白くてふわふわガールズデストロイ!

なんてことない日常
普通に会社行って仕事してどっさり残業して終電で帰る
家に着いたら風呂!飯!寝る!そして朝5時起床!という28歳の独身社畜の健全すぎるホワイトな生活
ただ、その日いつもとは一つ行動が違った
たまたま昨日休みだったから晩飯用にどっさりと煮物を作った
そしてたまたま残った煮物をタッパーに詰めて今日お弁当として持ってった
これがいつもと違う点

「よぉ!今日は昼どこ行く?」

何時もの如く同僚のランチコール
俺は弁当の包みを掲げて振り返った

「おー、今日はべん…とう…アレッ?」

振り返った先には同僚は居ませんでした
ただ、なんだがふわふわした女の子がいらっしゃいました

「こんにちは〜、突然ですが変わって頂けますか〜?」

年の頃は15.6程、真っ白なワンピース、真っ白なふわふわカールの髪の毛の女の子
少し垂れ気味な大きな目は瑞々しい若葉の緑
会社というダークなスーツ色の中に一際目立っている筈なのに誰も存在に気づいていない様だ

「はい?どういう意味?」

「では、お願いしますね〜」

にっこり微笑んで少女はぺこりとお辞儀した瞬間視界がブラックアウトしたが、瞬きする程の間があっただけで、次に目に飛び込んで来たのは見たこともない風景、人に至っては日本人は見当たらない金髪碧眼ばかり
そんな異国情緒溢れる人々の視線を自分が集めていた

「ウソだろっ!?え?何?ドッキリか?」

扉を開けたら異世界とか、穴に落ちたら異世界って言うのは聞いたことあるけどさ、振り返っただけで異世界って言うのはちょっと無理ありませんか?

「うるさい!黙ってろ!!良いか、お前ら動くなよ、動いたらこいつの頭が吹っ飛ぶ!」

声を上げた次の瞬間腕に痛みが走り、頭の真上程からの怒声と共に右のこめかみには何か硬い物が押し付けられていた
端からみたら正しくテレビで見たような人質の状態であった

「クソッ!そこをどけ!道開けろっ!」

拘束している強盗らしき男が急に動いた為
背中に捻りあげられた右手から見慣れた大きめのハンカチに包まれたお弁当が落ちた
捻られた痛みが、お弁当の包みが現在の状態が夢ではないと、こめかみに押し当てられた金属から伝わる重厚感が嘘ではないと主張している

(俺はこのまま殺されるのか?)

日常では普通経験できない緊張感、嫌な汗が背中を伝う

(死にたくない、死にたくないッ!怖い!)

見慣れぬ外国人の哀れむような、心配するような周りの視線すら恐怖を煽る

(誰か助けて、神様仏様!)

ギュッと目を閉じて跳ねる心臓を抑えようと呼吸に意識を集中させる

「その手を離したまえ!君にはもう逃げ場はない!そして逃がさない!」

背筋が伸びるような毅然とした声に安堵を覚え顔を上げて声の主を探す
が、それっぽい人物は見当たらずなんだか特撮のヒーローっぽい鉄仮面が正面に見えるだけだ

「黙れッ!こっち来んな!撃つぞ!本気だからなっ!くそッおい!女!さっさと動けぇッ
!」

鉄仮面が急に現実感を失わせ、これは夢ではないのか?と頭が冴える
焦っている後ろの男がグイグイと引っ張っているのは俺を盾に逃走しようとしているのかと、頭のシナプスが繋がった
冷静になった俺が頭を上げると視界に白いふわふわしたものが動く、下を向くとふわふわした白いスカート、これまた白い脚をチラリと見せた

「お嬢さん!動かないで、必ず助けます!そして助かります!」

あぁ、夢じゃん!
女装願望なんてないのに何でこんな感じの夢を見るのか、ストレスでも溜まってるのかな〜と少し余裕も出た
お嬢さんとの呼びかけも自分に向けたものだと思うと笑えてくる
俺28のおっさんです
ふと、夢なら俺ちょっとやってみたい事あるんだよなと、昔からの趣味が頭をよぎる

