あさぼらけ







さむい…


悲しくて寂しい、そんな夢を見ていた気がする
そっと目を開けると一人だと広くて持て余すクイーンサイズのベッドが半分寂しく空いていた
徐にそちらに手を伸ばしたが2月初旬の今、暖房をつけていてもあの人がいない布団はひんやりと冷たくてすぐに手を戻す

「まだ、帰ってきてない…」

小さく呟いた声は暗い部屋に吸い込まれた
枕元の時計に目を向ける
深夜2時15分、もしかしたらそろそろ帰ってくるかもしれない
今までの経験上どうせこのままじゃ眠れない
こういう時は無理に寝ずにあれを飲んでリビングで彼を待つのも良いかもしれない
布団から体を起こしひんやりとする床に足をつける
部屋着の上に彼と色違いのお揃いで買った丈の長いカーディガンをはおりキッチンへと向かった











深夜2時50分
とあるマンションの前に一台の黒い車が止まった

ガチャ

「五条さん着きました、本日もお疲れ様でした」
「お疲れ〜ほんと上の連中嫌がらせに人を働かせすぎだよね」

軽い愚痴をこぼしつつ車から降り2、3歩進む、が、ふと思い出しまだ後ろにいた伊地知を振り返る

「あ、伊地知〜、明日は久しぶりのオフなんだからさ、絶対!ぜぇ〜たい!何があっても連絡してくるなよ。てか何があっても電話でないから、してきたらマジビンタ」
「マ、マジビンタっ…!努力はいたしますが、あの、どうしてもの時は…」
「なんか言った」
「いえっなんでもありません!それでは失礼いたします!」

ガチャッ バタンッ ブウゥゥゥン…


「ま、あんだけ言っとけば余程のことがなければ連絡してこないでしょ」

止めていた足を動かしマンションへ入る
エントランスを抜けエレベーターまで真っ直ぐ向かい、エレベーターを呼ぶ

ポーン…



着いたエレベーターに乗り込み目的の階を押す
早くあの子の顔を見たい身としてはこの待つ時間だけはあまり好きになれない

(もう寝てるよな…)

最後に顔を見たのはもう1週間は前だ
一緒に住むようになってからこれだけ期間合わないのは久しぶりだった
あの子の顔を見たい、抱きしめたい、香りで癒されたい、そして……


ポーン…










ガチャガチャ パタン

「ただいま〜…」

なるべく小さい声で帰宅を告げる
会いたいけれど起こしてしまいたいわけじゃない

「ん?リビングの明かりがついてる?」

起きているのか…?
静かにリビングの扉を開けるとそこにはソファに座るあの子がいた

「ただいま、こんな時間なのにどうしたの?」

声をかけるが反応がない
そっと近づいてみると彼女はゆっくり寝息をたてていた
ローテーブルの上には少し中身が残ったマグカップが一つ
この子がうまく寝れない時に飲むものだ

「寂しい思いさせちゃったかな」

頭をそっと撫でながら呟く
このままだと風邪をひいてしまうかもしれない
起こさない様に抱き上げて寝室へ向かい、寝室の真ん中に置かれたベッドにゆっくり寝かせる

「ちょっとまっててね、すぐ戻るから」

汚れた体でこの子の横に入るわけにはいかない
早くシャワーだけ浴びて戻ってこよう
そしてあの子を感じながら一緒に眠りたい

パタン











あたたかい…



穏やかで暖かい、そんな夢を見ていた気がする
そっと目を開けると一人だと広くて持て余すクイーンサイズのベッドの半分に、彼がいた
私を優しく抱きしめて穏やかに眠る彼のおかげで今度は布団の中は冷たくない

「お帰りなさい…」

呟いた声は薄く明るくなり始めた部屋に小さく広がった
枕元の時計に目を向ける、5時50分、起きるには少し早い時間
結局飲み物を飲んで彼が帰ってくる前に眠ってしまってたみたい
私が動いたからか彼がうっすら目を開ける

「ん…もう起きるの…?」
「ううん、目が覚めたの、ごめんね、起こしちゃった」
「いいよ、ん、まだ早いね、今日は僕お休みだからさ、一緒にまだ寝よ…?そしたらさ、ゆっくり起きてお家デートしよう…ごめんね、久しぶりの休みだけど出かけるより君を近くに感じたい」
「うん、私も悟くんとゆっくりしたい、昨日はありがとう、ベッドまで運んでくれたよね」
「気にしなくて良いよ、それより今は、ほら、もう少しこっちおいで」

彼に誘われるがまま胸元へすり寄る
顔を上げると薄明かりに反射してきらきらと輝く青が見えた
その眼差しはこちらを優しく見つめ目尻が緩やかに下がっている
おそらく、私も同じ眼差しを彼に向けている
頭を軽く撫でられる、それを合図に私は目を閉じた
その瞬間唇に感じる柔らかなもの、言葉はいらないこの時間を、私はずっと待っていた
何度かついてははなれ深くなっていくそれを受け止めながら自身が満たされていくのを感じる


もう大丈夫、だってこんなにも
あたたかい



2025 03.04

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