こぼれおちてことばがきえてく



「───」



誰かの声がした。あのあと気持ち悪くなってきて、寝て起きたら頭痛も引いているはずだとまた無理矢理に眠りについたんだ。微睡む意識の中、出陣していたみんなが帰ってきたんだと理解して体をゆっくり起こそうとする。



「いい加減にしろよ」



瞬間思い切り腕を引かれ和泉守の顔が目に入った。



「え、あ」



眠っていた私を囲む第一部隊の面々と残っていた2人の姿。見送りどころか、みんなが戦場に行って帰ってきたっていうのになんてことを。さぁっと顔が青ざめていく。



「確かにお前は女で審神者だ、戦場に出ろとは言わねぇ。見送りも迎えも無理にしろとは言わねぇが、1日のんびり眠りこけてるってのはどうなんだ」

「っ」



怒気を孕んだ声に肩を揺らしてみんなを見る。怪我はない。加州が止めに入った。燭台切が宥める。元々仲は悪くないけれどぶつかる事は多い2人だ。どこかで昨日の予想は当たってたんだなと、私のせいなんだけれど、思って少し悲しい。



「加州、ありがとう。でも今回はみんなの事を放って眠りこけてた私が悪いから。……ごめんなさい、和泉守」



頭を下げると舌打ちが返ってきた。そして小声で一言。



「……今回は、かよ」

「え」



心臓がぎゅうと締め付けられたようだった。それはどういう意味なのか。眠っているのは今回だけじゃなくいつもじゃないかという意味か、他にもお前が酷いことしてるのに無自覚かよという意味か。
ああ、どっちもなのだろうか。でもそう思っているならいつかは言われる定めだったんだ。仕方ないと思うしかない。だって彼の言う通り私はいい主ではなかったんだから。



「和泉守、それくらいに」

「あの」



少し声が強張った。最初からこのスタンスでいるつもりだったんだから何も怖がることはない。大丈夫。



「本当に御免なさい。今回みたいに私の、良くない所があったら言ってください。直すようにします。私はあまり……その、主としても人としても凄く未熟で、馬鹿だから。……も、もし、……もしも、他の審神者の所に行きたいという人が居たら、希望通りいくよう努力します」



膝の上で拳を握って俯いた。言うタイミングが掴めなくて、はっきり言ったのは今回が初めてだった。残ってくれる人なんているんだろうか。いないかもしれない。本当は置いていかれたくはない。だけど。まだ残る頭痛がまた、酷くなっていく。
沈黙が痛い。誰か何か話して、お願いだから。何も言わずにここを出て行くとだけ言ってくれれば、泣かずに耐えられるから。

「……俺が、他の審神者のとこ行きたいって言ったら、そうするってこと?」



最初に声を挙げたのは加州だった。私の初めての刀、初めての相棒、初めての……。そっか、加州が。
あまりにもショック過ぎて、言葉も動作も何も出来ずに固まっていると、冷たくそう、と呟いて一人分足が遠ざかっていった。
空気がどんどん重くなっていく。俯いたまま顔が上げられない。短刀の子もいるのに申し訳ないけれど、こればかりはどうしようもなかった。



「じゃあこれからこうしたらいいんじゃねえかって思ったら、ちゃんと大将に伝えろよ、お前ら」

「……わかった」

「わかりました」

「和泉守、大将も以後気をつけるとの事だし、今回はそれでいいか?」

「お、おう……」

「んじゃ大将、後は今回の報告な」



冷えるぞ、と言って中へ促される。彼の分の座布団を出して向き合った。



「さて、大将は分かってるようだが話したいことはたんまりある。まあ時間はあるからな。先に報告するぞ」

「わかった」



少し鼻声だった。涙を溢さなかったのを褒めてほしいくらい、自分の不甲斐なさも和泉守に言われたことも加州のこともショックで仕方なくて、なんだかぼやっとする。気付かないふりをしてくれる薬研に甘えて目元を拭った。
いつもより機械的に報告がなされ、それを簡単にメモを取りながら聞いていく。多く出陣した地域ということもあってそれもすぐに終わってしまった。また、緊張が体を包む。



「んで肝心の話なんだが、その前にちょっといいか」

「なに?」

「そんな擦ったら充血するだろ。それに女が乱暴に拭うもんじゃねえ」



頬に暖かい温度と手袋が触れて薬研へと顔を向かされる。



「おいおい、顔が真っ白だぞ。冷えたんじゃないのか」

「大丈夫大丈夫、寧ろ熱いくらいで。それで、話って」

「……熱い?」

「いや、まあちょっとだから」



顔を顰めて問い直す薬研に慌てて少しだけだと伝える。彼のことだから体調を気遣ってくれたのだろうけれど、精神的に参った影響だったり泣くのを堪えた結果だったりしょうもない理由の大したことない症状だ。
ここでやっと平気だからと笑顔を浮かべることができた。けれど彼はするりと手袋を外すと直に額や頬に首に、まるで母親が子供の熱を確認するみたいに触れたかと思うとさっさと布団を敷き始めた。



「や、薬研! ほんとに大丈夫だっ」



慌てて立ち上がると頭痛も相まって熱すぎる視界にぐらりとよろめく。



「いいから寝てろ」

「でも」

「戻ってきてまだ布団に入ってなかったら怒るからな」



ぱたんと障子がしまった。今日は1日のほとんどを寝て過ごしてしまったせいで眠気はないし、寝たところでやる事がないから余計に頭痛や吐き気が気になってしまう。
少し自分の不甲斐なさを指摘されただけで気を落として、1人塞ぎ込んで体調を崩す駄目な審神者だなんて思われたらどうしよう。あれだけ嫌な思いをさせたにも関わらずこんな迷惑までかけて。

加州はもうお見舞いに走ってきてくれないな……。

ほんと、情けない。

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