「あの、痛いので少し離して?逃げないからお願いします」

背後で拘束している男に、見た目がお嬢さんとの事なので少し可愛目にお願いしてみたところ背中に回された腕が緩んだ

「ありがとうごさいますっ!」

緩んだ瞬間男に背中を預け両足を頭の方に蹴り上げ男の首を足で絡め取った

「んガッ!」

そのままの勢いで上半身を振り腕を自由にし勢いを付けでブリッジの要領で体重移動すると
グシャッ!と音を立てて男が崩れ落ちるが足は離さないそのまま足を抱えて固める
変則的なフランケンシュタイナーだが男を拘束できてしまった
やっててよかったプロレス同好会

「が…ぅあ…っ…」

顔面から地面に着地した男は意味をなさない呻き声を上げてダウンした
力が完全に抜けたのを感じて手を離し男から体をどかした

「こわっ…技かけるのも命がけだなこりゃ」

技をかける途中地面が迫って来るのには流石に恐怖を覚えた
ガクガク震える足から力が抜けペタリと地面にへたり込んだ所で急に背後から拘束されると、見えていた地面がものすごいスピードで離れていく

「ひうあぁぁぁッ!…」

後ろ向きジェットコースターよろしく地面が遠くなった
しかしいきなりふわっと止まった感じがして落ちるのかと、ギュッと目を閉じ体を固く縮め身構えた

「あ…あれっ?」

が、一向に落下の感覚は襲ってこなかった
代わりに何だかしっかりと抱え直されていた
28のおっさんが人生初のお姫様抱っこを経験したのだ

「もう大丈夫!そして大丈夫!」

人を安心させる効果しかないような声が近くで聞こえ、先程冷静さを取り戻したきっかけの鉄仮面が顔の近くに見えたが、今は空中だ
落ちる恐怖しか感じず縋るように鉄仮面の首あたりに腕を回し全力で抱きついた

「ごめっ…高いとこ…無理ッ!なんでもするから下ろしてっ!」

「グッ…大丈夫だっ落とさないから」

相当締めてしまったのか鉄仮面は苦しそうに一声呻いたが、怖がらせないようにかゆっくりと着地した
今まで高所恐怖症とは無縁だった、通天閣や東京タワーには登った事もある、スカイツリーはまだ行ったことはないが高いトコは別に問題なかった
が、思い返せばジェットコースターのあの金玉がヒュンってなる感じはあまり得意ではなかった

(ダメだ俺もうジェットコースター乗りたくない、いや乗りたくない…)

「ちょっとスカイハイいつ迄抱っこしてんのよォ〜」

目を閉じてジェットコースターに思いを馳せていたので着地に気づかないで、抱きついたまま運ばれていたようで恥ずかしながら目を開けた所とんでもないものが目に飛び込んで来た

「ぅわっ!」
「ちょっと失礼ね!人の顔みて驚くなんてっ」

異様に近いガタイの良い赤い覆面の唇オバケがクネクネしてる様に緩んだ腕に力が入った

「…ッ…」

図らずもまた鉄仮面の首を締めてしまった

「あぁ!ごめんなさい!すいません直ぐ退きます!首締めてすいません!」

慌てて手を離し地面に足を下ろすとやはり力が入らない
差し出された鉄仮面の手に掴まり生まれたての子鹿のようにガクガク震える足で何とか立つ

「お嬢さん怪我は無いですか?無ければ少し話を聞かせて欲しいのだが…」
「何、スカイハイナンパ〜?あんな事があったんだから少し休ませないと。性急過ぎるオトコはモテないわよぉ」
「ファイヤー君の言う通りか、一旦病院で診てもらってから…」

(面白い夢だ、いきなり人質になって、女になって、空飛んでと、もう脳みそお腹いっぱいだから覚めていいんだけどな…)

何だが微妙にズレてる二人の会話は頭の中をグルリと回って視界もグニャリと回った

「ちょっとッ!あんた大丈夫?!」
「今搬送車が来るから安心したまえ!」

フワフワと海に浮かんだように身体が揺れているのを最後に意識は途切れた