いい人(閑話)
私に一番よくしてくれた人は小次郎だ。なんと言っても恩人だし、師匠であるわけだし。でも次に名をあげるとしたら彼ーーアリスちゃんの側近の黒木場リョウくんだ。
 初めてアリスちゃんから話しかけてくれてからよく3人でいることが多くなった。というのもアリスちゃんの我儘らしいけれど(リョウくんが言うには)、それでもこうやってなにかと誘ってくれるのは嬉しいし、お陰でリョウくんと私も仲良くなれた。そうしたら朝早くにリョウくんに呼び出されて(こう見えて小次郎から朝の仕込みをやらされていたので早起きは得意)行くぞと行き先もわからぬまま腕を引かれた。アリスちゃんは?と問うとお嬢はまだ寝てる、だそうだ。
 「でもこんな早くにどこに?」
 「……行けばわかる」
 ふうん、まあいいけど。そう思いながら前を歩くリョウくんについていくと、潮の香りと魚の生臭さが鼻腔をかすめた。
 「朝市?」
 「ああ」
 「すごい!日本の朝市初めて!でもどうしてここに?」
 「感覚を鈍らせないためだ」
 すっごいなぁ。リョウくんはこう見えてバンダナつけるとワイルドになるけど、魚を使った料理が得意でそれはそれは、プロ顔負けである。私もたまーに魚を使うけど、小次郎は野菜料理が得意だしそれほど習った記憶はない。だから、せっかく連れてきてもらったのだから、リョウくんに目利きの仕方とかいっぱい教えてもらわないと。
 市に足を踏み入れると新鮮な魚がずらりと並んでいた。勿論生きているものから死んでいるものまで。死んでると言っても締めてから数分のことだろうし、新鮮と言っても過言ではない。
 「それで、リョウくんはどうやって一番美味しいの見つけるの?」
 「一番旨いと言ってもその瞬間が今とは限らねぇ」
 「うん」
 「買って調理したタイミングが最高打点であるように食材を選ぶ」
 「へぇ〜、ナルホド!」
 詰まるところ一歩手前のやつって事かな!多分!
 リョウくんに目利きの方法を教えてもらいながら、今が旬のメバルを選んでみる。するとリョウくんは私の選んだメバルとは別のメバルを手に取った。
 「それじゃあ最高打点に一歩届かねぇ、調理時間にもよるだろうが、正解はこっちだ」
 リョウくんが選んだメバルは私が選んだものより小顔でシャープだった。
 「へぇ、リョウくん凄いなぁ。私もリョウくんみたいになれる?」
 「……毎朝4時に集合」
 「!ウィ!」
 リョウくんは選んだメバルを購入するとスタスタと歩いて行ってしまった。リョウくんも小次郎みたいで見た目に反して世話好きだよなぁ、いい人だ。
 私はメバルを元の位置に戻すと、急いでリョウくんの後を追いかけた。
 「リョウくん待ってよー!」
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