ちいさいころのおはなし
ーーウール孤児院

「あなたはまともよ、いたって変じゃない」
孤児院の一室。一人用のベッドとタンスと小さな机のみ置かれた部屋は、殺風景で生活感がない。椅子にポツンと座るトムは名前を見据えていた。
「僕はみんなと違う。僕は手を使わずにものを動かせる。それでも変じゃないって?」
「だって私もできるもの」
「名前も?」
魔法の存在を知らない孤児院の先生達は、トムが情緒不安定であるとし、部屋に閉じ込めた。魔法の存在を知らない孤児院の子供達は、トムを恐れ意地悪をしたが、化け物じみた力で仕返しされるので近づかなくなった。しかし、一人を除いては。
「うん、妖精さんの力」
「妖精の力?」
「妖精さんが教えてくれるんだ」
そう言って名前は、トムの部屋に転がっていた鉢植えに手をかざした。
すると、何もなかった鉢の中に一本の蘭が生えてきた。
「これはカトレヤ。植物の本に載ってた」
トムは鉢を取った。カトレヤは鉢の中でゆらゆらと揺れている。トムがじっとそれを眺めていると、カトレヤはたちまち枯れて崩れ去った。
「……」
「命あるものは必ず死ぬのよ」
名前はまたトムが持つ植木鉢に手をかざす。そうすると新たなカトレヤが生えてきた。
「生かすことも」
ガラス玉のような透き通る目線に見つめられ、トムは顔をしかめる。自分はいたって純粋な気持ちでこの力を使ったことはない。
「それでも僕は奪う方が得意みたいだ」
トムが意地の悪い笑みを浮かべ名前を見る。薄青のガラスの瞳と混じり合うように翡翠の目玉が揺れる。名前の瞳に映る自分を見た途端、トムはひどく動揺した。
「怯えないで、あなたも生み出す側になれる」
動揺の意味を悟った名前はトムの手を取り鉢に手をかざす。すると、カトレヤの隣に新しく小さな芽が生えてきた。
「命を奪うのなら、新しく生かさないとね」
そう言って名前は小さく微笑んだ。



随分と懐かしい夢を見た。
トムは久々に寝覚めの悪さを感じて頭をブルっと振る。すかさずベッドから抜け出せば外は白銀の世界。そういえば、彼女の咲かすカトレヤは冬が旬だった。もしかしたら、そのせいでこんな夢を見たのかもしれない。そうトムは現実逃避をしてみるが、いやそんなことあるものかとまたかぶりを振る。毎年この時期に同じ夢を見るのだ。きっと嫌でも忘れない。彼女のあの笑顔と言葉に救われた昔の自分に。
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