主に半兵衛受けのお話が多いです。

渇き 14


渇き 14

渇き 13の続き、

「僕が初めて好きになった人はね、先生だったんだ」
 一度ゆっくりと呼吸をし、半兵衛は伏せていた瞼を開けた。
「教師、か」
「うん、高校の時のね。数学の先生で、男の人」
 半兵衛が最後の部分をやや強調する。
「最初は授業中にただ何となく良い声だなって思ってたんだ、教え方も上手だし話は面白いし。それで目で追うようになって、少しずつ意識しだして、気が付いたら好きになってた」
 昔を懐かしむ半兵衛の表情の中には、どこか暗い影が差していた。
「自分でもびっくりしたよ。初めて人を好きになったし、その相手は男の人だったし。でもそんなの関係なく本当に好きだった」
「……付き合っていたのか?」
「うん、あ、いや。付き合ってはいなかったのかな」
「何?」
 はっきりとしない半兵衛の答えにどういうことだと秀吉が眉間に皺を寄せる。
「きっと好きだったのは僕の方だけ」
 秀吉の手を握る半兵衛の細い手に少しだけ力が入る。
「卒業式の日に振られてしまったよ」
「……」
 そう笑う半兵衛の声は震えていた。
 抱き締めたくなる気持ちを秀吉は抑え込んだ。声を震わせながら懸命に過去の自分を伝えようとする半兵衛の邪魔をしたくなかった。
「数学は好きだったし先生の話も楽しかったから、よく放課後に残って勉強を教えてもらってたんだ。それである日、押し倒された」
 押し倒された、と言う言葉に秀吉が苦い顔をする。だが半兵衛は見て見ぬ振りをし、話を続ける。
「僕ね、全然嫌じゃなかったんだ。先生のこと好きだったし、男同士がそういう時どうするのかも知ってたし、正直言うと求められて嬉しかった」
 馬鹿だよね、と半兵衛が眉をハの字に曲げた。
「先生はその時、僕を襲いながらたくさん写真を撮ったんだ」
「……脅しの為、か」
「そう、そんなの必要なかったのにね。誰にも言うつもりなかったのに……でもそれで先生が安心できるなら、まぁいいかなって」
 男同士でましてや生徒と教師なら当然の警戒だと当時の半兵衛は納得した。自分さえ黙っていれば何も問題はない、そう考え抵抗もしなかった。
「それからはほとんど毎日、先生の所に通った。いつもいつも綺麗だよ、可愛い、良い子だって褒めてくれて本当に嬉しかった。どんどん先生にのめり込んでいったんだ」
「ならば何故、別れることに」
 聞いている限り教師の方も半兵衛を好いているのにと秀吉が疑問に思う。
「卒業式の日に先生はプレゼントをくれたんだ」
 ーー卒業おめでとう。
「紙袋いっぱいに入った、あの日の僕の写真」
 ーーこれでもう君は自由だ、半兵衛。
 半兵衛の脳裏には「プレゼント」を手渡す教師の笑顔が浮かび上がる。渡された袋の中には教師の下で啼き乱れる自分の写真が大量に詰められていた。それを受け取り何も言えず立ち尽くす半兵衛に教師はただ笑顔を向ける。半兵衛の大好きだったあの笑顔は、見たこともないくらいに冷たく笑っていた。
「先生にとって僕はただの暇潰しだったんだ。生徒の中からお気に入りの子を選んで捕まえて、卒業する時には手放して、また新しいお気に入りを見つける」
 その時期、教師の標的は半兵衛だった。好都合にも半兵衛は教師のことを好いていたため簡単に関係を持つことができた。そして卒業の日、あっさりと半兵衛は捨てられた。
「その時初めて分かったんだ、最初から愛されてなんかいなかったって」
 盲目なまでに追いかけ、相手の本心を見抜けなかった自分の愚かさを半兵衛は笑った。ただ好きで、求められたのが嬉しくて受け入れて、そして期限が切れたのだ。
