名前は優秀で聡明な部下だと思う。
女性ながら剣の腕も立ち、男にも引けを取らず先陣を突っ切る姿はとても勇ましく頼りになる。
戦闘面だけでなく判断力や決断力も優れているし、部下への気配りもできる。欠点と言える欠点も無く周りが羨む程の騎士で、自分の部下という引け目を抜いても褒め称えて余りある。
が、僕は彼女の事が少しだけ苦手だった。

「隊長のご友人と思われる男が騎士団所属の騎士と騒動を起こしたと報告があります」
「…またユーリか」
「下町へ見回りに出ていた騎士と揉めたとの事ですが、何故かフレン隊長宛に苦情が届いてます」
「何故か、ね…」

話を聞く限り、その騎士が見回りを放棄して市民の女性に絡んでいた、俗な言い方をすればナンパしていたらしい。女性は嫌がり抵抗したが騎士は聞き入れず無理やり手中に収めようとした所を通りすがったユーリが助けたという事だった。
これが本日起こった騒動らしいが苦情内容はこうだ。見回りをしていた騎士に下町の男が言い掛かりをつけて斬りかきってきた、と。
偽りの報告をするんじゃないよ。
ユーリのした事は人助けで間違ってはいない。けれども彼は元騎士であって市民なのだから、別の騎士に報告するべきなのだ。
余計な恨みを買って、また騒ぎに巻き込まれて、またそこで恨みを買う。悪循環は目に見える。

「女性はユーリ・ローウェルに感謝していた様ですし、無視されても良いのでは」
「…いや。ユーリには私から注意しておこう」

そう告げ彼女に退がって貰おうとして、彼女の目がじっと此方を見る。
見透かすような目。心中を探るような、逸らす事なく真っ直ぐ過ぎる眼差し。突き刺すと言うか貫くと言う方がしっくり来るような。
名前は時々、いや、頻繁にこの目で僕を見る。
僕が彼女に苦手意識を持つのは多分、この目が原因だった。

「隊長はユーリ・ローウェルが好きなのですね」
「へ!?好き!?いや、どう、かな…」

予想外の台詞に素っ頓狂な声を上げてしまう。
こんな、部下の前で。普通に恥ずかしい。
好きか嫌いかと言われれば好きだろう。多分。
幼馴染みで親友で信頼もしている。最近は信頼より心配の方が大きいけれど。
向こうも同じような感情を持っている筈だ。
この間も今日と似たような件でユーリに注意をしに行ったら、小煩いとか真面目すぎるとか石頭とか姑みたいとか融通が利かないとか色々言いたい放題言われたが僕達は親友で……。いや何だ姑って。煩いもなにもそもそもユーリが…!あぁ、くそ。何だか腹が立ってきた。

「嫌いではないよ」
「…そうですか」

納得したようなそうでも無いような微妙な表情だ。目はまだ逸らされていない。
謎の沈黙と共に数秒見つめ合いの時間が続き、彼女の視線は僕の目から離れた。
緊張から釈放され、こっそり息をついた。
目力が強いというか、迫力があるのもあって、あまり長時間見つめられると少し恐い。
前世メデューサとかなのかな。石化しそうだよ。ストーンボトル常備しておこう。

「嫉妬してしまいますね」

え。何が?誰に?僕に?ユーリに?
何のこっちゃと思っていたらまた視線が繋がった。
逸らさない。吸い込まれそうになる。

「私は隊長の事、大好きですから」
「…そ」
「そ?」
「そうなんだ。ありがとう」

どういう意味で?
部下として慕ってます的な?
だとしたら喜ばしい事だろう。こんなに思ってくれる部下がいるなんて嬉しい話だ。
いやでも嫉妬って。
ただ尊敬しているだけと思えない視線で貫かれる。
あの目が。いつも僕を射抜くあの目が。熱を持っている様な気がしてくらくらした。
何事もなかった様に彼女は視線を外すと、失礼します。と一言置いて部屋を出て行った。

助かった?
いやいや。助かってない。

僕は石にされたみたいにその場から動けなかった。



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