赤葦くんの監禁日記
※グロ/リョナはありませんが、暴力を含む描写があります(首絞め)
※何でも許せる方向けです
※赤葦くんは死ぬほど疲れているし、夢主も疲れています
20××/05/17
この頃やはり人というものは性悪説でできているのではないかと、そう思案している。
最近元気がないと思っていたなまえが、職場で倒れた。連絡を受けて血の気が引く思いだった。病院に慌てて駆けつけたら、意識のない状態でベッドの上で点滴に繋がれているではないか。医者から話を聞くに、原因は恐らく過労だという。倒れた時に運悪く階段を降りている途中だったので頭を打った可能性があるらしい。ぶつけたであろう手足の所々から痛々しい痣が見えていた。
気が付かなくてごめん、と目を閉じたままの彼女に謝った。返事はなかった。
俺がなんとかしなくては。
20××/05/18
仕事終わりに面会に行った。意識を取り戻していた彼女は、「迷惑かけてごめんね」と開口一番そう言った。いつも責任感の強い彼女は、謝る癖が中々治らない。
迷惑なんて思ったことはない、と答えた。
あれこれ気になってしまって仕事が手につかないし、眠れる気もしない。
20××/05/20
土曜日なので、朝から面会に。結局一睡もできなかった。頭を打ったので精密検査が要るらしい。それで何もなければ退院できるとのこと。包帯で巻かれた額が痛々しい。傷跡が残ってしまったらどうしようか。色々考え込んでしまう。
身の回りのもので何か必要なものはあるか聞いたら、午後に母親が届けてくれるというので一安心。
……していたものの、家族水入らずだろうと思って離席していたら戻ってきたときに彼女が母親に鞄で殴られていた。金がどうとか、お前が仕事をしてなかったら生活がどうとか、よく分からないことを怒鳴り散らす声が病室の外にまで響いていた。その間、なまえは泣くでも怒るでもなくただじっとして耐えていた。
あんな表情の抜け落ちた彼女は初めて見た。
間に割って入って、警察を呼ぶか聞いたら不満そうな顔で母親は去っていった。
「またママに怒られちゃった」と彼女は眉尻を下げて言っていた。隠しているようだったけど、手は震えていた。
人間とは、こんなに醜悪な生き物だったのだろうか?
20××/05/21
しばらく仕事を辞めてうちで暮らそう、と提案したらなまえはこれ以上家族や俺に負担は掛けられないし仕事にも戻ると言う。
家族のことをそれとなく聞けば、就職してからずっと、給料のうちのかなりの額を家族に渡しているという。一人暮らしなのにそんな額を払っていたら生活が成り立たないだろう。そう思って尋ねたら「私の方は色々切り詰めていて……」とのこと。清潔感のない身なりでは勿論なかったが、確かに同世代の女性と比べればかなり質素な生活を送っているであろうことは、見て何となく察してはいた。まさかそんな状態だったとは、思いもよらなかった。
退職の手続きは代理でも進められるのだろうか。
色々、家で用意をしなくてはならない。
20××/05/22
なまえがようやく退院できる。
精密検査も異常なしと聞いて安堵のため息が出た。
少なくとも会社には行かせられないし、あのような家族とも会わせられない。
ひとまず車で迎えに行った。私は大丈夫なのに、と助手席で繰り返す彼女に全然大丈夫なように見えないから、と押し切って自宅まで連れ帰った。
何か不安のしこりのようなものが、自分の奥底に居座っていて中々落ち着かない。
それも、一緒に生活できれば解消されるだろう。こんな形で同棲を始めたくはなかったが、渡りに船というところだろうか。
備忘:合鍵を作れる業者を探す 部屋を引き払う
20××/06/01
午後半休をなんとか勝ち取って、代わりに退職手続きに行った。
