終焉の先へ
「結局貴様の言う通りになったな」「ね、だから言ったでしょ。彼は愛に守られてる」
ヴォルデモートの最期はホグワーツ城で、たくさんの魔法使いの前にさらされた。もちろん彼を倒したのはいつかの"生き残った男の子"ハリーポッターその人だった。
「でもまさか、貴方が守護霊を残すなんてまるで死を悟っていたようじゃない?」
「フン、全く好き放題言ってくれるな」
「私が蛇語を話せなかったらどうするつもり?」
「そのために俺様が直々に教えてやったのだろう」
「なるほどね」
ヴォルデモートもといトムリドルの守護霊は蛇だった。しかし、守護霊と話すことは出来ないのでトムは名前に蛇語を教えたのだ。いつか自分に死が訪れた時、彼女に最期の言葉を伝えられるように。
「お別れだ、名前」
「嫌よ、私も一緒に沈むわ」
名前は守護霊をそっと撫でた。
「あの子のように、私も貴方を愛で守ってあげられたら」
「くだらんな」
シャー、と蛇は舌を出す。
「貴方のいない世界に私は用はないわ」
「つくづく馬鹿な女だ」
蛇は名前の首に巻きついた。
「あら、貴方の手でいかせてくれるの?」
「守護霊にそこまでの力はない」
「そうよね」
守護霊に殺傷能力はない。だからどうあがいても名前はトムの手で死ぬことは出来ないのだ。
「貴方が死ぬ前に私を殺してくれる約束じゃない」
「俺様も馬鹿な男だったってことだ」
愛しい女に手は出せなかった。とトムは続ける。その言葉に名前はくつくつ笑って、自分の首を巻く蛇の背を撫でた。
「どこまでも美しい世界ね。貴方の隣は」
「俺様の世界を作ることは出来なかったが」
「死後の世界も、貴方の隣なら美しくなるわよ」
そう言うと名前は立ち上がり、魔法でナイフを呼び出した。それを右手で握ると、ひと思いにブスリと腹を刺す。
「貴方の終わりとともに」
名前は最期に微笑むと崩れ落ちた。
守護霊は名前のそばにより、細い舌で名前の唇を舐める。
「最期まで馬鹿な女だな」
トムはそう言うと淡い光を放ち、名前を包むように消えた。
*
死後の世界は美しいと、愛しい女が言った。しかし待てども彼女は自分の隣にやってこない。神がいるのなら、これは自分がおこなってきた許されざる罪の罰だと言うのだろう。だが自分はきっと神をも殺すだろう。愛しい女のいない世界なんぞどうでもいい、それくらい彼女を愛していたのだ。
「馬鹿馬鹿しい」
愛を知らなかった自分が唯一愛したのだ。そんな自分が馬鹿馬鹿しいとトムは思う。ましてや、愛に守られた男に自分は敗れているのだから。
「名前はどこだ」
愛に狂った獣とでも呼ぶべきだろうか。生まれた時から一人だったトムが初めて一人は寂しいと感じたのだ。
「名前はどこだ」
再度呼びかけてもその問いに答えるものはいない。トムは気の長い男ではなかった。
怒りは頂点に達した。杖が無くとも元々力の強い魔法使いだ。彼は身体の内から巨大な光を爆発させた。
「名前はどこだ!」
死後の世界はトムのこの一言で消滅してしまった。もちろんのことトムリドルも一緒にだ。
『私はずっとここよ。ここにいたのに』
最期のひとかけらとなってトムはようやっと名前の声が聞こえた。
「そんなところにいたのか。何故出てこなかった?」
トムは自身の心に問いかける。
『ずっと呼んでいたのに、気づかなかったのは貴方じゃない』
名前はふふ、と微笑む。
『この空間も滅ぼしちゃうなんて、私たちもう本当に最期になるわよ』
「貴様と一緒ならもうなんでも構わん」
『あら、嬉しいこと聞いた』
名前は笑う。
「塵となろうが、もう手放さないと決めた」
『約束よ』
お互いに身体はないが、手をぎゅっと握りしめた。そして、最後に心まで粉々になって無の空間へ消えていった。
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