#04
SAID.K.

御幸一也という男。


「最初から仲が良かったわけじゃないぜ」

そこまで可愛い可愛い連呼するなら、見せてみろよ。俺が放ったこの一言がまずかった。
途端、御幸はニヤニヤしだしてあまり使うことのない携帯電話を、制服のポケットから取り出した。
御幸の携帯を覗くと、写真から『弟』というフォルダを開く。そもそも弟限定のフォルダがあることに驚きだが、そのフォルダが100枚以上もの枚数を保存していることが一番の驚きだった。
「きっ……キメェ」
正直言ってマジで引く。此奴は度を超えたブラコンだったのだから。
「どの名前がみたい?」
どの弟なんてあんのかよ、しかも名前名前って言うのかよ。
「お前にしか、弟の名前言ってねぇから秘密な」
全身に鳥肌が立った。弟の名前を秘密にしてるあたりキメェ。
「フツーのでいい。言っとくけど、フツーのやつな」
念には念を押し、フツーのを、と連呼すると、フツーのねぇ……と言いながらフォルダを漁る。
「これなんかどうだ。名前が初めて自分で髪を染めた時、上手く染められなくてプリンみたいになったやつ」
そういって見せてきた写真には、確かにプリンの様になった頭を抱え、恥ずかしそうに俯く少年が……「ってぇ!テメェ!フツーのやつって言ったろ!」
「可愛いだろ」
御幸は愛おしいものを見る様にその写真を眺める。
「こいつ、俺と違って地毛が黒髪でさ。中学行ったら染めるとか言い出して……」
はっはっは、と笑って携帯を閉じた。
「この頃はすれ違いが多くて、名前を傷つけちまった。俺野球ばっかりで、ちゃんと兄貴として弟の悩みにも気づいてやれなかったんだ」
「御幸……」
眼鏡の奥の瞳が細められる。その時を思い出しているのだろうか……。
「俺ばっかり、好きなことやっちまって、弟は何一つ自分の好きなことをできなかったんだ。馬鹿だろ、本当は兄貴が譲らなきゃならないのに」
「兄弟とか、居たことねぇからわかんねぇ」
素直な感想だった。
「あいつ、自分は馬鹿だから中卒で親父の仕事手伝うって言い出してさ。親父の負担軽くさせたいって、本当に社会人になっちまった」
俺と弟の立場、間違ってたのかもな。御幸は最後にそういい、机の上のスコアブックに目を落とした。
らしくねぇ、本当にらしくねぇ。
いつもいつも可愛い弟中心の変態のお前が、らしくねぇ。
正直、御幸のブラコンには引いているが、弟のことでプレーに影響が出るなら話は別だ。
「ひゃは、本当にらしくねぇよ」
「は?」
御幸が顔を上げると、思いっきり額と額をぶつけた。
「いっ!何すんだ倉持!」
「らしくねぇって言ってんの!キメェぐらいのブラコン野郎が気落ちしてたら笑えねぇ!」
御幸の胸ぐらを掴み、目線を合わせる。
「いいか、テメェがブラコン変態野郎でもな、プレーに影響が出たらゆるさねぇ」
パッと胸ぐらを掴むと、御幸はガタっと音を鳴らし、椅子に座る。
「ヒャハ!どんくせぇ」
それだけをいうと、俺は教室を後にした。
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