なまえの会社に行くと上司らしき社員の男が出てきて、彼女が休んで皆迷惑しているので早く復職させるようにと繰り返し俺に言った。なまえに過剰なタスクを与えて追い込んだことは歯牙にもかけていない様子だった。はらわたが煮え繰り返るような心地がして、平生を装ってはいたが顔には出てしまっていたかもしれなかった。退職させますので所定の手続きと書類を送ってくださいとだけ告げて話を切り上げた。
部屋を出て握りしめていたこぶしを開いたら、爪が食い込んで血がにじんでいた。
家族も、学校の先輩や級友たちにも、こんな露悪的な人々はいなかった。
俺は周囲の人間に、恵まれていただけなのだ。
20××/06/05
頭痛がひどい。まだ動悸が治まらない。
仕事から帰ってきたら、部屋の中は真っ暗で、なまえがいなかった。嫌な予感がして慌ててマンションの周りを探しに行った。いなかった。もしや、と思い彼女の暮らしていたアパートに行ったら、部屋のドアの前で蹲る彼女がいた。頬が赤く腫れて、目尻には涙の痕があった。
家族から連絡が来て、今月のお金、渡せって言われて。声を詰まらせながらそう話すなまえを抱きしめて一緒に帰ろうと促した。もうそんなことしなくていい、それぐらいしか言えない自分の無力さが恨めしかった。
スマホは解約して、連絡できないようにしなければ。
それから、彼女を救うには、
████しかない。
お互いが安心できる最善策は、多分これだろう。
それぐらいしか、考えつかなかった。
20××/06/16
もう他人は信用できないから家から出ないでくれ、と頼んだ。俺だって人一人養うくらいは難しくない。
「ずっと家にいて仕事もしてなかったら、頼れるの、京治くんだけになっちゃうよ」と言って泣いていた。
それの、何が悪いのだろう。会社の人間や家族ですら、信用に値しないというのに。
「京治くんが仕事をしている間に外に出ようとしたらどうするつもりなの」
と聞かれたので、物置から結束バンドとガムテープ、ビニール紐を取り出して目の前に置いたら、正気?と尋ねられた。至って正気だと答えたら彼女は口をつぐんだ。理解してもらえただろう。
刃物のような鋭利なものに手が届かないように全てしまった。リビングのドアを改造して、部屋の中から開かないような鍵つきのシリンダー錠をつけることにした。
俺以外に、なまえを救う権利を、与えたくなかった。
これで一安心だ。
20××/06/28
一緒に暮らし始めて、一ヶ月と一週間が過ぎた。
話しかけても反応してくれないことが増えた。
朝から夜までずっとベッドの中にいて、帰宅すると暗くて何も見えない、レースカーテンの向こうを見ているようだった。
逃走を企てているのではないか、と毎夜不安になってしまい、なまえが眠りにつくのを確認してからでないと寝られなくなった。
20××/07/19
食事の量が明らかに減っている。
心配だ。
昼ご飯を置いて行っても、大体手つかずでそのままになっている。夜帰ってきて一緒にご飯を食べようと声をかけたが、いらないと一蹴されてしまった。
夏バテかもしれない。明日からは少し疲労回復になるようなものを作ろう。
20××/07/25
夢を見た。
知らない海辺の、岸壁のテトラポッドの上を二人で手を繋いで歩く夢だった。
俺が先に歩いて、後ろから反応がないと思って振り返ったら、なまえは忽然と姿を消していた。慌ててテトラポッドの隙間を覗き込むと、彼女の着ていた白いワンピースが引いては返す波の上でゆらゆらと揺れていて、探しても探しても、体はどこにもなかった。
最近はこんな夢ばかり見て数時間おきに目が覚める。気分は、あまりすぐれない。
20××/××/×8
こんなはずじゃない
とっさに俺は
あの子の くびを ████
うごかなくなった びっくりして手をはなした
いきはしていた
いきていた
こんなことがしたかったわけじゃない
