バレンタイン2018
2月、誰もがパッと思い浮かぶ大型イベントとしてバレンタインがある。しかし今日というその日まで私には疎遠なイベントだった。
誰がかっこいいとか、誰と付き合いたいとか、そういうのも全然なくて健全な女子高生としては、そういうのもどうなのと友人は言っていた。それだけ私には関わりのないイベントだった。……だったのに。
「名前、クリス君に渡せそう?」
「きびい」
「そんなこと言ってないで、頑張りなよ」
「……」
いざこの日になって、気になる男子がいる女子はこういう気持ちなのかってようやくわかった気がした。こんなに心臓がどくどくして、まだまだ寒い季節にもかかわらず体はポカポカしてむしろ暑いくらいで。うぅ、吐きそう。
「名前がそんなにあがり症だなんて初めて知ったよ」
「……そんなことない」
そんなことないし、今日だけだし。心の中でそう呟いても隣の友人には伝わるはずもなく、あろうことか彼女は私の背中をドンと叩いた。
「ファイト」
「ぐっ、気持ち悪いのに」
空気の読めない人だ、そう思った。
そもそも何で自分がクリス君を好きなのか、そんなのもうわからない。いやわかる。単なる一目惚れだった。かっこいいとかそういうのじゃなくて、ただひたむきに目の前の物事に取り組む姿勢というか、とにかく自分には出来ないことを彼はそつなくこなすのだ。だから、普段お菓子作りなんてしない私が必死になって、友人に教わりながら頑張って作ったのだ。受け取ってくれればいいけど。



私たちは高校三年生で、部活も引退している彼に渡す機会なんていつでもある。しかし、自分の行動力のなさからかずるずると放課後まで引き伸ばしてしまった。ああ、早く渡して楽になりたい。
とりあえずクリス君を探そうと教室を出た時、ばったりと目的の彼と会ってしまった。
「名字今帰りか?」
ああ、眩しい。そう言って今から私からチョコをもらうなんて知らない彼がにこやかに笑うのだ。
「うん、あのさ」
「俺に用か?」
「うん、これ渡したくて」
そう言ってぎゅっと紙袋の紐を握りしめていた件の物を渡す。彼は驚いてそして今日がどういう日かを思い出したようで、またにっこり笑った。
「ありがとう。名字が俺に気があるなんて知らなかったよ」
そうね、そうよね。だって言わなかったし隠してたし。今日初めて公開告白のようにチョコレート渡したし。
「うん、あの、義理とかじゃなくて、クリス君が好き」
もうここまで来たらいうしかないよね、そう思って私ははっきり気持ちを伝えた。そうしたら彼は曖昧に笑った。
「ごめん、俺は名字のことそんな風には見てなかった」
「知ってる」
うん、知ってるよそんなことくらい。でも今日くらいちゃんと伝えたかった。
「でもちゃんとお返しするから」
じゃ、と言ってクリス君は去って行った。どこまでも甘い彼は、ちゃんとお返しも渡すと言ってくれたのだ。
「ま、それだけで十分だよね」
私はそう呟いて帰路に着いた。さっきよりもすっきりした気持ちで、あの気持ち悪さからは解放された。多分振られたのに、気持ちは晴れやかだった。




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バレンタイン、女子の皆さん今年も頑張ってください!
1ヶ月後、クリス視点書きます。
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