「それから人を好きになるのが怖くなった。好意を持っても持たれても、期待をするのが怖くてなった。僕なんかが誰かに愛されるわけないって、また先生みたいに置いていくんだろうなって」
 政宗の時もそうだった。一方的な関係ではなかったものの、結局は半兵衛一人を選ぶことはなく愛という妻を迎えた。
 だから、と呟く半兵衛の瞳からまた一粒の涙が零れ落ちた。
「君が怖い、君をどんどん好きになるのが怖い」
 秀吉に好きだと告げられたことの喜びと、あの教師と同じように去っていくのではという不安。汚れた身体の自分が愛されるわけがないと半兵衛は諦めようとしている。
「先生と同じ瞳をしている君が怖い」
 あの日、秀吉と出会った日。身体の奥から熱が湧き上がるような感覚に陥った理由、それはこの燃えるような真紅の瞳だった。半兵衛が生まれて初めて好きになった男と同じ瞳を持つ男だったから。
 そして秀吉への思いに気付くきっかけとなったのが先日の事件だった。写真を撮るシャッター音は半兵衛の昔の傷を抉り出した。
「今度はもしかしたらなんて期待するのも怖いし、君を僕なんかで汚したくない……」
 紡がれる否定の言葉と共に紫の瞳に影が差し込む。
「僕は君の側にいるべき人間じゃないんだよ」
  重なる白い手が声と一緒に震えていた。
 しばらく二人は黙り込んでいたが、先に口を開いたのは秀吉だった。
「構わぬ」
 優しくも強い口調だった。
 影の差し込んだ瞳を真紅の瞳が真っ直ぐに見つめる。
「それでもよい、今までお前がどんなことをしてきたとしてもお前が我にとってかけがえのない存在ということは変わらぬ」
 その言葉に嘘はなかった。心の底から半兵衛という人間は自分に必要な存在だと思っている。
 初めて半兵衛に会った時、秀吉は半兵衛の美貌に息を飲んだ。顔も肌も身体も全てが作り物のように美しい。しかし信長と光秀に蹂躙された時、それは苛烈な美しさに変わった。炎が燃え盛るように熱く激しく乱れる半兵衛の姿は同性ということを忘れるほど魅力的だった。男色に興味はない筈なのにその姿に欲情してるいことに秀吉自身戸惑った。
ーーふふ、変な人ですね。
 一人で平蜘蛛へ訪れた時。半兵衛はそう言って秀吉に笑顔を向けた。意外にも無邪気なその笑顔に秀吉はついに心を奪われた。この笑顔をもっと見ていたい、守ってやりたい、もっと自分へ向けてほしいと。
「それに、我の側にいるべきかどうかなどどうでもよい」
 細い腕をぐいっと引き秀吉は半兵衛を抱き締めた。
 思わず抵抗しようと半兵衛が身を捩るが、半兵衛より一回り以上も大きな身体は容易くそれを押さえ込んだ。
「我が聞きたいのはお前の本心だ」
「僕の本心?」
「お前自身が我の側にいたいかどうか、お前がどうしたいのか」
「僕……が……?」
 戸惑う声に熱が篭るのを秀吉は感じていた。
 少し赤く染まった耳元に口を寄せ秀吉が囁く。
「お前の言葉で聞きたい」
「……ッ」
 いつもなら心地よいその音が今は鋭く半兵衛の胸を貫いた。
 自分の本心など半兵衛はもう分かっている。あの日、以前の常連客に無理矢理身体を開かれた日、とっさに思い浮かべた男はただ一人なのだから。
 ーー熱い、痛い、怖い。
 今まで必死に抑え込もうとしていたものが半兵衛の奥深くから湧き上がってくる。
「僕は、僕は……」
 限界だ、そう思った時には秀吉の大きな背中に両手を回して泣き叫んでいた。
「君の側にいたい……ッ、ずっと、ずっといたいよ……君が好きなんだっ」
 ほんの少し零せばあとは蛇口を捻ったように溢れ出ていった。もう後戻りも誤魔化しもきかない。また昔のように捨てられてしまったら、そう思いながらも止められなかった。
「秀吉、好き。君が好きだ」
