寂しがり屋な貴方に

「ゴミ付いてんぞ」
「あ!有難う御座いますっ!」
「一々反応すんなよ。取れねぇだろが」
「っ!…すいません」
「別に怒ったわけじゃねぇから!いい加減慣れろよ!」


【寂しがりやな貴方に】


「動くなよ」
「はっはい」
「お前なぁ…」

消極的で必要な事以外に異性と話す事がなかった私は、あの日から多少男性と云うか、この人達に慣れてきた。
だけどそれ以前にチキン(自分で言うのが悲しい)なので言葉使いや少しの動作にも反応し、悪い方に考えてしまう。
凄い怖いくど、皆根は優しいんだ…そう、ニヤつきながら人をいたぶっていても根は優しいんだ!
でもこんな私が会話を出来ると云うのが今までにない、大きな進歩。
自分から声を掛けるのはまだ勇気がいるけど…

「ほら、取れ…おわっ」
「あっ天地さん、どうしたんですか!?」

黒岩さんが私の髪に付いていたゴミを取ってくれたと同時に、天地さんが黒岩さんを蹴飛ばしてしまった。
何故?優しい黒岩さんが気に入らなかったのかな。
天地さんを見上げると、目が合った。
だけど「ひぃっ!」と小さく叫び、また元の目線に戻る。
今私の目線は天地さんの胸あたり。
そして天地さんの目は何故か怒りに満ち溢れていた。

どうしよ!きっと知らないうちに何かしてしまったんだ…
そして黒岩さんは八つ当たりに遭ってしまったんだ、後が怖い!
………まだ視線が突き刺さる。
横目で辺りを見るとガガさんがこちらを面白そうに見ている。
傍観者ですか!?助けてはくれないのですね!

うねうねと思考していると、天地さんが髪を触ってきた。
うわぁ!何ですかぁっ!いきなり!
先程ゴミが付いた所を触っている。
無言…無言は怖いからやめてほしい…

「…帰るぞ」
「えっ!は、はい」

口から出たのはそれだけで、天地さんはさっさと出入り口に向かってしまった。
私は横目で地面に横たわっている黒岩さんに罪悪感を抱きながら、ガガさんに一礼しすぐさま後を追う。
何をしてしまったんだ、本当に…
一段と殺気が漏れているのが後ろ姿でも分かる。
普段互いに会話をしなくても傍にいるだけで心地よいのに、今だけは胸と喉の間に何か詰まっているようで苦しい。
だけど、声を掛けるに掛けられない。
掛けてはいけない気がする。
隣を歩くのは怖いので、2歩ほど下がって付いていく。
一向に、天地さんは口を開かない。

…もしかして、嫌われてしまった?
きっとそうだ、だから怒っているんだ。
自分じゃそうじゃなくても、知らないうちに彼を傷つけてしまったんだ。
嗚呼どうしよう、私は何をした?
人に嫌われないよう常に気を張って相手を伺っていたのに。
嫌われたらこれ以上不に落ちる事はない。
そんな私は何時まで経っても泣き虫で、目尻に涙が溜まってきた。
鼻も痛くなってきて、そろそろ頬につたうだろうと思った時だった。

「……」

前を歩いていた天地さんが止まった。
振り向く事はないようだけど、どうしたんだろうか。
だんだんと視界がボヤけ、瞬きをしたらまたハッキリとなる。
同時に頬が冷たくなった。
うぅ…泣いてしまった。

「…別に、お前に対して怒ってるわけじゃねぇよ」

では殺気なんて出さないで下さいよ、怖いから。
なんて事は言えなく、でも何かに怒っているのは間違いない。
いいのですか?理由を聞いてもいいんですか?き、聞きますよ?

「なっ何に、怒ってるっんです、か…?」

泣いていて上手く喋れない。
自分に対してではないのに、今度は安心して涙がほろり。
私の喋り方に違和感をもったのか、天地さんがようやく振り向いた。

「……何でお前が泣くんだ」
「うっ…気にっしないでっ下、さい…」

俯き、手の甲で涙を拭う。
いつも泣いてばかりでご免なさい。
メンタル弱くてすいません。
はぁ……溜め息が聞こえた…すいません。

「泣くな。お前にじゃねぇ」
「ずっずみばぜん…」

鼻水は垂れてはいないけど、鼻が詰まって少し苦しい。
メソメソしている私を見て、天地さんは視線を外した。

「あいつが…」
「…あいつ?(黒岩さん?)」
「お前に触ったからだ」
「………え」

黒岩さんが、私に、触った…天地さんが、怒った…
ハッキリと間違いなく繰り返す。
そそっそれはつまり、世間で言うしっしし、しっ……しっと…?嫉妬!?天地さんが!?
なっ何だろう、なんか、なんか…

「てっ照れますねっ!」
「……」

純粋に…そう、純粋に思った。
他に言葉が見つからず、それだけが浮かんだ。
エヘ!とでも云うような、少し抜けた顔をした私を見る天地さんの目は、瞬時にギラついた。
グニィィ…両手で左右の頬を軽く抓られる。

「てめぇ、人が真剣に話してんのに何だ?その返事は」
「ごっご免なしゃい!」

ヒリヒリ…全然軽くなかった。
だって、本当に照れるじゃないですか…
あの天地さんが嫉妬とか凄く嬉しいんです。
何か愛されてる、そうやって自惚れてしまうのだ。

「でも蹴るのは駄目ですよ…黒岩さんに申し訳な」
「俺の前で他の男の名前を言うな」
「……」

我が儘、だ。
何故だか私が悪い立場になってないですか?
天地さん、俺は間違ってはいないと云う表情をしている。
こんな感じなのは今に始まった事ではないけど、毎度悩まされてしまう。
だけど、天地さんは優しい。
その度に私はドキドキしている。

「私の、こっ恋人(小声)は、天地さん…だけ、ですから…」

……うわぁ!何恥ずかしい事を言っているんだ私は!
と云うかその通りだから!何か私が二股したみたいになってる!?
まるで痛い子みたい!?
顔を上げると案の定、天地さんは目を丸くしている。
私だってこう云う事言うんですからねっ!

「名無子」
「っ!」

ドキッ…胸が高鳴る。
普段、天地さんは私を名前で呼ばないので驚いた。
うぅっ、だんだんと顔が熱くなってきたような。

「…当然、だろ」

腕を引っ張られ、再び歩き出す。
歩調は私に合わせてくれて、私の腕を掴んでいた手は下がっていき、手と手を繋ぐ形となった。
ここっこんな事滅多にない!
今、この貴重な一時を壊してはいけない!!
繋いでいない方の手で自分の頬に触れてみた。

「(あっつい…)」

私より20cm以上も高い天地さんを、少しだけ顔の角度を上げて見る。
天地さんの耳も…真っ赤だ。
少しだけ、少しだけ、天地さんに寄り添った。