抜け出す
自分の記憶の手がかりがあるかもしれない。けどそんな理由で外に出たいと言っても召使いさんに確実に止められてしまう。そう思い勝手に出てきてしまった。
なぜだか地面によく本が落ちているし、探せば何か知っている物があるかもしれない。運が良ければ未来機関という組織の人にも会えるかもしれない。希望的観測だが、今はそれに賭けるしかないか。
見付けたのは塔和シティのパンフレットだったり、子供の落書きのようなノート。そして、「死にたくない」「憎い」「殺してやる」といった呪いじみた内容のメモ。
……召使いさんが私を外に出したがらないの、よく分かるな。
辺りを見回すと現在進行形でモノクマに追われている人がいる。私と歳も変わらないようなくらいの女の子が二人。また死体が増えるのか。目の前の光景をどこか他人事のように眺めているとモノクマは爆発した。
最初は何が起きたのか理解出来ずに呆然としていたが、あの女の子が倒したらしい。どうして?どうやって?知りたい、聞きたい、話をしたい!
頭が現状に追い付いたとき、二人はもうすでにいなかった。おそらく建物の中に入ったのだろう。
中は当然のように廃墟だった。薄暗く、非常灯だけがチカチカと点滅しているせいで不気味さに拍車がかかっている。遠くから話し声が聞こえた気がしたので多分さっきの女の子達はいるのだろう。
……女の子二人でよく入れるな。
彼女らにも訳があるからこそこんな場所を探索しているのは十分理解出来る。けれど怖いものは怖い。幽霊か何かが……いや、そこに死体が転がっている時点でもうアウトだろ。
こうやって私が通り過ぎた後に動き出して……考えるな、感じろ……ではない、余計怖くなるから考えるな。
でも薄暗い建物、死体、一人。ここまで揃うとホラー映画か何かなら完全に被害者フラグが立つ。今にも後ろから手が伸びてきて……。
後ろから突然口を塞がれた。咄嗟に抵抗しようとしたが利き手を掴まれてしまい、上手く動けない)
こういうときはどうすればいいのか、思考を巡らせたが何も浮かばない。そりゃあ忘れてるし。外が危険だーと何度も言ってくるのなら対処法くらい教えておいてくれよ召使いさん。銃渡されたってまともに使えるわけないよ、素人だもの。
「何で一人で出歩いてるのかな?」
口から手を離されたので、振り向いた。
「一人で外に出るなって言っておいたのに……」
召使いさん、と呼ぶ前にまた口を塞がれた。
「静かにして。すぐに帰るよ」
召使いさんは私の手首をしっかりと掴んで歩き出した。
「嫌よ、私さっきの子達と話を」
「さっきの子……? まさかとは思うけど……セーラー服の女の子二人?」
頷くと召使いさんは私の手首を更に強く掴んだ。痛い、と言っても彼は聞く耳を持たない。
「絶対にダメ。さっさと帰るよ」
このままだと絶対に話すことは出来ない。しばらく外出もさせてもらえないだろう。私は大声で助けを求めた。
「っ!」
けれど、すぐに口を塞がれてしまった。でも気付いてもらうには十分だ。
「どこか隠れられるような……」
近くにあった部屋の中に入り、クローゼットに連れ込まれた。しっかりと抱き締められ、身動きがとれない。密着しているため召使いさんの心臓の音がよく聞こえる。顔には出していなかったが、相当焦っているようだ。
「……声出したら無理にでも塞ぐから」
部屋のドアが開く音がした。女の子の話し声が聞こえる。召使いさんの腕の力が強くなった。
「……本当に聞こえたの?」
「本当だよ! 助けてって声が聞こえたもん!」
「でもどこにも生きてるやつなんていないじゃない」
「……遅かった、のかなぁ……」
私はここにいる、思わず召使いさんの腕の中で身じろいだ。
「動かないで」
耳元で聞こえたその声は少し震えているような気がした。まるで何かに怯えているようだ。
「……先、進むわよ」
「あ、ま、待ってよ腐川さん、置いていかないで!」
どうやら部屋から出ていったようだ。静かになったのを見計らって、召使いの腕から解放された。
「……ボクらも出ようか」
「うん……」
クローゼットから出ると、召使いさんが疲れきったようにため息をついた。
「はぁ……一気に疲れた」
「ごめん」
「次は無いからね、今回だけは特別に多目に見てあげる。ほら、帰るよ」
差し出された右手を掴むと召使いさんは歩き出した。ちらりと見やった横顔は安堵の笑みを浮かべていた。なぜ彼はこんなにも必死に?いつか教えてくれる日は来るのだろうか。
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