■ 彼女の参戦

「始祖さまー!」

 懐かしさを纏う呼び名に気だるげな瞼が大きく見開かれた。けれど、振り返って声の主を認めた途端シエラの瞼はまた元に戻る。むしろ初めより伏せられているくらいだ。
 駆け寄ってきたのは二十代半ばの女剣士で、シエラの眉が顰められていることに気がついていないわけがないだろうに、両手を上げてやっぱり始祖さまだったーと笑ってみせた。
 お久しぶりですぅ。始祖さまもお元気そうでなによりですぅ。
 にへらにへらと言葉を続ける剣士に対するシエラは、言葉を返す代わりに心底鬱陶しそうに紋章を輝かせることで不機嫌を表現した。

「一体なんのつもりじゃ。久しく姿を見せんと思うたら。こんなところでそんな姿のおぬしと会うとはな……」
「えへー。この姿なかなかいいと思いませんー? 気に入ってるんですよー。でも、実は剣は全然使えないんですけどねぇ。はったりですよぅ。始祖さまは相変わらず可愛い格好ですねぇ」

 緩まないシエラに、緩みきった剣士がずれた答えを返す。
 もちろん、シエラの機嫌は下落の一途である。

「煩い。頭が沸いたような話し方をするでない。大体、なんじゃ突然"始祖さま"などと気味が悪いわ」

 そこまで言われて、ようやく女剣士の空気が変わった。
 いや、わざとらしさが消えたというべきか。

「あら、気に入りませんでした? 体は大人、口調は子供って、シエラさまの逆で受けるかと思ったんですけどねぇ」
「……阿呆が」

 鬱陶しいだけじゃと言い放ちながらも、シエラの顔もようやく綻む。

「久しいな、なまえ。どれ、幾歳月ぶりに、酒でも飲んで語り合おうぞ」



(2013)
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