ほんの少しも交わらない



始まりは和泉守の一言だった。



「お前、もう一度言ってみろよ」



いつもとは打って変わったドスのきいた声で詰め寄る加州を大和守がなだめる。



「そんなにキレんなよ。別にちょっと気になるっつーだけだろ」

「ちょっと、気になるだけ……?」

「清光、落ち着きなよ」

「落ちつけるわけないだろ。今こいつがなんて言ったか聞いてたのか」

「聞いてたよ」



大和守の落ち着いた声に加州も動きを止めて視線を和泉守から移した。



「安定……お前」



今の主に納得がいくか、信頼できるか。そういったことを問うたのは最近この本丸にきた和泉守。こいつは短絡的なところがあるから、まだここに来て何も知らないくせに適当なことを言うなとお灸を据えてやるつもりで突っかかった。けれど、まるで和泉守に同調するようなそれは、違う。
安定は、こいつより長くここにいて、主がどんな人かも俺がよく話してたのもあって知ってる。戦場じゃ性格変わったみたいに荒々しくなるけど短絡的でもないし、初めてここに来た時だって主のために頑張るつもりだって言ってた。

「お前も、主に不満があるって言うのかよ」

「そういう、わけじゃないよ」

「ならなんだよ!!」



掴みかかって目の前の諦めきったみたいな顔を睨みつける。



「ただ、思うところがある刀剣は和泉守だけじゃないってだけさ」

「は、……」

「おいどうした!」

「こんな穏やかないい天気なのに喧嘩か? こりゃ驚いた」

「何事ですか?」



鶴丸や薬研だけでなく、近くで遊んでいたのか前田や小夜達短刀もどうした事かと集まってくる。



「いつもの喧嘩みてーなもんだよ。な? 落ち着けって」

「落ちつけるかよ! お前があんなこと言わなきゃ」

「おいおい、話が見えないぜ。あんなことってなんなんだ?」

「そんなの後だ! おい安定、お前本当はなんて思ってたんだよ!!」

「本当も何も、さっき言った通りだよ」

「お前も主に不満があるわけ」



その言葉に数人がぴくりと肩を揺らし、薬研と鶴丸が一瞬顔を見合わせた。



「多分、逆なんじゃないの。主は僕のこと怖がってるみたいだし」

「……は?」

「元々、刀剣と距離を置くことが多いとは思ってたんだよ」

「ちょ、待てって。主がお前のこと怖がってるわけないだろ。それに距離を置くなんて」

「いい機会だから言わせてもらうよ。主は短刀達が一緒に遊ぼうとか一緒に寝ようって誘ってもほとんど断るよね。僕らとの話も早々に切り上げるし、ああ、怖がってるっていうのも僕と話してる時の主の顔よく見ればすぐ分かるよ」



嘲笑なのか自嘲なのか、どっちにしろ酷い顔だと目の前にいる安定を見ながらぼんやり思った。こいつとは長い付き合いだけれど、何を言ってるのかさっぱり分からない。聞きたくない。小さく数歩足を下がらせた俺を射抜くような目で見た安定はそれに、と続けた。



「山姥切や加州の言葉を否定したこと、ないよね。お茶を濁して手入れ部屋放り込んで」

「……っ」

「案外刀剣のことどうでもいいんじゃない? ほら、見送りとか出迎えもあんまないしさ。今だって、僕たちのことに気付いてるんだか」



そう言って視線をずらした先にはさっきよりも増えた刀剣がこちらを見ていて、けれどすぐに俯く。安定の言ってることは嘘じゃない。認めたくないけど何処かで理解していて、こいつらもそうなんだって。
そう考えると怖いくらい頭ががんがんしてきて、そんな俺たちを解散させたのは鶴丸だった。薬研とか、その辺りだろうと思っていたけど鶴丸も大分長く生きてるし。あいつは何も思ってないのかな。まあ俺と違って綺麗な奴だし、主にきっと愛されてる。それじゃあ、俺は。

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