主に半兵衛受けのお話が多いです。
愛とは、弱さとは
戦国、慶半、悲恋
見回りの兵以外に起きている者はほとんどいないであろう夜。主や部下、皆が寝静まってもただ1人半兵衛は遅くまで机に向かい次の策を練る。1日でも早く豊臣の世を作るために、残された時間を豊臣のために、と。毎夜毎夜、この部屋の明かりが消されるのは夜明けが近付く頃だった。そして朝議の度に秀吉や三成から目が赤い、ちゃんと寝ているのか、また夜更けまで起きていたのか、と小言を言われる。だがそれは、決して策を練るのに時間を掛けているためだけではなかった。不本意ながら今夜もまた、部屋の明かりは灯され続ける。
いつものように机に向かい筆を手に取り、白い紙へ黒い線を走らせる。すると遠くの方からとんとん、と足音が聞こえてきた。豊臣の兵力は今や日の本一と言っても過言ではない。そのため城の警備も厳重でネズミ1匹侵入することは難しいであろうはずなのに、どうにもこの足音の主はするりと城へ入り込み、こうして堂々と廊下を歩くものだから半兵衛も頭を悩ませていた。
その足音は半兵衛の部屋の前まで来るとぴたりと止まり、それから少し間をおいてすすっと襖を開ける音に変わった。夜の少し冷えた風が部屋に流れ込む。侵入者に背を向けたまま半兵衛が振り向きもしないのはその人間をよく見知っているからだった。
「よぉ、半兵衛。まーだ起きてんの?」
そんな半兵衛の様子を気にすることもなく侵入者は部屋へ足を踏み入れ後ろ手に襖を閉める。そのまま半兵衛の背後へ歩み寄ると腰を下ろし、未だ机に向かう身体を後ろからそっと抱き締めた。
「慶次君、邪魔だよ」
冷たくあしらうも回された腕は緩むどころかぎゅっと更にきつく力が入る。前田の風来坊、前田慶次は近頃こうして大阪城に忍び込み半兵衛の部屋へとやって来る。柔らかい銀髪に鼻を埋めて慶次は毎回こう言うのだ。
「寝れないなら相手してくれよ、なぁ?」
返事など聞く気はないくせにいつもそう聞いてくる。そして半兵衛が答える前には着流しの間に手を滑り込ませ、白く滑らかな身体を撫で回す。
「っ…だ、から…!君に付き合ってる時間なんか」
半兵衛が文句を言い終わる前に、身体がぐんっと後ろに引っ張られた。突然のことに体勢を崩しそのまま畳に背中を打ち付ける。上体を起こそうとする前に慶次は素早く身体で半兵衛を押さえ込み、そして冷たい目で見下ろす。
「相手しろって言ってんのが聞こえないの?」
ぞくりと背筋が凍る。大軍を指揮する世に名高い天才軍師の鋭い瞳が恐怖に揺れた。返事をせずただ身を固くする半兵衛に気を良くした慶次は口元に笑みを浮かべ白い首筋へ顔を埋めた。
この行為は毎晩繰り返される。始まったのはほんのひと月前、きっかけは数年前。秀吉が自らの手で愛した女を葬ったあの日から、慶次の心は壊れてしまったのだ。
*****
明かりの灯る部屋の中で2つの影が揺れる。脱ぎ散らかした着流しを背中に敷き、投げ出された腕で半兵衛はそれを握る。慶次は白く細い両脚を抱え、無遠慮に腰を打ち付けた。下から突き上げられる度に半兵衛は悲鳴にも似た喘ぎ声を上げ背中を仰け反らせる。それを満足そうに見下ろしながら慶次は逃げる腰を押さえ込みただひたすらに半兵衛の中を抉った。
「あっあんっ…ひ、ぁあっ」
「はっ…半兵衛、気持ちいい?」
「いぁっ…んっあ…」
「はは、本当に良い反応するようになったよね。最初の頃は痛がって身体硬くして声も上げなかったもんなぁ」
うっとりと慶次は笑う。指先で首筋、鎖骨、胸へ線を描くようになぞり、最後に乳首へたどり着くとそこを転がして遊んだ。
「うぅ…んっ…」
「ここも感じるようになっちゃってさ」
