「狛枝くん、左手貸して」

「貸してもいいけど…代わりに何してくれる?
ああ……一応教えておくけど、くっついてるから取れないからね」

「いいから貸せ」

取れないからいいだろうと少し力を込めて引っ張ってみる。すると狛枝くんははぁっとため息をついてから何してくれるの、と聞いてきた。

「膝の上でおとなしくしててあげる」

「正直全く貸す気はなかったんだけど……それならいいよ。何しても文句は言わないでね」

そう言うと狛枝くんは私を膝の上に座らせ、胸に顔を埋めてきた。

「はぁ……癒される。目的のためとはいえ、召使いって疲れるんだよね……」

私はそんな狛枝くんを完全無視して彼の左手にそっと手を触れる。

「……相変わらずスルースキルは高いね。まぁ大人しくしてくれるだけでありがたいからいいか……」

狛枝くんの左手にすりすりしたり、ちゅーしたりしていると狛枝くんは何も言わないものの何かを言いたげにじっと見てくる。

「……(今左手が動かせるのなら綾咲さんの顔を抓ってやりたい。……死体の手に擦り寄るだなんて……悪趣味)」

「死体の手をぶら下げてるアンタに言われたくないわ」

「そうでもしないと綾咲さんは本格的にボクに興味がなくなるでしょ? キミの興味を引けるのなら手くらい安いものだ」

「確かにそうだね、どうにかこの手を切り離せたらもうこんな奴に用は無いのに……」

取れろ。そう念じながら狛枝くんの左を軽く引っ張ってみる。本気ではやらないのは、そうすると左手を貸してくれなくなるからなのか……彼と一緒にいる口実を失うからなのか。私にもよくわからなかった。

「うわぁ、酷い……傷付くなぁ……。でもキミにとっては残念な事に、何故だか取れなくなったからね。これが欲しくても、もう無理だから」

「ふーん……。私みたいなめんどくさい女好きになるなんて……とっても不運だったんじゃない?」

「でも、恋を知ることが出来た幸運の代償だと考えれば安い物だよ。それに……めんどくさい所も含めてキミだからね」

「恋を知れたのは幸運なの? 知らないままの方が幸せだったかもよ?」

「幸運だよ。報われないかもしれないし、辛い事も多いけれど……結構楽しいんだ。キミを毛嫌いしたまま二度と会わなくなるよりもずっと良かったと思うよ」

「ふーん……」

私も狛枝くんと一緒にいるのは悪くないよ。今はそれなりに楽しいって思えるし。絶対に言ってやらないけど。

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