厚い胸板に額を擦り付けて半兵衛は泣いた。じんわりと濡れる胸元に不快感など秀吉は全く感じなかった。
 柔らかな銀髪に鼻を埋めて、泣きじゃくる半兵衛をより強く抱き締めた。
「もっと聞かせてくれ」
「好きだよ」
「もっとだ」
「一緒にいたい、君といたいんだ」
「あぁ、我も同じ気持ちだ」
「本当、に?」
「あぁ」
「本当……?」
「半兵衛」
 不安げに問う半兵衛に秀吉が力強く答える。
「お前が好きだ、誰よりも何よりも愛おしい」
 半兵衛は心臓が跳ねるのと同時に体温が上がるのを感じた。秀吉から紡がれた言葉、それは何年も前に半兵衛が一番欲した言葉だった。
 偽りでも依存でもない、本心からの言葉。
「秀、吉」
 半兵衛は胸に熱い何かがじんわりと広がっていくのを感じた。枯れた大地に水が注がれるように、心が潤い、満たされていくのが分かる。
ーーあぁ、これが。
 必死に追い求めて絶望して諦めて、もう望まないように蓋をしてきた。どうせ手に入らないならと目を背けていた。そうしていくうちに心は渇き、枯れていった。その方が楽だからと半兵衛は自分に言い聞かせてきた。
 しかし秀吉はそれをこじ開け、踏み込み、真っ直ぐに向き合い受け入れた。そして半兵衛が一番欲していたものを与えてくれた。
 胸板から顔を離し少し捩ると自分より大きな耳が目の前にあった。そこに口を寄せて少し枯れた声で半兵衛が囁く。
「僕も愛してるよ」
 好きと愛してるの違いなんてものは正直よく分からなかったが、今はどうしてもそう言いたくて半兵衛は囁いた。
秀吉が腕の力を緩め半兵衛と少しの距離を空けて向き直る。まだ涙の伝う頬を手でなぞりゆっくりと顔を近づける。頬の温もりを感じながら半兵衛は瞳を閉じ、秀吉に身を任せた。
「ん……」
 薄い唇同士が重なる。小さく声を漏らしたのは半兵衛の方だった。もう何度もしてきた口付けなのに、まるで初めてのように半兵衛は胸が高鳴った。
 始めは啄むような口付けだったが、秀吉が半兵衛の顎に添えた手に力を加え隙間を作るとそこから舌先を侵入させる。
「んん……っ」
 深い口付けにまた半兵衛の声が漏れる。厚く大きな舌先が口内を撫でる度に半兵衛は身体を震わせた。それを気遣って空いている方の手で秀吉が細い背中を優しく撫でる。
「んぅ……」
 撫でられる感覚と掌の温かさが半兵衛には心地よかった。口付けとはこんなにも気持ちの良いいものだったろうかと考えていると、不意に秀吉が身を離し半兵衛の額に軽く唇を落とす。
「半兵衛」
 普段とは違う、熱の籠った声に半兵衛の耳が痺れそうだった。
「もちろん、僕も同じ気持ちだよ」
 秀吉の言いたいことなど半兵衛には既に分かっていた。そしてそれは半兵衛自身も望むことだった。
 
 寝巻きのシャツを剥ぎ、目の前に晒された肌があまりにも滑らかで、喰いつきたくなる衝動を秀吉は抑え込む。代わりに味わうように胸の飾りへ舌を這わせると半兵衛が小さく声を漏らせた。
「ん……っ」
 徐々に硬くなるそこを押し潰すように舐められ半兵衛は悩ましげに身を捩る。舌で愛撫しながら胸、脇腹、太腿を大きな手が優しくなでる。秀吉に触れられる箇所はどこも熱く、心地よい。その熱が体中に広がる頃には、寝具と背中の間がじわりと湿っていた。
「あっ」
 不意に半兵衛が小さな悲鳴を上げた。身体を撫でていた大きな手が半兵衛の中心を包んだからだった。
「嬉しい限りだな」
 布越しに触れている箇所が硬く張っていることに秀吉が素直に喜んだが、わざわざ言葉にされた半兵衛は真っ赤になった顔を両手で覆い隠した。
「い、言わなくても」
「嫌か?」
「ううん……でも、恥ずかしいよ」
「愛らしいな」
 秀吉はくすりと笑って顔を覆う両手へ軽く口付ける。
「半兵衛、顔を見せてはくれぬか?」
