真珠星
昔から我が家にはゴーストが憑いていた。
名前は知らない。まだ仲違いをしてない時に母に聞いたが母も知らないと言っていた。本家の古い血筋だからわからないと。本家の嫡男である父に聞けば何かわかるかもしれないと思ったが、その時既に、自分は血を裏切る者だった。本人に聞くしかないと思ったが、彼女はなかなか現れないのだ。

ポロン。
ピアノの音が聞こえる。家にはピアノが二台ある。リビングに一つ。もう一つは例のゴーストが棲みつく二階奥の部屋。ゴーストはどうやら家憑きというよりそのピアノに憑いているようだった。物や人に触れることのできないゴーストがそのピアノだけ触れることができたからだ。

ポロン。
今日はいつもより長めの演奏だった。悲しみの曲を紡ぐ彼女の演奏は、キーキーうるさい母でさえ黙らせた。ゴーストの演奏だからだろうか、彼女の曲は心に響きすぎるのだ。


ガチャリ。
今日も彼女のいる部屋へ足を運ぶ。彼女に会える回数は1週間に2回程度と(ホグワーツのゴーストに比べたら)少ない。それでも密かな希望を胸に扉を開いた。
「ノックをしなさい、シリウス」
すると望んでた声の主が部屋中央のピアノに寄り添い立っていた。
「普段誰もいねぇよ」
素直になれずつまらない言葉を返してしまう。
「私がいます」
ゴーストはこちらに向かってふわりと浮いた。
「それとも、私はここの住人とは認められませんか」
ゴーストは怒ったのか、一瞬のうちに速度を上げて自身の体をすり抜けた。するとブワッと寒気が襲う。
「悪かった」
今度は素直に謝ればニコッと笑ってゴーストは椅子に腰掛けた。
「最近毎日ここに来ていますね」
「知ってたのか」
「ええ、私はゴーストですから家中の会話でさえ筒抜けです」
ゴーストは悲しげな笑みをする。
「僕が血を裏切るものだって事も?」
「残念ながら」
ゴーストは立ち上がり、ピアノに寄り添う。
「あなたには、幸せになって欲しかったのです」
幸せだなんて、よく言う。
「これが僕の幸せだ」
この家の住人は誰一人として自分を理解してくれようとはしない。ゴーストもか、と思ったら「それがあなたの幸せなら応援します」と微笑んだ。
「なあ、前から思ってたんだけど」
「なんです?」
「名前、なんていうんだ」
ふと、本人に聞かなければならないと思っていたことを思い出した。すると、ゴーストはまたもや悲しげな笑みを浮かべる。
「名前はありませんよ」
「壁のタペストリーにも?」
「ええ」
一体どういうことだ。壁に名前がないってことはそれは、
「消してもらったのです」
ゴーストが先に答えた。
「血を裏切るものなのか?」
心の奥底で、そうであってくれと願う。まさか、自分を受け入れてくれるものがゴーストでも、学校以外での良き理解者となる。
「違いますよ」
ゴーストはスッと目を細めた。
「さあシリウス、部屋にお戻り」
彼女はそれ以上答えたくはないのか、有無を言わせず自身の背後に回る。
「名前、名前って呼んでもいいか」
そう口にすると、ゴーストはキョトンとした。
「私の名前ですか?」
「そう。嫌ならいいけど……」
少し照れくさくて、顔を下に向けドアに向かって歩き出した。
「いえ、嬉しいですよ。また誰かに呼んでもらえるなんて」
振り返ると、彼女は破顔していた。
「シリウス、ありがとう」
「お、おう」
その頃の自分は、まだウブで、異性の笑った顔に弱かった。


※気が向いたら続き書きます
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