それは、在りし記憶の欠片
  • 表紙
  • 目次
  • しおり
    •  
    • 1/1
    •  
    歌姫と堕天使

    かつて歌姫と呼ばれた少女、気取らず親しみ易い庶民的な彼女だったが一度歌えば誰もが釘付けになってしまうと噂だった。

    出会いは唐突、ステージを終えた彼女がいつも通り帰り道を歩いていると空から黒い翼を携えた黒コートを纏う青年が現れた。

    黒翼に黒服、全身黒づくめの青年はまるで天界から落とされた堕天使のようだった。

    しかし、地に足を付いたとほぼ同時に翼は弾け青年はそのままその場に倒れ込んだ。足を止め眺めていた少女は何も考える間もなく青年の元に駆け寄った。

    少女が駆け寄ってみれば青年は傷を負っているようで地面には赤が滲んでいた。少女は精一杯の力で青年を引きずるように近くの壁に連れて行く。

    「早く手当をしないと…」

    少女が離れ掛けた時だった、すっと青年の手が伸び少女の手を掴んだ。

    「…手当は要らな…い、呼ばなくて良い…」

    荒々しい息遣いと虚ろな瞳で青年は少女を見上げた。血で汚れ顔は青ざめてはいるが青年は綺麗な顔をしていた。

    「死ぬ気ですか?」

    少女はしゃがむと青年に問い掛けてみた。もし、そのつもりならば無理矢理でも治療してやろうと内心で思いながら。青年は合わない視線を横に逸らして首を小さく振った。

    「お前に…は関係ない…俺に関わるな、ほっとい…てくれ」

    青年は途切れ途切れながら威圧を含んだ言葉を少女に投げつける…が、少女は臆する事なく青年に笑返した。

    「死なせませんよ」

    そう言うと少女は再び立ち上がり助けを呼んでくるからと来た道を戻っていく。青年はこの隙に逃げたかったが身動きも取れず、ただ少女を待つ他無かった。

    それが二人の出会いだった。

    例え、この後にどんな惨劇が起ころうと出会えたことが運命と言えるくらいの出会いであるように。

    「…ミリア……」


    •  
    • 1/1
    •