打ち付ける腰を止め、身体を屈めると少し硬さを増した乳首を口に含む。わざと音を立ててそこを舐め上げると半兵衛の身体が小さく震えた。このひと月で慶次は半兵衛の身体を知り尽くした。どこをどうすれば半兵衛が悦ぶのか分かっている。だから舌を這わせるそこに歯を立てた。
「あっ…!!!」
白い喉が仰け反った。同時に発せられた声は悲鳴のように甲高いが、身体の反応を見ればそれが痛みだけによるものではないことが分かる。
「いっあ…やだっ…それ、やめ…んんっ」
口では制止しながらもここまできたら本気で抵抗しようとはしない。だからこそ慶次も半兵衛を拘束しない。最初の頃からそうだった。多少の抵抗はするものの、そこに本気で逃れようとする必死さはない。むしろ、受け入れているようにも思えた。
「なぁ」
不意に慶次が動きを止めた。そして半兵衛の顔を正面から覗き込み、ゆっくりと顔を近付ける。口付けをされる、そう思って半兵衛は身構え目を閉じた。だが、予想に反して慶次は半兵衛の顔の真横に顔を埋め、そのまましばらく動きを止めてしまった。
「慶次、君…?」
「…」
「ねぇ、どうしたの?」
とんとん、と腕を軽く叩いてみても返事がなく半兵衛もどうしたものかと困っていた。やがて小さな溜息と共に慶次はようやく口を開いた。
「なんでさ、なんで秀吉は…ねねを殺しちまったのかな」
「…慶次君」
「ねね」という言葉に半兵衛はぎくりとした。だがそんな半兵衛を余所に、顔を上げずに慶次は続ける。
「あいつなら、きっと守れたはずなんだ。守れる力があるんだ。それはねねを殺さなくても元々持ってたものなんだ…愛は弱さになんてならないんだ…なのになんで…なんでねねを…俺の前からねねを奪っちまったんだ…」
秀吉とねねは互いを想い合う仲だった。そして慶次はねねのことを想っていた。だが慶次は秀吉からねねを奪おうなどとは考えず、仲睦まじい2人を眺めているだけで幸せなんだ、と嬉しそうに笑っていた。半兵衛もそんな3人を見ていつも微笑んでいた。
そして慶次のその幸せは長くは続かなかった。松永久秀との出会いが、秀吉と慶次を変えた。
「お前が俺から大切なものを奪うんなら…」
誰に向かって言っているのかは明らかな、だが本人に届くことのない言葉。慶次はぶつぶつと独り言のように半兵衛の耳元で呟く。
「お前から大切なものを奪ってやる」
いつもの慶次とは思えないほど低く冷たい声が耳に響く。半兵衛は今慶次がどんな顔をしているのか見るのが怖かった。堪らず顔を反らせるように首を横に捻ると、それに気付いた慶次がやっと身体を起こした。
「あぁごめんよ、ほったらかしで辛かったよな」
悪戯っぽく笑う顔はいつもの柔らかい顔で、ごめんよ、と囁く声もいつもの明るい声だった。
「半兵衛、ちょっと掴まってて」
「え?うわっ!?」
そう言って逞しい腕を背中に回すとそのままぐんっと自分の方へ引き寄せ身体を抱き上げた。体勢を崩しそうになり半兵衛は咄嗟に慶次にしがみつく。慶次は半兵衛を抱えたまま畳の上を歩き、先程閉めた襖の方へと膝を進めた。そして襖をたんっと開くと、胸から上だけを外に晒すように半兵衛を寝かせた。
「慶次君…これ…いったいどういう」
困惑する半兵衛に慶次はただ微笑む。
「人払いはさせてんだろ?じゃあ半兵衛が声出さなかったら大丈夫大丈夫」
「何を言って…っ!」
「まぁ、抑えられたらの話だけどな」
反抗しようとする半兵衛を無視して、慶次は再び腰を打ち付けた。その動きは確実に前立腺を目掛けて突き上げるもので、堪らず半兵衛は声を上げた。
「あぁっ、い…やぁあっ…やだぁ…ああっ!」
「ほらほら、そんなに声上げちゃ誰か来ちまうよ。誰が来るかなぁ…あ、あの石田って奴かな?それとも秀吉かな?」
「ひぅっ…うう、ん…んんあっ」
「秀吉びっくりするだろうなぁ。大事な『お友達』が自分の知らない間に犯されて身体仕込まれて、今じゃこんなに善がってんだもんなぁ」
