弱々しい訪問者

インターホンが鳴ったので、誰とも確認せずに扉を開けた。
宅配やセールスかもしれないのに。
先程まで本を読んでいたが、頭に入っていた物語なんて一気に彼方へ飛んでいってしまった。

「天地さん…」

一目見ただけでボロボロ。顔には痣や血が目立つ。
立ってられるのかと云う程、目の前の天地さんは痛々しかった。

「………」
「わっ」

天地さんは目も合わせず、私に倒れてきた。
力のない私は当然相手が怪我人でもかなわず、尻餅を着く。
重い扉は支えを無くし勝手に閉まる。
上半身を起こすと、私の腰は天地さんの両腕によってホールドされ、お腹には天地さんの頭。
足の間に天地さんの体。
何だろう、泣いて母親に抱きついている子みたい。
とりあえず天地さんの頭を撫でてみる。

こんなにも彼をボコボコにする人がいるものなのかと、新鮮な気持ちになる。
嗚呼、制服がこんなに汚れて…
肩や頭に若干の雪…傘もささずに来たのか。
今日はすごく寒いのに、駅から私の家まで距離があるのに。
そんな中此処まで来てくれた事が嬉しいなんて、今の私はずれている。

以前も目立つ程の怪我をした事があったけど、その時は家まで来なかったしピンピンしていた。
この状態でこそ私の家ではなく病院にいってほしいんだけども…

「負けちゃいました?」
「……」

こんな事を言って私は無事でいられるのだろうか。
先程よりも締め付けられてる腰が更に圧迫される。
悔しい?泣いている?

「意味がわからねぇ…」

しばらくするとポツリと聞こえた。

「世良と、タイマンした時とは違ぇ…あの時俺は勝った、俺が勝ったのに外れた感じだった……」
「……」
「けど、あいつに負けたのに、後ろからガガ達が付いてきた…負けたのによ……」
「……」
「負けて良かったって意味わかんねぇよ…」
「……"負けて良かった"ではなくて…」

そっと天地さんの頭を抱き締めた。
私は喧嘩とか、ましてや不良界隈なんてなはわからない。
だけど、天地さんが気付いていないか認めないのかは知らないけど…

「"付いてきてくれて良かった"ではないですか?」

貴方はそれに気付かないでも認めないでもないんだ…"わからない"、そうなんだ。
ずっと一匹狼だったのか仲間に打ち解けてなかったのか、ここにきてやっとそんな気持ちが芽生えたんですね。

「今回、は…試合に負けて…勝負にも負けちゃいました?」
「…お前も意味わかんねぇ」

次第に天地さんの肩が震えだした。
嬉し泣き、ですか?
………あ…

『お前は、これから何が起きても…俺から離れねぇか?』

前に彼からこんな事を言われた。
何が起きてもって、貴方が喧嘩に負ける事を意味していたのだろうか。

「天地さん」
「…………」
「強いから人が付いてくるわけじゃないですよ…この人だから、付いていきたくなるんです…ガガさん達も」
「…………」
「天地さんが負けた…きっと、この先の事に大きな価値と云うか、繋がりが出ますよ…」

誰も貴方から離れませんよ。

「……寝る」
「…へ?」
「1時間経ったら起こせ」

お休み3秒で彼は眠りについた。
…誰!?天地さんがここここんなに無防備だなんて!
半端のない力で腰をホールドしていた腕は床に落ち、お腹に押し付けていた頭は私の膝の上へ。
取り敢えず普段できない事をしてみる。
で、人が寝ている顔を覗いた。

「あ、寝顔可愛い…」

彼が今寝ているから言える事。
……あの、私は暫くこのままですか?
硬い床なので、長時間座っているとお尻が痛くなるのですが…

「……ふふ、天地さん私も付いていきますよ」

何が起きても起こっても。