████ ████████
20××/××/×9
気がついたらリビングのソファの上で寝ていた。
手のひらに体温に似た生ぬるいあたたかさと、薄皮の下で何かが脈打つ感触がずっとこびりついて離れないでいる。
昨日はどこかおかしかった。なまえが帰りたいと子供の起こした癇癪みたいに突然暴れだして、とても手が付けられる状況ではなかった。
暴力で止めるなど言語道断だが、どうにかしなければと咄嗟に███████
引っ掻かれてみみず腫れになった腕がひりひりと痛い。
家はすでに引き払ってあるのに、どこに帰るというのだろうか。あんなショックはもう二度と味わいたくないというのに。
「けいじくんおはよう! あさごはんはね、きいろい目だまやきがいいな!」
俺の元にやってきたなまえはショックで記憶が飛んでしまったようだった。
ひたすら謝った。膝をついて縋るように手を握ったら、状況を理解できていないのか彼女は不思議そうにニコニコと俺を見て首を傾げていた。
20××/09/01
なまえの好きな作家の新刊が出るとリリースが出ていたので、今度買ってこようか聞いたら「んー……だれだっけ?」と言われてしまった。
度々彼女が読んでいたシリーズの続刊を買っては家に置いていたが、それも全て手付かずになっている。
20××/09/06
なにか、おかしくなってしまったかもしれない。
それだけは理解しているのに、何をどこで間違えたのか分からないでいる。
罪悪感なのか良心の呵責なのか、得体の知れない何かが俺を押し潰そうとしているのは確かに違いなかった。通勤途中の電車の中でそんなことを考えて、動悸が止まらなかった。
けれど、帰ってきて「おかえり!」と抱きしめられると、どこかホッとしている自分がいる。今日も俺のそばにいてくれて、嬉しい。この状況がずっと続いていけばいいのにとすら思う自分がいる。
それを実現させるには、どうしたらいいだろうか。
20××/10/8
朝からリクエストのホットケーキを焼いた。
なまえは逃げようとしなくなった代わりに、どんどん子供みたいになっていった。食べ物の嗜好も、物事の考え方も。
「けいじくんはおりょうり上手だね」とぼろぼろテーブルに食べかすをこぼしながら彼女はにこにこと上機嫌でそう言った。
好きななまえのためだからねと答えたら、わたしのどこがすき?なんで?と最近多いなぜなぜ攻撃が始まってしまったので、付き合っていたら二時間が経っていた。
俺が求めていたのは、生ぬるくて甘ったるい、こんな幸福だったのだろうか?
……自信がない。
20××/10/15
そうか、結婚すればいいのか。
神託に似たひらめきが降って湧いた。原稿を取りに外出した時に区役所に入っていくカップルを見かけた時だった。
住民票を移して、戸籍も切り離して家族からは閲覧できないようにすれば、なまえが家族に追い回されて家に来られる心配もないだろう。
指輪はどこで買うのがいいのだろう。これも調べておかなくては。
20××/10/20
今日は土曜日で休みだったが、仕事が残っていたので作業しようと朝早くに起きたものの、
「今日はおやすみ!いっしょにねるの!」
二度寝しようと俺の腕を引っ張るなまえに連れられて、再びベッドの中に引き込まれてしまった。
頭を抱きしめられてベッドの中にいるといつの間にか眠ってしまった。飛び起きたら随分日は高いところにあった。
20××/10/15
そうか、結婚すればいいのか。
神託に似たひらめきが降って湧いた。原稿を取りに外出した時に区役所に入っていくカップルを見かけた時だった。
住民票を移して、戸籍も切り離して家族からは閲覧できないようにすれば、なまえが家族に追い回されて家に来られる心配もないだろう。
指輪はどこで買うのがいいのだろう。これも調べておかなくては。
20××/10/20
