それは冷たく突き刺さる



辿り着いた部屋の前で立ち止まる。静かな廊下に声が響いてしまうのではないかと辺りを見回したが、ここで立ち止まらず勢いで言ってしまわないともう仲直りする勇気がわかない気がした。



「加州、起きてる?」



返事はない。寝てしまっているのか私と話したくもないのか分からず、もう一度声をかけた。



「加州と話したいことがあるんだけど」



暫くそのまま返事を待つけれど、部屋からは何の音もしない。明日になったら気が小さくなってしまいそうで今日のうちに話しておきたかったのだけれど。本当に寝てしまったのか、そう思って小さく息をついた。また明日……気まずい雰囲気の中で朝ご飯を食べたくないけれど、朝一っていうのも失礼だし。
考え込みながら部屋に戻ろうと腰を上げたところで、なかでどすどすと足音がした。あれ、と思った瞬間に開いた障子の奥から顔を出したのは大和守。ああそうだ、彼は同室だった。



「夜中に何の用」

「起こしちゃったなら御免なさい。加州に、話があって来たの」



勿論覚悟はしていたけれど、彼から向けられる言葉は冷たい。明日になれば他の刀剣達、きっと、薬研にもこんな目を向けられるんだろう。



「加州は寝てる?」

「寝てる。あんたにいらないって言われて相当参ってるよ。他の奴らも気にはしてるみたいだけど、初期刀なら尚更だよね」



やっぱりそう取られていたのか。そんなこと言ったつもりないし、私は勘違いのないように話したつもりだったんだけれど、と浮かんだ逃げを振り払った。



「分かった、じゃあ明日にするよ。ありがとう大和守」



小さく笑ってそう伝えると彼の顔がぐっと怒りに染まる。



「放っておいてよ」

「え」

「どうせ捨てるなら、さっさといなくなっちゃえばいいんだ」

「待って、捨てるっていうのは誤解で」

「誤解? ここまで追い詰めておいて何様な訳。あいつが何をしたって言うんだよ。あんたの為に頑張ってたんだろ」

「分かってる、加州がどれだけ」

「なら!!」



肩が跳ねた。悲しくて、それに怖い。



「なんで」

「だから私は捨てるつもりなんかない!」

「っ……急になんだよ。他の奴に批判でもされたからやっぱ捨てるのやめますってわけ?」

「元々捨てるつもりなんて」

「僕のことだって散々怖がってたくせに!」

「っ」



黙るつもりは無かった。捨てるつもりは無いことを、誤解だと分かってもらえるまで言い続けるつもりだったのに黙り込んでしまう。
私が大和守を怖がってたことを気付かれていた。そうだと認めたらいいのか、訳を話せばいいのか。訳ってどこからどこまで?どうやって伝えれば。
混乱した頭じゃ答えはすぐに浮かんでこなくて、狼狽える私を見下す視線が更にそれを煽っていく。

「確かに、大和守のこと怖がってた……わ、私の不甲斐のなさで、私のせいで、その、嫌われるんじゃないかって思ってたから」

「何それ。僕たちには散々好き勝手言っておいて嫌われるのが嫌だっての?」

「っ……そう、だよ」

「巫山戯るな……!」



がっと掴まれた胸ぐらと振り上げられた手を見て反射的に目を瞑る。殴られる、そう思ったが何も起きない。ぎゅっと閉じた目を開くと、振り上げた手を震わせながらそっと降ろす大和守。胸ぐらから離れた手が軽く押すように肩をついた。



「もう遅い。帰れよ」

「………」



きっと頑張れるって、さっきまでは思ってたのに。もう、酷く逃げたくて堪らない。明日もその先も、ずっと逃げてしまいたい。もちろんそんなの駄目だって分かってるから、せめて今日だけ。



「お休みなさい……」



踵を返した。どうしよう、どうしよう。誤解されてると思っていた。だから誤解を解いてなんとかしようって。けれどもう取り返しのつかない域まで追い詰めていたのかもしれない。私の言葉は悪い意味にしか捉えられない。そこまで追い詰めていたのなら、いっそ私は審神者を辞めて、皆はもっと優しくて、強くて、頼もしい人の所に。



「嫌だよ……」



その方が私にとっても楽かもしれないのにその方法を取ろうとは思えなかった。これが周りに誤解されたままでいたくないからだとしたら、なんて外聞ばかり気にする、嫌な奴なんだろう。

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