「う、っ…やめ…あ、んんっ」
「気付いた時に、せいぜい傷付けばいいよ。力に目が眩んで身近な人間すら守れない愚かな自分に、さ」
またも慶次は独り言を呟く。その下で半兵衛は遠慮なく攻め立てられ、抑えきれない喘ぎ声を上げていた。慶次の言葉よりも、今は誰かに見られる恐怖の方が大きく、無駄だと分かっていても両手で顔を隠して僅かな抵抗をする。
「あ、こら、隠しちゃダメだろ?」
それに気付いた慶次が半兵衛の両手を取り、白い腹の上で一纏めに掴み押さえた。この状況、外から見れば半身を外に晒した半兵衛が何者かに犯されているとしか視認できない。誰かが目撃してしまうかもしれない。もし見つけても助けには来ず興味本位で見られ続けるかもしれない。もし、秀吉や三成に見られでもしたら。その恐怖と羞恥に半兵衛の顔が赤く染まる。
「い、や…!やだやだぁっ…ああぁっ…やぁっ」
「わ…すっげ…急に中締まってきたよ…っ」
半泣きになりながら髪を振り乱す半兵衛をよそに、身体はどんどん快楽へと登り詰めていった。触らずとも硬く張り詰めた半兵衛の魔羅を見れば限界が近いのも容易に分かった。
「ひあっ…あぁっんん…ふ、ぁっ」
「半兵衛…もう、出そう?」
「うっ…んあ…はっああ…っ」
がくがくと頷く半兵衛を見て、くすりと慶次は笑う。
「は、や…あっ…早くっ…んああっ」
「分かった分かった、手伝ってやるよ」
誰か来る前に早く、と焦る半兵衛を宥めると、慶次は白い腹の上でそそり勃つ魔羅を片手で包んだ。そしてそれをぎゅっと握ると容赦なく上下に擦りあげた。
「ひぃっ…っああああああぁぁぁぁぁ…!!、」
突然の刺激に声を抑えることすら忘れ半兵衛が仰け反り鳴いた。細い身体がびくんと大きく跳ねるのと同時に慶次が握る魔羅から白く白濁した液体が吐き出された。慶次を挟むしなやかな両脚はがくがくと震え、閉じなくなった口からは言葉にすらならない単語が切れ切れに零れ出ていた。
「ぁ…はっ……あ…っ」
「あはは、良いよ半兵衛。今のすごく綺麗な顔してた」
子供のように笑いながら、白濁で汚れた手を半兵衛の顔に添える。輪郭をなぞるように指を這わせ、顔を白く汚した
。半兵衛はそのことにすら頭が回らず、ただ呆然と慶次の顔を見上げることしができなかった。だが、下半身からのぐち、と響く粘着音に、焦点の合わない紫の瞳が見開かれる。
「でもさ、俺まだ終わってないんだよなぁ」
「え……や…っも、だめ…っ」
「半兵衛頑張ってくれよ」
にっこりと笑うと同時に、先程と変わらない激しさで慶次は腰を振り出した。達したばかりで敏感になり過ぎている身体には刺激が強烈なものとなり、ついに半兵衛の目から涙が零れ落ちた。
「いああっ…!あぁっ…や…もう…や、ああぁっ!」
「はっ…すご、絡みつくみたいだ…」
額に汗を浮かべながら慶次は律動を続ける。中でごりっと前立腺を掠める度に半兵衛の魔羅からは少量の白濁が溢れ、開きっぱなしの口からは泣いているような声が発せられる。やがて慶次の息遣いが荒くなり、中を抉る魔羅の熱も増し、そしてついに限界を迎えようとしていた。
「半兵衛…そろそろ出すよ…っ」
「はっあぁっ…んああっ…!」
「…っ…く……!」
「あぁっ!……んん…っうぅぅ…!」
より一層強く腰を打ち付けて、慶次は半兵衛の中へ白濁をぶちまけた。熱い液体が中へ注がれるのを感じて半兵衛は身を捩る。その身体を押さえ、最後の一滴まで絞り出すように腰を動かし、全て注ぎ込むとぐちゅっと音を立てて慶次は半兵衛から魔羅を抜き出した。
「は…っ……ぁ…」
呼吸も整わず、指一本動かすこともできずに横たわる半兵衛を気にもとめず、慶次はさっさと自分の身支度を始める。乱れた着物を整え、長い髪を結い直し、あとは帰るだけとなった時、半兵衛の腕を掴みぐんっと無理やり上体を起こさせた。
