守人
「付け入るって、」
「冗談やって。気にせんといて」
不穏な表現に私が眉を下げて怪訝を露わにすると、侑が手をひらひらと振って否定した。
「それより、角名のことほんまに知らんのか」
治が横からぐいっと割って入って、私に詰め寄った。スナという人物のことは全くもって知らないのでただ首を縦にこくこくと振る。
「……わざとか?」
「わざとやろな」
「わ、私嘘はついてない」
「違う違う、美葉が嘘ついてへんのは分かるで」
「原因の察しはつくけどな」
「私とその角名って人は何か関係があるの?」
双子はまるで私が角名という人間のことを忘れているかのような口ぶりで先ほど質問をした。ならば私が記憶になくとも、彼らは知っているのではないか。そんな疑念が浮かんだ。
「あるで。美葉が覚えてへん、昔の話やけどな」
「詳しいことはオレらも知らんで。せやけどなあ――」
淡々と、しかし訥々と、私の耳元に顔を寄せて、囁きを吹き込んだ。
なあ美葉、知っとるか。角名倫太郎はな、お前の魂を壊そうとした悪〜い奴なんやで。
その言葉が耳奥でこびりついて、ずっと反響していた。
私はそれを聞いて、咄嗟にズボンのポケットを上から押さえていた。
もはや条件反射の域に達した行動だった。
ポケットの中には少し膨らんだ赤地に金刺繍で“稲荷神社”と施された御守りが入っている。いつからかは分からない。これをずっと肌身離さず身につけていて、不安になるといつもあるかどうか確認してしまう癖があった。擦り切れて布地はボロボロだが、捨ててはいけないと誰かに言われて以来毎日欠かさず持ち歩いている。
大丈夫だ、ちゃんとある。
指先で感触を確かめて、胸を撫で下ろす。
「そないに怯えんといてや。もっと虐めたくなるやろ」
そう言ってきゅ、と目を細めた侑の横で、治が溜息を吐いた。
「侑のしょうもない冗談は置いといて」
「しょうもないとはなんやボケ!場が和んだじゃろがい!!」
「どこがやアホ。……ともかく、まあ覚えてへんのやったらそれでええ。オレらもその方が都合ええんや」
それは忘れていて良いことなのだろうか。
もしかすると、思い出してしまうと何か治たちには良くないことなのだろうか。頭の隅で、疑念に似た何かが明滅を伴ってチラついた。
いや、今はやめておこう。そう考えて私は首を振ってそれらを端に追いやった。それよりも先に、私は目の前の双子について理解しなければならないのだ。
「ところで、どうしてあの祠に封じられてたの」
私がそう尋ねると、双子はバツが悪そうに私から目を逸らした。
「えーと、なんやっけ」
「忘れてしもたなあ」
これでは、彼らの正体が分かる日はいつ来るのか分かったものではなさそうだった。