第3Qの前にインターバルが10分。
誠凛のチームメンバーは、控室へと戻る。
「前半お疲れ様! 後半の逆転に向けて、エネルギー補給よ!! はいっ、レモンはちみつ漬け!」
そう言って監督が手渡したタッパー。
その中には言葉通り、はちみつ漬けにされたレモンが入っていた。
一個丸々。切らずに。
「切ってって! 切ってって言ってるじゃんいつも!!」
「ちゃんと洗ったから皮ごといけると…」
「水戸部! ある!?」
水戸部先輩が頷いて、鞄から普通のはちみつ漬けレモンを出す。切られているやつだ。
歓喜してぱくぱく食べる先輩方。
監督ってさつきちゃんみたいな人だな。料理の面で。
「あれ? もうねーじゃん」
「水戸部、おかわりは?」
「……」
「ないのかー、残念」
「あ、あの……もし、よろしければ」
「ん?」
そろそろと、私も鞄からタッパーを出した。
それを見てぱっと先輩達の顔色が明るくなって、そして暗くなる。
「それ……レモンの、はちみつ漬け?」
「は、はい……私も作ってきたので、足りない方がいれば……」
「ごめんマネージャー、オマエのこと信用してないわけじゃないんだけど、一個だけ聞かせて」
「はい…?」
「それ、切ってる?」
神妙そうに聞いてきた日向先輩。
なんだかこっちまで緊張しながら、こくりと頷く。
「良かったー!」
「まるごとレモンの再来だったらどうしようかと思った」
「くれ!」
「ど、どうぞ」
私は特別料理が得意とかじゃないから、普通のレシピだけれど。
恐る恐る手渡せば、彼らは開けて笑顔で食べ始めた。
「お! マネージャーのも美味いじゃん」
「恐縮です……」
「なんか水戸部のとちょっと違う? 甘めだな」
「つ、漬ける時間を長くしたので……。甘いほうが食べやすいかと思いまして」
「どっちも美味い! よかったー二人がいて」
「俺にもくれ」
「はい」
よかった。何も変哲のないものだけれど、気に入ってもらえて。
火神君にも渡す。
ふと見ると、兄さんはレモンを食べることなく座っていた。
「……兄さん、レモンいかがですか?」
「ありがとうございます。でも、すいません。ボクはいいです」
「そうですか……。ほしかったら言ってくださいね」
「黒子君は前半出ずっぱりだったから、一度引っ込んでもらうけど…。栄養補給はしなきゃダメよ」
「あの…」
監督の言葉に、兄さんが振り返る。
「後半も…このまま出してもらえませんか」
「え?」
「後半も?」
「確かに青峰いて黒子抜きはきちーけど…てか行けんのかよ? 一試合フルにはミスディレクションは続かないんだろ?」
「…オレは反対だな。イーグルアイで見てたけど、もうずいぶん効果が落ちてる。一度下がるべきだ」
兄さんの言葉に、先輩達が難色を示す。
確かにもうミスディレクションは切れかけている。けれど、兄さんの意志は固い。
「できます。…いえ、やります。どうしても青峰君に、勝ちたいんです」
「意気込みは買うけどよ」
兄さんを外すとそれだけで攻撃力はダウンする。でも出し続けたって最後まで持たないというリスクがある。
どちらにするのだろう。監督をちらりと見たとき、火神君がため息をついた。
「カントク、さっきのください」
「!?」
ばこ、と火神君が兄さんの口に押し込んだもの、それは。
監督が持ってきた、レモンのはちみつ漬け、もといまるごとレモンだった。
「いーから食ってひっこめよバカ」
「むぐ」
「バスケは一人でやるものじゃねーって言ったのオマエだろ! まかせとけ」
火神君の言葉は頼もしい。兄さんの相棒だけある。
「…よし。後半、黒子君は一度下げるわ! 第4Qに勝負よ! とは言え取り返しがつかなくなったらイミがない。危なくなったらいつでも出れるように準備しててね、レモンでも食べて」
「え」
私の持ってきたタッパーは既に空だ。まあ、まるごとレモンを食べたところで、体に悪影響はないだろう。
「むこうはインサイドが特に強いわ。第3Qは土田君入って、水戸部君と二人でゴール下お願い! 日向君と伊月君は前半と同じ、9番と4番をマーク。一番の問題は青峰君だけど……対抗できるのはもちろん一人しかいないわ」
青峰君に対抗できる唯一の存在、それはもちろん。
「火神君! まかせたわよ!」
「うす!」
「いくぞ、誠凛――ファイ!!」
「オオッ!!!!」
円陣を組んで、号令をして。皆が控室から出て行く。
私も兄さんに続いて歩いていれば、兄さんが火神君に声をかけた。
「火神君…」
「あ? ちょっとは頭冷えたかよ?」
「はい。それよりボクは、開花してからの彼の底を見たことがありません。しかも黄瀬君達同様進化しているはずです」
「……」
中学時代、キセキの世代の中でもエースと呼ばれていた青峰君。
彼が、更に進化しているとすれば。
「だから、この先の彼は未知数です。気をつけてください」
「ハッ、望むとこだよ」
会場に入る。
沢山の声援の中、青峰君が現れた。
「とっととやろーぜ」
汗をかいている。体をきちんと温めてきたようだ。
「よう、アップはすんだかよ?」
「だから最後まで抗えよ、できればな」
『第3Q、始めます』
開始の笛が鳴る。
この試合をきっかけにして、誠凛は大きな一歩を踏み出すこととなることを。
今はまだ、誰も知らない。
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