#02
名前は隣に眠る恋人を見つめながら、ふと今日の会議のことを思い出した。心の奥で願う強い思いを叶える青リンゴーー通称『ヤミリンゴ』。ただでさえ少人数の組織で忙しい上、その事件が頻回に起こっていたらIDEAは手一杯だ。そう名前が考えるのも当然のことで、夢意識事件が起こってから、隣の恋人と一緒に過ごす時間というものはかなり減っていた。それにお互いにIDEAに所属する身で、IDEAという組織の中で一緒に過ごす時間はあれど、同じ事件を2人が一緒に請け負う確率は低い。スクールに起こる事件が1つずつならまだしも、そう現実は甘くない。同時に2つ以上の事件が起こるなど日常茶飯事なのだ。
「クロード……」
彼の髪を掬う。アクアブルーの長い髪は絹のようにするりと名前の手を抜けた。
名前は不安になって、静かにベッドを抜け出した。
*
夜のシティ・エントランスは綺麗だ。
名前は冷たい風を感じながらそう思った。昼間の賑やかさとは打って変わって、スクールの生徒さえ見られないこの時間は、一人になりたい時には持ってこいだ。名前は今後のことを考えながら夜空を見上げた。エルジオンでは高い建物が多く、こんなに綺麗に星空を見られない。
『夢意識事件』が起きてから目まぐるしい日常に名前は疲労を感じていた。元々、イスカやクロードのように確かな能力がある訳ではないのだが、イスカやクロードが君の力を貸して欲しいと自分にIDEAの象徴でもある白制服を渡してきたのだ。当時は後先考えない性格で、嬉しさのあまりすぐにそれを受け取った。しかし、今こうやって忙しく日常を送っていると、やっぱり自分は役不足だったのだと感じることがある。イスカのように状況を分析して最善の方法を考える事も、クロードのように常に周囲に気を使いながら、1番の力を発揮できるわけでもない。自分は本当に役に立っているのかーー。先程まで隣に眠っていた恋人も、最近まで忙しく寝る間を惜しんで働いていた。その姿を見ると、やはり自分は皆の力になれていないのではと不安になる。あの日のイスカとクロードは、自分の何を見て、IDEAに誘ったのかーー。
物思いにふけっていたせいで、背後の気配に気づかなかった。ジジッという人間なら発することのない音を聞いて名前ははっと後ろを向いた。
「コレ……ヤミリンゴ……。食ベル……願イ……叶ウ」
「!」
アンドロイドは抑揚のない喋り方で、名前に青リンゴを差し出した。
名前の頭の中では、『夢意識事件』が渦巻いていた。成る程、夢意識に沈んだ生徒達は皆このように接触していたのか。名前は、アンドロイドから青リンゴを受け取った。そして、アンドロイドの後をこっそり追っていけば、真実に近づけるのではと思った。しかし、名前はイスカの言葉を思い出した。『ーー接触した場合は一人で行かないこと』名前は去っていくアンドロイドの後ろ姿を見ながら二の足を踏むが、今を逃したらチャンスはないかもしれないと思い直した。前方のアンドロイドを追跡しようと、前を見た。だが、彼女の数秒間の思考の間に、アンドロイドは姿を消していた。
「私の馬鹿!」
少しでも躊躇ったりしていなければ、真実にたどり着けたかもしれない。名前は悔やんだが、たらればばかりでは結局事件は解決できない。
ふと、彼女は右手の青リンゴを見た。ーー自分が食べれば少しは解決の糸口が見えるかもしれない。そう思った名前は昔の後先を考えない悪い癖が出た。名前は一口、願いが叶うという魅惑の果実にかぶりついた。
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