伝わらない言葉に意味なんてきっとない



「どこ行くんだ、大将」



今日は1人でご飯を済ませ、いつもみんなが部屋に戻る時間帯を待って自室を出た。その途中で後ろから声をかけられる。



「……加州のとこ」

「今日はそっとしてやってくんねえか」

「もう寝てる?」

「いや、起きてはいるが」

「乱ちゃんから様子は軽く聞いてる。このままにしたくなくて、早く話をつけようと」

「話をつけるって、どういうことだ」



遮るように冷たい声が私に刺さった。こんな薬研の声聞いたことない。優しくて頼りになる薬研だからこそ、その変貌がまるで薬研も私を疎んでいるようで目の奥がつんとなる。きっと私の表情はばればれなんだろう。けれど口を開いて、けれどすぐ閉じ、視線を私から外した薬研が場所を変えようと庭を見ながら言った。



「さっき、話したいつったろ」

「うん」



案内された薬研の部屋は加州の部屋から遠くはない。彼の部屋は話が終わってからでいいだろう。



「単刀直入に言うと、俺はあんたが何を考えてんのかわかんねえ」

「っ」

「聞きたいことが多すぎて話が纏まんねぇんだ。だからまずは、さっきの話をつけるってどういうことか聞きたい」



泣きそうになって、情けない顔を晒しそうになったから奥歯をぎゅっと噛み締めた。俯く。
何を考えてるのか分からない、それはつまり、薬研が私のことを懐疑の目で見ていた。信じることが出来なくて、けれどそれをぶつけることも出来ない人物だと思われていた。そして、そんな私のために薬研を戦わせ、時に支えてもらい、時に助けてもらっていた。まるで薬研のその面倒見のよさにつけ込んだみたいに。



「……言いたくないのか」

「……」



首を横に振った。ただ少し待ってほしいと伝えようとしたけれど、みっともない嗚咽が漏れそうでそれを伝えることもままならない。鼻から息を大きく吸って、吐き出す。何回か繰り返して落ち着いたところで口を開いた。



「加州がどうしたいのか聞いて、その内容について具体的に話を進めようと思ってます」

「具体的にってのは……他の審神者を捜すってことか」

「そう望むなら」

「出来るのか」

「はい」



本当は行かないでほしいけれど、さんざん迷惑をかけたのにこんな私の所にいて欲しいだなんてあまりにもおこがましすぎるだろう。その上天邪鬼な私には誰かに泣いて縋って行かないでなんて引き止めることなどできない。他人になんと言われても、無理だ。
加州は自分から接することの出来ない私の分もたくさん話しかけてくれた。一緒に仲間を増やして力をつけていった。なのに私はその距離に甘んじて加州の核心に触れまいと無視し続けた。言い訳をつけて逃げもした。



「……大将は、それでいいのか」

「うん」



私に不満があるなら直すようにする。頑張って、どうにかしてみせる。けれどもう加州が私に愛想をつかしていてもう嫌になってしまったのなら、どこか他の場所に行きたいなら、希望を叶える。それぐらいしかもう私にしてあげられることはない。



「みんなにも一度聞こうと思う、これからどうしたいのか。薬研も何かあれば今のう」

「ふざけんな!」

「……あ」



鋭い声に心臓がびくりと音をたてたあと、不思議と意識が驚く体から離れていく。どくどくとスピードを増す心拍と裏腹に冷静になる思考。胸ぐらを掴まれたのは初めてだ。ふざけてないと言おうと思ったけれど、これは適切じゃないだろうと口を閉じる。



「俺っちは、ここにいる奴らは大将にとってそんなもんなのか……?」



はっとして顔を上げる。薬研がこんな切羽詰まった、辛そうな声をするのを初めてだ聞いた。
そんなもんだなんて、思ったことない。みんな大切で同時に尊敬していたからこそ自分じゃ駄目だと考えたし、それでも側にいてくれたから出来る限りやれる事をと行動に移したんだ。
それだけじゃ駄目なの?私は確かに頼りなくて不甲斐なくて責められる立場にあるけど、それでも、頑張ろうと思ってる。それじゃ足りない?そう思うこと自体いけない?
私は、私だって直接してあげられることはない分他のことしたよ。怪我をする前に帰って来るようにってして、怪我をしたらすぐに治した。刀装も必ず持たせた。みんなの気に入ってるおやつをたまに買ってきてそっとしまっておいたり、好きだと言ってた花の球根を道具置き場に置いてみたり、うまく戦闘を進めるコツを調べたり。私がみんなの話の腰を折ってしまうから混ざりたくても輪に入らないように距離を置いて、それで、それから、



「やげ、」

「大将」



引っ張られる力がなくなって肩の強張りが軽くなった。



「すまん、一人にしてくれ」

「…………薬研」



私を助け起こしてくれる手は差し伸べられない。返事もない。確実な拒絶だ。それも薬研からの。さっきの質問に答えようとしたけれど、そんなことないって、言おうとしたけれど何も言葉にならなかった。

行かないで!

ここまではっきり背中を向けられたのに縋ることなんて出来なくて私はそのまま踵を返した。



「ごめんなさい」



こんな主で。こんな私のところに呼んで。
襖を閉めきった。木と木がぶつかる軽く小さな音がはっきりと壁を作った。これじゃ加州のところに行けない。気力が湧かない。
逃げるように置いてあった適当な草履を引っ掛けて庭に出る。部屋に戻りたくなかった。みんなに厭われた私のいる、みんなに面倒な目を向けられることもない誰もいない私の部屋。



「っ」



初めて来てくれた刀。一番頼りにしてた刀。次から次へと消えていく。



「ぅ……、あ」



泣かないって決めてた。けれどもう。駄目だった。嗚咽が零れて瞳からは涙が溢れてくる。やだ、嫌だ。行かないで。

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