今日は土曜日で休みだったが、仕事が残っていたので作業しようと朝早くに起きたものの、
「今日はおやすみ!いっしょにねるの!」
二度寝しようと俺の腕を引っ張るなまえに連れられて、再びベッドの中に引き込まれてしまった。
頭を抱きしめられてベッドの中にいるといつの間にか眠ってしまった。飛び起きたら随分日は高いところにあった。なまえがいなくなっていないか心配したが、隣で静かな寝息を立てて寝ていた。
……久しぶりにまともに眠れた気がした。
20××/11/15
たまには顔を出した方がいいだろうと一次会だけのつもりで部活のOB会に出たら、珍しく木兎さんがいた。オフシーズンでスケジュールに余裕があると言っていた。近況を聞かれたので結婚しますと答えたら「赤葦、ケッコンすんの!?」と木兎さんが大きな声で叫ぶので、俺の周りに悪ノリに乗る先輩方が集まってしまった。話す相手を間違えた。
彼女について根掘り葉掘りうるさく聞かれたが、指輪はプロポーズの時はサプライズだからサイズが合っていなくてもよく、後日お店で調整してもらうのがよい、と最終的に教えてもらえた。必要ならば婚姻届の証人もやってくれるという。証人欄を誰に書いてもらえればよいか困っていたからこれは助かった。
しかしなまえは店に連れて行けないし、指輪は一体どうしたものか。
「赤葦、なんか悩んでそうだな!誰かにちゃんと話した方がいいぞ!アレだな、小松菜みたいなやつ!」と最後にそう言って木兎さんは帰って行った。
恐らく小松菜は報連相のことだろう。木兎さんはその辺りの本能、嗅覚みたいなのが昔から鋭いと思う。敵わない。
20××/11/28
「ちょうちょいるよ」朝叩き起こされて、なまえが開口一番寝室の天井を指差して俺に言った。蛾でも入ってしまったかと思って探したが、部屋には何もいなかった。「ちょうちょ、たくさんいるよ」何もない部屋の空中を掠め取るように掴んで、その手のひらを俺に見せてくれたが、当然何もない。その様子がかわいいとは思いつつも見えないものは見えないので「俺には見えないよ」と指摘したら絶対にいると言い張ってとうとう泣き出してしまった。
失敗した。否定するべきじゃなかった。
20××/11/28
濡れた髪を梳いてやろうと首に触れたら、なまえの体がびくりと跳ねてそのまま動かなくなってしまった。
その時気付いた。俺が信用できないと思っていた彼らと俺は、彼女にとっては大差ないのではないか?
そう思うと突然恐ろしさが込み上げてきて、なまえの体を抱きしめた。体はすっぽり腕の中におさまって、前にも増して痩せてしまっているようだった。
そのうちどんどん小さくなって、最後には消えてしまうのではないかと想像が嫌な方へ傾いて、思わず腕に力を込めた。彼女は不思議そうな顔をして「そんなにつよくしなくても、どこにも行かないよ?」と呟いた。
明日はもっと、いい日になるって、けいじくんがいってたから。そう言われて頷いた。
昨日と同じ日常を繰り返す今日には、停滞しかないのに。
20✕✕/12/05
どうするのが正解だったんだろう。四六時中そんなことを考えている。
今のところ、俺は二択の選択肢を永遠に間違え続けているのだから。
だけど、もう後戻りはできない。
結婚しよう、と夕食を取り終えたあとに口にした。恋人同士の最終的なゴールとしては当然のイベントだからか、不思議と緊張しなかった。
「けっこんしたらずっと一しょにいられるの?」
彼女の問いにそうだよと答えて指輪を左手の薬指に通した。サイズは測ったはずなのに少し隙間が空いていた。また痩せてしまったのだろう。
結婚の意味すら理解しているのか分からなくなってしまった彼女への贖罪として、
こうなってしまった責任を取って、一生涯をかけて償うから、
だから、
絶対に、こんな俺を赦さないでくださいね。
ARCATRAZ