#03
The Past

俺には可愛い可愛い弟がいる。目に入れても痛くない、本当に可愛い弟だ。

一個下の弟は、なんでも俺の真似をしたがった。野球も料理も。結局名前は野球をやめてしまったが、今では俺より料理がうまい。野球をやめた理由も、にいちゃんがプロ目指せ。俺は父さんの後を継ぐ、だった。自分だって野球がやりたかったくせに、それを譲ってまで俺にその夢を託した。弟のためにも絶対プロになってやる、そう誓った。

弟は小さい時から空気の読める奴だった。母がいないため男三人暮らし。大変だが、別に悪くないとそう思っていた。
しかし、中学生になってから、弟はよく傷を増やして帰ってくるようだった。

「名前!その傷どうしたんだ!」
初めて弟の怪我を見た時、母によく似た綺麗な顔に傷は似合わないなと思った。急いで手当てしてやろうと思って、救急セットを用意すると自分でやるからいいと俺をはねのけた。
前まではそんなことなかったのに、一体何があったというのか俺には皆目見当もつかなかった。

野球の練習日、上級生が俺の才能に嫉妬して殴りかかってきたことがあった。それでもめげずに、練習に行けば先輩たちは驚き悔しい顔をしていた。その次の日から、ピタリとそれは止んだのだ。やっと、認める気になったか、そう思った俺は本当に馬鹿だった。
「お前、弟がいるだろ」
「は?なんでそんなこと知ってるんすか」
「別に、じゃあな」
そういうと、先輩たちはくすくす笑ってグラウンドを後にしたのだ。変な奴、その時はそのくらいしか思わなかった。
さらに数日が経ち、弟はよく傷を作って帰ってくるようになった。名前どうしたんだよ、なんで俺には何も言ってくれないんだ。お前の兄貴だろ。そんな言葉を言ったところで、弟はダンマリを決め込んでいた。
その日も練習があり、くすくすと笑っている上級生たちは胸糞悪かった。一体全体どうしたっていうんだ。上級生の下卑た笑みに、弟の傷。考えれば考えるほど、わけのわからないことだらけだった。
「なあ、御幸」
先輩の一人が話しかけてきた。
「お前、弟がいるんだろう?」
「またその話か……。前も言ったけど……」
「弟、可愛いよなぁ。俺も弟が欲しかったよ」
「何?」
「従順で可愛い弟がさぁ」
ゲラゲラ仲間たちと笑う上級生に、ピンときた。まさか、そんな。俺のせいで名前が傷を作ってるとしたら……。
俺は居ても立っても居られなくなり、急いで自宅に向かって走っていった。玄関を開けると、其処にはうつぶせに倒れている名前がいた。
「名前、名前、おい、目ぇ覚ませよ!」
揺すっても弟は目を覚まさない。
「ごめん、ごめんな名前。お、俺のせいで……!」
「……兄貴?」
何度もなんども呼びかけると、やっと弟が反応した。名前の顔には痛々しい傷が何個もあり、傷に手を当てながらゆっくり起き上がると、わり、寝てたわなんて言い、そそくさとリビングに入ってしまった。俺は名前を追いかけ、リビングに入る。救急セットを準備し、手当しようとしていた。
「名前、なんで何も言わないんだよ」
我慢の限界だった。
「お前その傷、俺のせいでやられたんだろ!」
「だからなんだよ」
「は?」
「兄貴はまっすぐ野球やってればいいだろ。俺が怪我したってなんだって、気にすんなよ。俺も男だし」
「何言ってんだよ」
正直、弟の言葉は意味がわからなかった。自分が怪我しても、気にするな……だと……?
「……名前、はっきり言ってくれよ」
弟が何も言わないこと、全て自分のせいであることに苛立ちが隠せない。
「はっきりか……俺に構わないでくれ」
名前はそれだけをいうと、救急セットを持って自分の部屋に帰ってしまった。
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