記憶喪失
私が誰で、ここはどこなのか。私は何を忘れているのか。名前を名乗らない召使いさんは、今日も相変わらず胡散臭い笑みを浮かべるだけで何も教えてはくれない。彼の心を何度か読んでみてるけれどどれも断片的なもので、確信に触れることができない。
外は絶望の残党、モノクマキッズ、がうろついている。今のところはここがいちばん安心らしい。ここは希望の戦士とかいうコドモ達のホームで、私はメイドさんとして召使いさんと一緒に希望の戦士に仕えているのだとか。
「召使いさんの声を聞いてると何か思い出せそうな気がする」
「そっか、じゃあこれからはあんまり話さない方がいいね!」
「なんか……時々すごく、イラッとする」
「(…心当たりがかなりあるなぁ……このまま忘れ続けて欲しい)」
「心当たりがあるんですか?」
じーっ、と見つめて言うと彼はあっけらかんとしてそういえばわかるんだっけ。と言った。
「……相当ちょっかい出してたからね、あれは相手にしてもらいたいからだったんだなーって今になって思う。本当に子供だったなぁ……」
「つまり私に嫌われていたのね」
どうりで召使いさんの声聞くと妙にイライラするわけだ。そう納得したが、記憶を取り戻すにはまだ遠いなと思った。
「……あの時はボクも嫌ってたはずなんだけどね……大事なものは無くしてから気付く。よく分かったよ」
「なら記憶を取り戻した方がいいんじゃ……?」
「……いいんだよ、どうせ嫌われてたしね(あいつの事を忘れてくれるのなら、ボクを一緒に忘れていい)」
「……あいつ……って?」
そう言うと、彼の顔が強張った。聞きたくないものを聞いたような、そんな顔だ。
「……ダメだよ。これは絶対に教えられないんだ。ううん、教えたくない……かな」
「ふうん、そう」
これ以上はいくら聞いても無駄だろう。召使いさんは私が記憶を取り戻すことを嫌がってるみたいだが、わたしはやっぱり取り戻したいから。今日も手がかりを探している。なぜ彼はそんなに嫌がるのだろうか。
「……私に記憶が戻ると何か不都合でもあるの?」
「あるよ。記憶が戻ったらキミはここからいなくなるし、きっともう会えなくなる。ボク、結構キミの事気に入ってるんだ。だから戻って欲しくない」
気に入ってる、ただそれだけの事にしては随分と辛そうな顔をしている。嫌いだったはずの相手にこうなるだなんて、一体彼とは何があったのだろう。思い出せない。
「記憶が戻っても傍にいるよ」
「……へえ。ボク、嘘吐かれるのは嫌いだからね? 今言ったこと撤回するのは許さないから」
「えー。撤回しないという保証はできないけど」
記憶を取り戻したらどうなるのか、今の私には検討がつかない。自分のことなのに、自分がわからない。
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