 子供を諭すように秀吉が言うと、半兵衛がおずおずと両手を下ろす。戸惑いながらも秀吉の頼みならと覗かせたその顔は羞恥に染まっていた。
ーー初々しい。
 半兵衛のその反応があまりにも初心で、覗いた薄い唇に秀吉は思わず喰いついた。
「っ……ぅんっ」
 閉じる隙も与えず秀吉が舌を捻じ込む。口内を舐りながら中心を揉みしだくと半兵衛が甘い声を漏らした。
「ふぅ、んん……っ、んんっ」
 より硬さを増した中心を肉棒の形に沿うように撫でながら、秀吉もすっかり硬くなった己自身を半兵衛の太腿へ擦り付ける。
 鼻息も荒く腰を擦り付ける秀吉が獣のようで半兵衛は酷く興奮した。
「んんっ……あ、はぁっ、秀吉、もう苦し……」
 深い口付けが和らいだ隙に半兵衛が秀吉の胸板を押し返す。
「もう、触って」
 肩で息をする半兵衛が自身の履いているズボンのウエストに片手を掛ける。
「……脱がせて」
 潤んだ瞳と唾液で照る唇に強請られ、秀吉が深くため息を吐いた。
「お前という奴は……」
「秀吉?」
「あまり煽ってくれるな」
 きょとんとする半兵衛の頬に軽く口付けて、スラックスごとズボンを脱がせた。しなやかな脚の伸びる中心では先程布越しに育てられた浅黒い肉棒が頭を持ち上げていた。
「これはまた……」
 綺麗だ、とうっとりとつぶやく秀吉に半兵衛がまた顔を染める。
「あまり、見ないでくれ……」
 今まで散々他人に見られてきたはずなのに、何故秀吉相手だとこんなにも恥ずかしいのかと半兵衛は困惑する。
「美しいものはいつまでも見ていたいものだろう」
「君はまた、っあ……ッ」
 半兵衛が何か反論をしようとしたが、察した秀吉が目の前で主張している肉棒に触れ黙らせた。
「このように我が触れる度に愛らしく応えるのだ、見ていたくもなる」
「あぁっ、……ひ、いぁッ」
 肉棒を直に触られたことで秀吉の手の感触がより鮮明に感じられた。自身よりも熱い手に優しく包まれているのに、男性特有の硬くごつごつとした皮膚で上下に擦られると堪らず声を上げた。
「あ、あぁッ……やだ、いやぁ……ッ」
 脚を閉じられないようにと秀吉は半兵衛の両脚の間に身体を滑り込ませる。シーツを掴み刺激から逃げようとする半兵衛の腰を掴み、構わず秀吉は刺激を与え続ける。
「嫌なのか?半兵衛、やめるか?」
「あ、違っ……嫌じゃ、なっ……あっ」
 頷くわけがないと分かっていたがわざと悲しげに問うと、半兵衛が必死に首を横に振る。
「も、駄目……あっ、あぁッ!」
 閉じられない脚をがくがくと震わせながら弓のように背を仰け反らせ半兵衛は達した。丁度太い親指で先端の割れ目をなぞっていた秀吉の手は白く濡れる。
「ッ、ッ……ぁっ、ごめ、ん……」
 びくりびくりと身体を震わせながら半兵衛が顔を歪ませる。
「気にするな、寧ろ丁度いい」
「え、……ッ!?」
 にやりと笑う秀吉に首を傾げた半兵衛が一瞬硬直した。
 半兵衛の放った白濁を掬い、それを秀吉は閉ざされている後孔に塗りつけた。
「あ、秀吉、そんなの使わなくてもローションを……」
「……持っているのか?」
「まぁ、一応……そこの引き出しに」
 半兵衛の指差す方へちらりと視線を向けるがすぐに向き直る。
「取る時間が惜しい」
 秀吉はそう言うと白濁を絡ませた指を後孔の窄みへ沈ませた。
「ん、くぅ……っ」
 ぬめりを纏う指が狭い肉の壁を抉じ開けていく。その感覚に半兵衛が悩ましげに声を漏らした。
「半兵衛」
 痛がってはいないかと顔を覗くと薄っすらと開いた唇が笑みを作り、心配する秀吉を安心させた。
頬や首に唇を落としながら半兵衛の中に埋めた指を動かす。狭く熱いそこは秀吉の指を喜んで銜え込み、動きに合わせて形を変えた。
