浅茅生の
堪え切れなくなった。
御幸は不安そうに自分のことが好きかと尋ねる名前を思いっきり抱きしめた。
「うっ」
名前が少し苦しそうにしていても、離してやる気はなかった。自分が今までどれほど耐え忍んできたのか。わからないなら、分からせるまで。
「一也くん?」
『浅茅生(あさじう)の 小野の篠原 忍ぶれど
あまりてなどか 人の恋しき』
「それは?」
「名前に言おうと思って、調べた」
名前は赤面した。こんな至近距離で言われて恥ずかしい事この上ない。
「名前は俺がもう好きじゃないと思った?」
「ええ」
こくんと小さく頷く。
「この歌意味わかるだろ。ずっと耐えてきたんだ、この想いに」
名前の瞳からほろりと一粒の涙が溢れる。
「でももう耐え切れないくらいに、お前が恋しいよ」
涙を流したのが久しぶりのように、拭ど拭ど涙が止まらない。
「……好き」
「キスしたい」
「一也くん」
「耐え切れないって言っただろ」
「っ」
生暖かい口付けを受けた。きっと自分はずっとこれを望んでいた、と名前は思った。その逞しい両の腕で力強く抱きしめてくれるのも、彼の全てが、彼の愛が惜しみなく自分に向けられているのも。
「んっ」
そして自分の溢れるような愛を彼が受け止めてくれていることも。
御幸に恋して約1年間、名前は不器用ながら和歌で気持ちを伝えてきた。さながら今は、滝川の急流が今一度合流することを望んだ、瀬をはやみの歌のごとく。伊吹山のさしも草のような、燃えるような恋心を伝えたかった自分が。
「好き」
きっともうお互いに耐え切れなかった。身を焦がすような恋をした。
これからまだまだたくさんの障害が自分たちを待ち構えているだろう。御幸は野球で、名前は百人一首で。お互い道を極めたプロとして、数々の試練を超えていかなければいけない。しかし、いつまでも貴方の隣にいようと名前は誓う。いつまでも貴女を守り続けようと御幸は言う。
そこは愛を誓う教会のように、二人は永遠の幸せを願った。



浅茅生の 小野の篠原 忍ぶれど
あまりてなどか 人の恋しき
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