取り戻す
私は思い出してしまった。自分は何者で、何をしていたのか。これからすべき事も。
とにかく一度彼と話をしよう。
「どうしたのメイドさん。そんな神妙な顔して。キミらしくないよ?」
「狛枝くん、久し振りだね」
「……!」
召使いさん……いや、狛枝くんはすぐに私が全て思い出したと察したようだ。
「……久し振りだね綾咲さん。今どんな気分?」
「絶望的に最悪ね。てか、凄く頭が痛くてまだはっきり思い出せないから状況を詳しく教えて」
「……江ノ島盾子が死んだのは覚えてるよね? オシオキの時、キミは突き飛ばされて生き残った。塞ぎ込んでた綾咲さんを連れ出したはいいものの……キミは……」
狛枝くんは辛そうに俯いた。俯いているのと長い髪の毛が邪魔して、彼の表情がわからなくなった。
「……想像出来る? 自分が守ろうと思った相手が自殺未遂だなんて。やっぱり江ノ島盾子を忘れる事が出来なかったんだろうね、後追いだよ。でも、幸運な事にキミは一命を取り留めた。けど、不運な事に今までの記憶を無くした。……あいつを忘れてくれるのなら、ボクのことも忘れたままでよかったのに……」
狛枝くんの苦しそうな声。そんな狛枝くんは知らない。いつも性悪な顔して、頭の回転が早くて、口を開けば憎まれ口ばだったあの狛枝くんがこんな風になってるなんて。
「どうしたの? 狛枝くんらしくないな」
「ボクはキミを愛してたんだよ。無くしそうになって初めて気付いたんだ。誰よりも憎くて愛しくて堪らない」
わざとらしく閉じた瞼の間からぐちゃぐちゃに絵の具を掻き回したような色の瞳が見えたような気がした。
「綾咲さん……記憶を取り戻したこれからはどうするの? やっぱりあいつの後を追う? それでもいいけど、ボクとしては是非このゲームの終わりを見てもらいたいな。江ノ島盾子の敵でもある苗木誠クンの妹さんが希望になるか、絶望になるか……。ボクは希望になると思うよ、いや、むしろなってもらわないとね(もう一度希望が絶望を打ち負かす所を見ればきっと……)」
妹、か……。そういえば妹がいるみたいなことを言っていたな。
「……死ぬと言うなら止めないよ。あっ、なるべく死体が綺麗になるように死んで欲しいな」
「死なないよ。また君の幸運に邪魔されそうだからね。それに……結構面白そうな事やってるみたいだし残ろうかな」
「そっか、ならこれからもよろしく」
何の躊躇いもなく私の手を握ってきた。今までじゃ考えられない。
「……ね、綾咲さん。愛してるって言ったの本気だから」
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