「あ……あぁっ」
 もう一本中を解す指を加えやや深く挿し込むと半兵衛は高く鳴いた。先程達したばかりの肉棒は再び頭を上げ、白い身体が朱を帯びた。
「ひ、あッ……あ、あぁッ」
 まだだ、まだ狭いと思いながらも耳元に響く鳴き声と普段より熱い身体が秀吉を酷く煽った。
 後孔の中を指が蠢く度に半兵衛の肉棒はだらだらと先走りを垂らし、秀吉の指の滑りを良くした。
「秀吉、もう……」
 熱い息を漏らしながら半兵衛が耳元で囁いた。はっとして秀吉が顔を上げると濡れた視線と絡んだ。
「お前、だがまだ」
「平気だよ、だから……っん」
 半兵衛の言葉を遮り秀吉は唇を貪った。厚い舌は歯の並びをなぞり、遠慮がちに動く小さな舌を絡めとる。口の端から溢れる涎が白い頬に伝うが互いに構いはしなかった。
 深く口付けながら秀吉は後孔から指を引き抜く。空いている手で半兵衛の脚を抱え、柔らかくなった窄まりに昂ぶった自分の肉棒を押し付けた。布越しに伝わるその硬さと熱さに半兵衛は鼻を鳴らした。
「んん…ふ、ぅ……はっ、ぁ」
 唇を離すと半兵衛から切なげに声が漏れた。
 汗に濡れた白い額へ軽く唇を落とし、半兵衛に覆い被さっていた上半身を起こす。着ていたシャツを脱ぎ、ベッドの端へ適当に投げ捨てた。乱れた前髪を搔き上げた時、汗で湿った髪と触れた箇所の熱さで自分が酷く興奮していることに秀吉はようやく気が付いた。その証拠にコンドームを付けなければと思いながらも身体はこの先へと急いて、スラックスとズボンを乱暴にずり下ろしている。
 初めて目の当たりにした秀吉の肉棒に半兵衛は思わず息を呑んだ。窮屈な布の中から開放されたそれはすでにはち切れそうな程膨れ上がり、硬く充血している。しかし半兵衛が息を呑んだのは、その大きさだった。
「ひ、秀吉」
 常人より遥かに太く長いそれに、平気と囁いたものの半兵衛は少し怖気づいた。秀吉の体格からすれば普通の大きさなのだろうが、半兵衛からすればやはり大きい。
「痛ければすぐ言え、必ず止める」
 怯える紫の瞳を覗き込み今度は秀吉が優しく囁く。燃えるような紅い瞳は欲に濡れていたが、それでもいつものように優しかった。
 半兵衛が頷き目を閉じるのを合図に、秀吉は痛いほど膨れた己の肉棒を濡れた後孔へ宛がう。
「はー……っ」
 一度深く息を吐き、秀吉はゆっくりと腰へ力を込めた。
指とは比べ物にならない質量が柔らかい肉を掻き分け押し進む。解したとはいえ秀吉の肉棒を易々と受け入れられるわけもなく、体内の圧迫感と限界まで張る皮膚の痛みに半兵衛の体が強張った。
「っ、……いッ」
 力を抜かなければと思うのに上手く息が吐けず、額どころか体中に嫌な汗が滲み出た。投げ出した両腕でシーツを握り締め何とか耐え忍ぶ。
 秀吉が腰を進めるのに合わせて細い身体が軋み、肉棒を銜える後孔は拡がった。傷付けないようにとじりじりと進む動作が半兵衛にこの時間が途方も無く続くのではないかと錯覚させた。朦朧とする意識の中でそれは恐ろしくも嬉しくもあるなと薄っすら微笑んだ。
「ぐっ……」
 秀吉が苦しげに声を漏らすと、途端に後孔に埋まる肉棒が半兵衛の身体を突き上げた。それはほんの少し秀吉が腰を突いただけだったが限界まで張り詰めている半兵衛の身体には重く突き刺さった。
ーーあ、裂ける。
 半兵衛がそう思った瞬間、秀吉の動きは止まった。
「っ、ぁ……」
 きつく閉じていた瞼を開くと視界が歪み、いつの間に泣いていたのかと半兵衛はぼんやり思った。瞬きをすると零れ落ちる雫を拭って秀吉が微笑んだ。
「お前というやつは……よく耐えたな」
 そう笑って半兵衛の頬を撫でる秀吉の額には半兵衛と同じように汗が滲み、小刻みに上下する白い胸板へ滴っていた。笑っている顔がどこか辛そうなのは自分の中がきついからだと半兵衛は気付く。
