白黒モノクロ
私はずっと盾子ちゃんが死んだ場所に居続けた。何人もの絶望が私の所に来たけれど、ずっと居続けた。きっと顔も憔悴しきっているだろう。
「……うわ、酷い顔だね」
聞き覚えのある憎まれ口が聞こえた。久しぶりに見る顔に嫌悪感を覚えて、私は顔を顰めた。
「……今まで見てたけどさ、キミは何してるの?」
「放っておいて」
「ボクがキミの言うことなんて聞くわけないでしょ。ほら、行くよ」
何なんだろう。彼は私のことを嫌っていたはずだ。……きっと、たぶん。だから、差し伸べられた手を、私は無視した。
「……嫌」
「は? ここで衰弱死でもするつもり?」
「……それならそれでいい」
盾子ちゃんがいないのに、どうやって生きていったらいいかわからない。何もかもがどうでもいい。
「バカじゃないの? ずっとキミの事は絶望厨だと思ってたけど……ただの江ノ島信者みたいだね」
「そんなこと……! そんな、こと……」
言い返すことが出来なかった。私は、ずっと絶望厨だと思っていた。でも、あの時。迫る死の絶望を、私は恐れていた。絶望厨なら喜ぶべき死の絶望を、私は……喜べなかった。それをきっと、盾子ちゃんは見抜いていたのだ。最後の最後で揺らいでいた私を。だから、突き放したんだ。一緒に連れてってくれなかったのは、盾子ちゃんだけが死んだのは、私が……絶望に染まりきっていなかったせいなんだ。
「……はぁ……また来るから。それまで生きててよ」
そう言いながら何かを拾って狛枝くんは帰った。何を拾ったかまでは見ていなかった。どうでもいいからだ。
それから数日後、もう一度狛枝くんはやって来た。
「……さっさと行くよ」
何度来たって同じ。そう思っていたが、差し出された左手は他でもない……、
盾子ちゃんの手だった。
私は思わずすがり付くように腕に抱き付いた。
「あんまり引っ張らないでくれる? 取れるから」
「取れろ、私が貰う」
「……憎まれ口が叩ければ十分だね」
「……それで、行くってどこに?」
「キミが希望を語る団体……未来機関だったかな、そいつらになぶり殺されるなんておもしろくないし、とりあえずここじゃないところ。そうだな……誰もいないような静かな場所がいいな」
まだ掴んでいたままの左手を離し、私は彼の右手を握った。何も言わずに彼は私の手を握り返す。
……きっとどこかに白も黒もない世界がある。
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