笑わない料理人2
私はムッとして、新しく深いシチュー用のお皿を取り出した。皿に豪快にブッフブルギニョンをよそって付け合わせのマッシュポテトを乗せる。刻みパセリをぱらっと盛ったら完成だ。
 「こ、こんな雑な盛り付けじゃA判定貰えないよ!」まるで悲鳴のような男の子の叫び声になんだどうしたと周りもジロジロ見てくる。その不快な行為にもさらにムッとして、私は皿を持ってスタスタとシャペル先生の前に差し出した。
 「なんてことを……!」
 もうこうなったら無視だ無視。私は男の子をチラと横目で見てふうと一つため息をついた。
 「ボナペティ」
 召し上がれ、と差し出した皿を見てシャペル先生は目を見開いた。
 「セシボン!(すばらしい!)」
 シャペル先生は普段とは想像もつかない豪快さで皿を綺麗に完食した。
 「四宮ペアA判定!ブッフブルギニョンの本来の味を引き出した。A判定しかあげられない身分の私を許しておくれ」そう言ってシャペル先生は微笑んだ。
 「メルシィ!」



 私の後にどうやらアクシデントのあった創真くん達も皿を出した。私たちのペアに負けず劣らずの評価だったが創真くんはとても悔しそうな顔をしていた。
 「名前に負けちまったな」
 「で、でも創真くんがいなかったら私……!」
 落ち込んでいる創真くんを励まそうと恵ちゃんは必死だ。そんな恵ちゃんの肩をポンと叩いて、ダイジョブだよ、というとほっと彼女は落ち着いた。
 「それにしてもあんな豪快なブッフブルギニョンなのになんでシャペル先生は名前に一番の評価を与えたんだ?」創真くんは不思議そうに尋ねる。たしかに創真くんたちもクラスのみんなも綺麗に盛り付けられたブッフブルギニョンより豪快によそられた私の皿に高評価がつくのは些か不服だろう。なので、答えを教えてあげることにした。
 「ブッフブルギニョン、牛肉のブルゴーニュ風って私たちは呼んでるけどそもそもこの料理ってビストロで出されるような一般的な家庭料理なんだよ?」
 「ビストロ?」
 「つまり、『大衆食堂』ってこと!創真くんは実家の料理屋さんで身の丈の合わない品が出てきたらどう思う?」
 「……なんか違うって思う」
 「そうでしょう?日本人が綺麗に盛り付けたブッフブルギニョン、私たちフランス人からしたら『なんか違う』なんだよ?だって大そうな料理じゃないもん」
 「成る程」
 「それにね、私たちは大抵付け合わせと一緒に食べるんだよ。いくらメインがブッフブルギニョンでも、必ず付け合わせが必要なの」
 「そうか……だから名前の皿にはマッシュポテトが付いていたのか」
 「そう。いくら授業だからってその人がどんな人か、昔から食べてる料理はどんなものかとか忘れちゃだめだよね。でも今回は私の母国の料理だからズルだって思われても仕方ないカモね」
 私はふふと笑う。でも創真くんは真剣に考えてその上でぱっと私を見た。
 「そんなことねーよ、きっと名前が生粋の日本人でも今とおんなじことができたと思う。今回は俺の負けだ!」
 別に勝負をしているつもりはなかったけど、でも創真くんはきっとクラスで1番の皿を出すつもりで真剣に料理と向き合っていた。そんな彼に敬意を表して、私は私の料理を彼に差し出した。
 「お、おあがり、よ!」
 「!おう!」




 (名前ちゃん〜『おあがりよ』ってきっと初めて使った日本語なんだぁ、頑張って言ってるところが可愛いべ〜)
 (カタコトだけど、俺のセリフだけど、こうやって国境を超えた料理人に使ってもらえるって嬉しいんだなー)
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