ようやく十四歳になった。
けれどその時にはもうハイカラシティの賑やかさは色褪せていて、普通の街と何ら変わりない場所になってしまった。あの電車に乗って数多のプレイヤー達はイカした街へ旅立ったのだろう。ここに残っているのは、私みたいな左も右もわからない初心者か、大層な変わり者。もしくはやる気のないイカしてない奴等だった。
幼馴染みのボーイ君はあっちへ行ってしまって、私はここでひとりぼっち。一緒に行けば良かったと思いつつ、今日もイカしてない奴等とナワバリバトル。ランクが上がるまでもう少し我慢。ガチマッチになら緊張感溢れるイカしたバトルがまだ出切るらしい。私はもうここで頑張るしかないんだと思った。
イカスツリーに入ってナワバリバトルのエントリー完了。案内されたルームに入ると、まだ三人しかいなかった。私で四人目か……。微妙なタイミングに少し気落ちする。イカが減ったこの街にとって、メンバーが揃わず試合が流れてしまうのは珍しくない。このまま集まらなければエントリーのやり直しになる。それが少し面倒くさいのだ。
「ねぇ、入れないんだけど」
「え!? あっ、ごめんなさい!!」
そう言えば出入口の前に立ちっぱなしだった。後ろから来た五人目?の緑のイカガールに声をかけられて私は慌てて退いた。は、恥ずかしい……。
退いた私には目もくれず、イカガールは椅子に座って、まだ私が扱ったことのない細長いあの武器を下ろした。
あれに泣かされた回数は数知れず。
あれは長距離射程の武器。チャージャーと呼ばれるその武器は、何処からともなくプレイヤーを撃ち抜いてくる厄介なしろもの。今までの経験上、大抵が強いプレイヤーで何度も何度も苦しまされた。味方に居れば心強いので、あのイカガールが敵になりませんように、と彼女を横目で見ながら祈った。
時間制限ぎりぎりにメンバーが揃った。色は青と黄緑。場所はモンガラキャンプ場。
出陣ゲートに移動すると、チャージャーが味方に居た。あのイカガールだ。色が変わっていて判断がしにくかったけれど、彼女の着ていたギアは色が変わらないものだったからすぐに気が付いた。
残りの二人は私と同じシューターだ。二人に限った話ではないが、ランクが低い私にはその性能も名前もよくわからない。一人が持つあのまるっこいのは一撃で倒す奴で、もう一人が持つあの赤いのは見たことすらなかった。
「あ、君、わかばだ。じゃあ塗りよろしく」
「シクヨロー」
私を見るなり二人そう言った。塗れない武器なのだろうか、と疑問に思いながらも私は「わかりました」と聞き入れる。きっと多分、私が一番弱いから。
試合が始まった。
シューターの二人が先陣を切り、チャージャーはスプリンクラーを横の円形の広場に投げて二人に続いて行った。私は左側の道から中央まで塗り歩く。中央の塀の向こう側から悲鳴が耳に入った。敵のものなのか味方のものなのかわからない。だが、チャージャーは塀の上で毅然と構えていた。どちらにしても彼女は上手いプレイヤーのようだ。
塀を登り、溜まったスペシャルゲージを使ってバリアを彼女にお裾分け。他の二人は見かけなかったので相手陣地の方へと塗り進んで行く。水門の上から相手のゲート下にボムを滑り込ませて復活したばかりの敵を倒した。
「やった、一人倒せた!」
思わず声にしてしまう。
後はデスをしないように塗り続けよう。今回はそれが目標、と言うことにしよう。
水門から降りて足場を塗った。そのまま円形の広場まで移動し、相手ゲートの方に振り返る。そろそろ復活して襲いかかってくるかもしれない。気を引き締めてシューターを構え直す。
だけれども、辺りは青く塗られたまま、イカの姿は見当たらない。いったいどういう事だろう? 前に上からの奇襲でやられたことがあるが、見上げてもイカの姿はなかった。
嫌な予感がし、それは当たった。
『カモン! 敵は全員こっちに来てるから一緒に戦って!!』
仲間からの通信に応えるべく、私はスーパージャンプで陣地に戻った。バリアもあるから大丈夫だろうと。
しかしこれは致命的なミスだった。
キル慣れしていない私が戻ったところで誰かを助けられる訳がない。敵にとって私はせいぜい動く的。私が塗った所も綺麗に塗りかえされてしまった。どうしようもない。私は結局十回以上もやられてしまった。結果は言うまでもなく、圧倒的。
「ざこ」
解散時、通り過ぎ際にそう囁かれた。
――悔しい。悔しい悔しい悔しい!!
「……あ、の!」
二人の後に続いて帰ろうとしていた彼女を呼び止めた。
彼女はチャージャーであったにも関わらず一番塗っていた。キルだってしていた。あの二人より強かったのだ。だから私は言わなければならない。
「……チャージャーさん、私のせいで、ごめんなさい」
私が弱いから負けたのだ。せめてあのシューター達くらいには強かったらこんな結果にならずに済んだのに。二人にざことも言われなかっただろう。
何の反応もない。それを尋ねることも、彼女の顔を見る勇気もなく、自分の足元ばかりが視界に入る。
あ、やばい。
「……謝るくらいなら、上手くなりな。あいつらを見返せるように、沢山練習するんだよ。わかばちゃん」
それは優しい声音だった。親が子を思うような、そんな、お母さんのような優しさだった。
こらえていた涙がどっと溢れる。
拭って、再び前を向いた頃にはもう彼女の姿はなく、言葉だけが頭に残っていた。
負けたくない。私、強くなる。貴方みたいに。