが、長い髪がふわりと舞いながら露わになる。



「どうして……」

「知りたくなったから」



彼は短くそれだけ言うと先へと進む。スバルは帽子を手に持って後を追うと最後のパネルには二人で手を繋いで立つ、と書いてあった。スバルは何も言わずにイルミの手をじっと見た。彼は微かに目を細め、針をスッと懐にしまう。手を繋ぐという指示に、一瞬だけ躊躇いを見せた。

無表情のまま、スバルに向けて右手を差し出す。その指は異様に長く、関節が不自然に曲がっている。パネルの前で、彼はゆっくりとスバルの手を取る。その触れ方には不思議な優しさがある。



「君の手は小さいね。でも、その中に秘めた力は侮れない。彼が惹かれるのも分かる気がする」



スバルは、その言葉に弾かれたように彼の顔を見る。相変わらずの無表情で何も読めない。スバルは平静を装い、静かに扉を見つめる。彼と手を繋いだまま立っていると扉はゆっくりと開かれ、そこはゴールになっていた。



「最後のとびらはよくわからなかったけど、無事着いたみたいだね。……一応、ありがとう」



スバルは彼の顔を見ないまま、ぽつりと述べた。彼はスバルの顔を少し見下ろし、手を離さないまま扉の向こう側を眺める。その目には珍しく微かな感情の揺らぎが見える。



「ありがとう、か。俺に言われることは珍しいね」



二人の間に静寂が流れ、彼はようやくスバルの手を離した。その指先が離れる瞬間、不思議な余韻が残る。



「それじゃ」



スバルはそのまま前を向き、振り返らずに立ち去る。彼はスバルが帽子を深く被り直して立ち去ろうとする背中を見つめ、珍しく言葉に詰まった様子を見せる。針のように鋭い指先が微かに震えている。



「待って」



静かな声で呼び止めると彼はスバルの手を取り、小さな針を乗せた。



「次に会うときは、もっと面白いことができるかもしれないね。楽しみにしている」













*制限時間ギリギリになって、ようやくキルア達が姿を見せる。スバルは顔を上げて心底ホッとしたような顔をする。突如、ゴンが指をさして嬉しそうに笑う。



「スバルだ! 良かった、無事だったんだね!」

「みんな! 良かった、無事に会えて。僕は先にゴールしてたんだけど、皆なかなか来なくて心配しちゃったよ」



スバルは皆の元へ駆け込んで嬉しそうに言った。クラピカは安堵の表情を浮かべる。



「無事で何よりだ。彼もきっと自分なりの方法で試験をクリアしたんだろうな」



俺は駆け寄ってくるスバルを見て、思わずため息をついた。ったく、こいつ、無駄に心配させやがって。ゴンもクラピカも安心したみてえな顔してるけど、俺は素直に喜んでやる気にはなれねえ。



「……チッ、おせーんだよ、バカ。まあ、どうせどっかで迷子にでもなってたんだろ。お前、方向音痴っぽいもんな」



俺はわざとぶっきらぼうに言って、スバルから顔をそむけた。無事だったのはいいけど、こいつのせいでどんだけ面倒なことになったと思ってんだ。トンパの野郎と組む羽目になったんだぞ。口では悪態をつきながらも、内心では少しだけホッとしていた。こいつが一人でいる間、変な奴に絡まれてなきゃいいけどな、なんて、らしくねえこと考えちまったじゃねえか。



「迷子になんかなってないし! なんだよ方向音痴っぽいって! そ、そんなことは……ちょっとだけあるけど!」



スバルはキルアの言葉にむっとして言い返す。



「それに僕は二人で協力して進む道だったから迷う心配ないよ。知らない男とだったけど……。二人で力を合わせて脱出したんだ」



スバルの言葉に、俺は思わず眉をひそめた。知らない男?二人で協力?なんだそりゃ。俺たちがトンパのせいでどれだけ苦労したと思ってやがる。



「はあ? 知らない男と協力だあ? お前、簡単に他人を信用しすぎなんだよ。そいつ、変な奴じゃなかったんだろうな? 何かされたりしてねえだろうな」



俺は呆れて腕を組んだ。こいつの人の良さには、時々本気でイライラさせられる。ハンター試験でそんな甘いこと言ってたら、いつか足元をすくわれるぞ。無意識のうちに、スバルの体を頭からつま先までジロリと観察していた。怪我とかは……なさそうか。まあ、何かあったら、俺がそいつを半殺しにしてやるだけだけどな。



「別に信用してたわけじゃないけど、協力しないといけないってルールだったから」



スバルは少しだけ顔を曇らせながら、手を握りしめた。



「いや……ちょっと、な。その男に、なんていうか……帽子を取られてたんだ。今は返してもらったけど……」



スバルはそう言って落ち着きなく帽子を深く被り直していた。

スバルの言葉に、俺の表情がスッと冷たくなった。帽子を取られた?ただの嫌がらせか、それとも……。俺は無言でスバルに一歩近づき、そのキャスケット帽に手を伸ばす。



「……見せてみろ」

「ちょっ……!」



有無を言わさぬ低い声。俺はスバルが抵抗する間もなく、その帽子をそっと持ち上げた。ピンク色の髪が微かに露わになる。だがすぐにスバルに押さえつけられた。何かされた痕跡がないか、見たかったのに鋭い視線でスバルに視線を向けたが帽子を取られないよう必死に守ってる。舌打ちを一つしながら問いかける。スバルは帽子を深く被り直した。




「そいつはどこにいる?」

「気にしてんだよ……男なのにこんな色の髪で」

「……別に。お前の髪の色なんてどうでもいい。それより、その男のことだ」



俺の声は、自分でも驚くほど冷たく響いた。もしスバルに変な傷の一つでもつけてやがったら、ただじゃおかねえ。暗殺一家で培った殺気が、無意識に漏れ出ていた。



「……今はどこにも見当たらないんだ。黒髪の男なんだけど。キルア、なんか……雰囲気が……ど、どうしたんだ?」



キルアが暗殺者とは知らないスバルはキルアの殺気に少しひきつった顔をする。

俺はスバルの言葉にフンと鼻を鳴らし、漏れ出ていた殺気をすっと収めた。こいつ、俺が本気でキレかけてたことにも気づいてねえのかよ。まあ、その方が好都合か。俺はもう一度、周囲に鋭い視線を走らせる。黒髪の男。受験者の中に、そんな奴はいくらでもいる。だが、スバルに手を出したってことは、ただの雑魚じゃねえ可能性がある。



「そいつ、どんな奴だった?」



その時、試験官が手を叩いて声を上げた。



「4次試験はゼビル島にて行われる。これからクジを引いてもらう。クジで決定するのは『狩る者』と『狩られる者』。「奪うのは獲物のナンバープレート。自分の獲物となる受験生のナンバープレートと自分自身のナンバープレートは3点。それ以外のナンバープレートは1点。最終試験に進むために必要な点数は6点。ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること」











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