もしも母親がいたら
「ただいま」
外見はボロいが内装はしっかりとしたアパートは、親子2人で暮らすには申し分ない広さ。時刻は午前4時頃といったところだろうか。空はいぶし銀のようにぼうっと明るみ始め、しかしこの時間はまだ母親は眠っているだろうとしげるはそう思っていた。
否、その予想は外れ薄暗い玄関先に仁王立ちする母の姿。
「おはよう」
「おはようじゃないわよね?アンタ今までどこほっつき歩いてたのかしら?」
まるで鬼の形相だ、としげるはそう思った。
「雨宿りで雀荘に」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、中坊の分際で」
名前は片手でしげるの頭をむんずと掴みキリキリと締める。
「いてぇ」
「黙りな、クソガキ。洋服の泥はどうした?」
「ちょっと変なのに絡まれて」
「ふーん?昨晩うちに警察来たけど」
しげるはバツが悪くなった。この母親にはすべてお見通しのようだ。
「なんだかチキンランの生き残りがいるらしくてね?」
「ふーん」
「まさかアンタじゃないわよね?」
「まさか」
「服に残る潮の香りは何かしら?」
「……」
しげるはバレた、とそう思った。どうやらしげるの洞察力は母親譲りのようで、名前の洞察力はしげるさえも凌ぐ。流石、しげるの母といったところか。
「クソガキがクソガキどもに絡まれるのはしようがないかもしれないけどね」
名前はしげるに顔を近づけた。
「馬鹿な死に方はするんじゃないよ」
「嗚呼」
「つまらない死に方もだめだ。男なら筋を通して死ね」
「わかってる」
しげるはそこら辺の男より男のようなことを言う母親を心の奥で尊敬していた。口煩い母親だが、まるで話がわかる人だ。
「さっさと風呂入って来な。学校は休ませないよ」
「嗚呼」
しげるは静かに風呂場に向かった。今日の飯はなにかなと中学生らしい呑気なことを考えながら。
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