不穏に歪んでいく



それぞれが解散した後も、皆の心は鬱々としたままだった。



「なあ薬研」

「……ああ」

「これはちと不味いんではないか?」

「だが流石に庇いきれない部分もある。俺も気にならないって言ったら嘘になるからな……いい機会、かもしれないが」

「そう上手く行けばいいが」

「ああ」



大将が悪いお人じゃないのは分かっている。大将なりに頑張っているのはわかっているし、無理を迫られたことはない。だが俺っちだって距離を置かれているように感じることはあった。



「あれ、主はまだ来てないの?」



燭台切の声に食卓が冷え切った。彼は問題の場にはいなかったもののこの時間までの間に話を聞いていて、思わぬ失言にしまったと苦笑いをする。



「まだ部屋にいるんだろう。俺っちが、」

「あの、ぼ、僕が行きますっ」

「……いいのか」



一番に声をあげたのは驚いたことに五虎退だった。先の先まであんな話をしていたのに大丈夫なのか、という意味合いで視線を向ければそれを見て前田と秋田が自分もと名乗りを上げる。事が事だけに五虎退が一番槍かと明るく茶化す者もなく、真剣な面持ちで彼らを見送った。



「ある、あっ、主様!」

「はーい」



返事の後にすっと障子が開いて笑顔の主様が顔を覗かせた。声も明るく優しい笑顔だというのに緊張で上手く言葉が出ない。



「みんなどうしたの?」

「あ、あの」



腕の中の虎を抱きしめる力が強くなる。肝心な時に、と眉を下げながらも上手く言葉を紡げずにいると凛とした声が横から聞こえた。



「夕食の準備が整いました」

「夕食? ……そんな時間か。ありがとう、すぐに片付けて行くね」

「ま、待ってます!」

「え」

「あ、ごめんなさ、あの、」

「ありがとう。でも寒いと思うから先に行ってて?」

「でも」

「わざわざありがとう。みんなにもすぐ行くって伝えてね」

「分かった」



静かに小夜が頷いて、すぐに背中を向けた3人が走り去っていく。



「め、迷惑だったのかな」

「そんなことありませんよ。ありがとうと主君も言っていました」

「でも、邪魔だったのかも……お部屋に入られたくないとか」

「そんな、」

「僕も朝、起こしに行くとすぐ戻るように言われる」

「、……」



心の中のもやつきは消えないままで、食卓へ行くとそれを感じ取った薬研が頭を撫でる。



「どーした、大将はいたか?」

「すぐ片付けて来るって」

「そうか。ありがとな」

「……兄上」

「ん?」

「主君は我々が部屋に入るのを嫌がっておられるのでしょうか」

「大将が?」



恐らく先に行っているように言われたことを気にしているのだろう。正直、本当のことなんて分からない。けれど今の空気が良くない方向に向いていて、このままじゃ良くないのだとも同時に感じていた。



「確かに近侍の仕事以外で部屋に入ることはあまりないが、俺たちは男で大将は女だからな。自分の部屋ってのは特別なんだ。だからそう暗く考えるな」

「そう……なのでしょうか」

「そうそう! 俺の爪紅もそーだけど、お洒落とかするんだから。女はそーいうの見られたくないんだって」

「流石女々しいだけあって良く分かってるね」

「煩い安定!」



二人の会話にふと空気がほぐれる。そう、ここは男だらけで大将は女で、なにより俺たちは刀で。……刀だから、距離を置かれている?



「ごめんお待たせ!」

「、ああ。いや、そんな待ってないぜ」



その日の夕食は思っていたよりもいつも通りの時間だったが、大将は何時もよりも急いで済ませてすぐに部屋に戻っていった。

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