「いっ…」
半兵衛は突然の痛みに顔を歪めた。すると慶次は半兵衛の顔に両手を添えてぐいっと顔を近付けた。口元には笑みを浮かべ、だが声色は冷たく囁く。
「悔しいだろ?自分が秀吉の足を引っ張るかもしれないなんてさ…いつでも殺してくれても構わないんだぜ?」
「け、いじ…君…」
「でも、お前には『できない』だろ?」
「っ…!」
できない、その言葉に半兵衛は身を固くした。何も言い返せず黙り込む半兵衛から両手を離し、慶次はすっと立ち上がった。そしてまた、いつもの笑顔で言うのだ。
「じゃ、また明日な」
呆然とする半兵衛へ向けひらひらと片手を振ると、そのまま足音軽く半兵衛の部屋から出て行ってしまった。開け放たれた襖の間から夜の冷たい風が吹き込んでくる。
1人部屋に取り残された半兵衛は身体を震わせていた。それは寒さからではなく、動揺と困惑からであった。できない、その言葉が頭を駆け巡る。そして震える声でぽつりと呟いた。
「知って…いる…?」
震える身体を両腕で抱き締めても動揺は隠せなかった。
「慶次君は…僕の……気持ちを…」
やがて動揺は確信へと変わり、その瞬間紫の瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
昔からずっと隠してきた気持ち。半兵衛は慶次のことを想っていた。だが、慶次はねねのことが好きで、奥手な半兵衛は自分の気持ちすら告げられず彼が笑っているなら、と慶次のように見守っているだけで満足していた。そして松永久秀との出会いから秀吉と慶次は別々の道を選び、半兵衛は秀吉と共に歩む道を選んだ。慶次と別れ、秀吉と幾多の戦さ場を駆け巡り、豊臣軍を日の本の一大勢力にまで育て上げ、そしてある日再び慶次と会い、ついに今日に至るまで半兵衛の気持ちは変わらなかった。それでも気付かれないようにと半兵衛は必死だった。今の慶次に知られてしまっては、復讐のために利用されるだけだと半兵衛も分かっていたからだ。何よりそのせいで友との夢を壊したくはないと強く願っていた。だが、大坂城で初めて慶次に抱かれた時、内心喜んでいる自分がいることに気付いた。両想いにはなれずとも、ようやく想い人と繋がれたことが何よりも嬉しかった。だがそれも最初だけ。その次の夜からは秀吉への罪悪感と慶次への想いに苛まれ、苦しい夜が続いた。どうしても断ち切れず、ずるずると身体の関係だけが続き、そしてついに半兵衛の気持ちは知られてしまった。
「ど…しよう…僕は…僕は…どう、したら…っ」
秀吉へ復讐しようとする慶次を斬り殺すこともできず、秀吉へこのことを明かすこともできない。恐らく知れば動揺し、天下取りへ支障を来すであろう。半兵衛に関しては少々過保護な所があることも自分では自覚していた。そして何より、ねねを殺めた時の秀吉の心の傷がかなり深いものだと半兵衛も知っていた。大切なものを守れないことが秀吉にとってどんなに辛いことか。
「秀、吉……慶次君…っ」
胸が痛くて両手で押さえる。好き、ずっとその一言が言えず今まで隠してきた恋心は、想い人の復讐に利用され大切な友の邪魔になってしまう。苦しくて辛くて、半兵衛はそのまま泣き崩れた。
「ごめん…ごめん…っ」
誰に向けた言葉なのか自分でもよく分からない。そしてこれから自分がどうすべきなのか、それも分からない。それでも言わずにはいられなかった。
こんなにも月明かりは明るいのに、歩む道のりは全く見えない。今宵もまた、蝋燭の火が消えるまで半兵衛は1人、泣き続ることしかできないのであった。
end
黒慶次に片想いな半兵衛様を書きたかったのです。
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