#06
Me俺が生まれた時を同じくして、母が亡くなった。父と兄から、母を奪ってしまったのだ。
父は、男手一つで俺たち兄弟を育ててきた。しかし父も人間なわけで、全てが賄える完璧な父ではなかった。幼少期から1つしか変わらない兄が俺の面倒を見てくれていた。母がいない分、家事などを兄が補っているのを見て、俺も手伝おうと思った。
その頃から一番思っていたことは、『俺が母さんの命を吸い取っちゃった』ということだった。自分がいなければ、父も兄もこんなに苦労することがなかったし、もっと自分の好きなことをできたんじゃないかと、考えずにいられないのだ。
毎日毎日、同じことを考えていた俺が出した答えは一つ。父と兄が好きなことをできる様に、自分が我慢しよう。それだけだった。
小学生の時に兄と始めた野球も、兄は捕手以外てんでだめで、バッティングも走者がいないと全然だった。兄がだめなことは自分が補う様にできた。打率も自分の方が高いし、内野守備も様になっていた。しかし、それでも兄は楽しそうに野球をするもんだから、ああ、きっと野球が好きなんだと思った。
中学に入ると同時に、野球をやめた。兄はぐんぐんと頭角を現し、天才捕手とまで呼ばれる様になった。兄が野球に集中できる様に、全ての家事を俺が賄った。そして暇さえあれば、父の仕事も手伝った。最初父は、お前も自分の好きなことをやれと聞かなかったが、何度も押しかければ終ぞ折れて、父の負担を軽くすることができた。
なにもかも、自分が我慢すれば丸く収まる。そう気づいた時期に、上級生への兄の暴力が始まった。兄はうまく隠している様で、全然隠せていない様だった。顔にできた傷も俺が手当てをしている時、さりげなく聞くと階段で転んだ等のベタな嘘をつく。兄が隠したいことを弟の俺が掘り起こすのも野暮だと思い、その件に関しては黙っていることにした。
それからだ、今度は俺に暴力が回ってきたのは。
兄が怪我していないなら別のいいかな、なんて軽い気持ちで受けていた。上級生も黙って受けている俺に気を良くしたのか、大体数分程度でやめてくれる。痛いとか、やめて欲しいとか、そんなのどうでもよかった。Mではないがむしろその暴力は心地の良いものだった。父と兄が『お前のせいで母が死んだ』と責めている様だったからだ。
戻る