01
突然、知らない場所に放り出されたというだけでも冗談ではないのに、そのうえ私の置かれている状況は命の危機と言っていい程に最悪だった。
視界に広がるのは自然豊かな草原とそこで私を睨みつけるのは見た事もないケモノだった。
一見狼の様にも見えるそれが一目で違うものだとわかるのは殺気立った眼光なのかまたは別の何かか。それが何なのか説明はできないが、ただの野性の動物ではない事だけはわかった。まぁ、私は狼なんて見た事ないんだけれど。
ケモノが喉を唸らせる。
喰われる、と思った。
こういう事態での対処法として正しいのは何だっただろうか。一つ言える事は相手に背を向けて走り出す行為が間違いだという事だ。
頭ではわかっていたが身体が本能で動いていた。
逃げなければ。死にたくない。
勝手に走り出す脚に身を任せ駆けていく。
間違った対処法が何だと言うんだ。そもそもこんな状況になった時点で、対処なんてできないんだから。
直ぐに飛びつかれるかと思ったが、意外にも距離は保てたらしい。恐くて後ろを振り向かないが足音はそれほど身近になかった。
しかし私の方が体力が持たず、疲労と焦りからか足がもつれてすっ転んだ。勢い余ってごろごろと転がる。草と泥で制服が汚れたが気にしていられない。
あぐ、と呻きをあげなんとか立ち上がろうと身を起こす。しかし、威圧感に充てられ身体が硬直した。
ケモノの咆哮がすぐ後ろで聞こえた。
あ、死ぬんだ。
鋭い爪が私の身体を引き裂いた。
「魔神剣!」
衝撃波の後、遅れて大きな音がした。
音の方に目を向けると、私を襲っていたケモノが倒れていた。
側には金髪の男の人が立っていて、私の元に駆け寄ってくる。その手には剣が握られていて、
この人が助けてくれたのか、とぼやっした頭で考えた。
だがケモノは退治されたと言うのに男の顔は強張っていた。
「今傷の手当てを」
傷。そうだ。
私の身体。
「…!?」
男の顔が驚愕に変わる。それもそうだろう。
だって、確かにケモノの爪は私を引き裂いたはずなのに。あの鋭い凶器が肌に食い込み、引き摺られる感覚が、確かに身体に残っていたのに。
私の身体には傷一つ無かった。
.