「あ、ここっス」
「…って、え? 片面…でやるの?」
「もう片面は練習中、ですか」
ぽそりと呟く。大きな体育館の片面では、ほかの選手たちが練習をしていた。
「ああ、来たか。ヨロシク。今日はこっちだけでやってもらえるかな」
「こちらこそよろしくお願いします。…で、あの…これは…?」
「見たままだよ。今日の試合、ウチは軽い調整のつもりだが、出ない部員に見学させるには学ぶものがなさすぎてね。無駄をなくすため、ほかの部員達には普段通り練習してもらってるよ」
「……」
「だが調整とは言っても、ウチのレギュラーのだ。トリプルスコアなどにならないように頼むよ」
びき、と監督の血管が切れる音がした。
完全にこちらを格下に見ているのだ、無理もない。まあ、強豪校ということで自信があるのだと思う。
「…ん? 何ユニフォーム着とるんだ? 黄瀬、オマエは出さんぞ!」
「え?」
「各中学のエース級がゴロゴロいるうちの中でも、オマエは格が違うんだ。黄瀬抜きのレギュラーの相手も務まらんかもしれんのに…だしたら試合にもならなくなってしまうよ」
「なっ…」
「すいません、マジすいません…。大丈夫、ベンチにはオレ入ってるから! あの人ギャフンと言わせてくれれば多分オレ出してもらえるし!」
黄瀬君が平謝りだ。監督が中々に曲者らしい。
「オレがワガママ言ってもいいスけど…オレを引きずり出すこともできないようじゃ、「キセキの世代」倒すとかいう資格もないしね」
それは、まあ確かに。
とはいえ、誠凛は決して弱いチームではない。
「アップはしといてください。出番待つとかないんで…」
「あの…スイマセン。調整とかそーゆーのはちょっとムリかと…」
「そんなヨユーはすぐなくなると思いますよ」
兄さんがびしっと言い放った。かっこいい。
「それではこれから、誠凛高校対海常高校の練習試合を始めます。集合してください」
「監督、ドリンクとタオル置いておきます」
「うん、ありがと。いつもながら仕事早いわね」
「いえ。スコア記録しますね」
「よろしく〜」
バインダーを受け取り、試合に向き直る。
黄瀬君はベンチ。ほかの選手がスタメンだ。
でも、流石強豪校といったところか。層が厚い。
けれど、それはこちらも同じこと。
「んじゃまず一本! キッチリいくぞ!」
瞬間、ボールが消える。
「なっ…にぃ〜〜〜!?」
否、兄さんのボールカットだ。
火神君にボールが渡り、シュート。と、思いきや。
バギャ、とすごい音がして、ゴールが壊れてしまった。
「おおおええ〜!? ゴールぶっこわしやがったあ!?」
「あっぶね、ボルト一本さびてるよ…」
「それでもフツーねえよ!!」
こわい。バカ力とかいうレベルじゃない。
火神君に握りつぶされたら、私の頭蓋骨なんてあっという間にお釈迦だ。
震える私をよそに、火神君は「どーする黒子」なんて言っている。
「どーするって…まずは謝って、それから…」
「……」
「すみません、ゴール壊れてしまったんで、全面側のコート使わせてもらえませんか」
兄さんは平然としている。流石だ。
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