「息をしろ半兵衛、そうだ、ゆっくりでいい」
 苦しいはずなのに優しく揺れる紅い瞳に半兵衛は胸が痛んだ。
「っ、は……ぁ、は……っ」
 秀吉の言うとおり、半兵衛はゆっくりと肺を動かす。いつの間に息を止めていたのか、硬く力んだ身体は酸素が入ると自然と力が抜けていった。
 呼吸に合わせて後孔が少し緩むと、その隙をみて秀吉が小さく腰を揺らす。苦しそうだった呼吸が落ち着くと半兵衛が徐々に声を漏らす。
「んう、ぁ……ごめ、ん秀吉……」
 不意に謝る半兵衛に秀吉は首を傾げた。
「どうした、やはりやめておくか?」
 制止の意味かと思い問うが半兵衛は首を横に振った。
「上手く、できなくて……いつもならもっと……」
 いつもならという言葉が秀吉の胸を刺した。いつもと言えてしまうくらい半兵衛はこういう行為を強いられ経験してきたのだと、改めて痛感させられた。同時に今また平蜘蛛や先の事件のことを思い出させてしまってはいないかと戸惑った。
 しかし秀吉の意に反して半兵衛はくすりと笑う。
「そんな顔しないでくれ、違うんだよ……君だと、ほら」
 頬に添えられた大きな掌を半兵衛は自分の胸へ誘う。
 熱い体温の下から小さな弾みが忙しなく掌を叩いた。
「緊張してしまって……君に、よくなってもらいたいのに、上手くできないんだ」
 恥らいつつもどこか嬉しそうに半兵衛が目を伏せる。
 その言葉にほっとしたように微笑むと、重ねられた白い手を掴み秀吉もまた自身の胸へと当てた。
「分かるか?我も同じだ」
 厚い胸板の奥で脈打つ鼓動は確かに半兵衛の掌へ届いた。
「君も……?」
「あぁ、これから少しずつ慣れていけばいい、焦ることはない」
「これから、うん、そうだよね」
 この先も一緒にいられる、そう思うとあまりにも嬉しくて半兵衛の顔がふわりと緩んだ。
「……」
「秀吉?」
「……いつもそうして笑っていてくれ」
「え、なん……んんっ」
 秀吉が愛おしそうにうっとりと呟く。しかしそれを聞き取れなかった聞き半兵衛が何かと口を開くが言葉を紡ぐ前に塞がれた。
「ん、ぅん……」
 深く、優しい口付け。
 舌と舌が絡まる度に半兵衛の背中をぞくりと何かが駆け巡った。そして同時に秀吉の肉棒を咥える後孔も柔らかく解れていった。
「ふぅ……んんッ、は、あぁッ!」
「っ、待たせたな」
 後孔に余裕が生まれたと分かった途端、細い腰を抱え秀吉は腰を打ちつけた。急に襲いかかる刺激に思わず半兵衛が悲鳴を上げる。勢いよく離れた唇の間に糸が伝うが互いに構いはしなかった。
「あ、あぁっ……深ッ、いあぁッ」
 濡れた唇から溢れる声が嬌声であることが秀吉は素直に嬉しかった。その声が聞きたくて、無理はさせまいと思いながらも律動を繰り返してしまう。
「待、んんッ、やっあァッ」
 先程まで息が詰まるくらい苦しかったのが嘘のように秀吉を受け入れる後孔に驚きながら、止め処なく押し寄せる快楽の波に半兵衛は溺れそうになっていた。
「半、兵衛っ」
 額に流れる汗を拭うことも忘れて秀吉は腰を振る。息を切らせながらも紅い瞳は半兵衛を真っ直ぐ捕らえて離しはしなかった。
ーーあぁ熱い。
 燃えるような真紅の瞳は半兵衛の身体を焦がした。その瞳に昔恋焦がれた男の面影はもうない、ただ目の前の恋人がひたすら愛しく、そして貪欲なまでに欲しかった。
 秀吉の触れる箇所はどこも心地いい。後孔を抉る秀吉のそれは、特に探らなくとも半兵衛の好い箇所を何度も強烈に責め上げた。
「ああぁッ、もっ、無理ぃッ」
 突き上げる度に抱えられた腰が浮かび、背中から脳髄まで電流が走る。
 一度ごりっと深く前立腺を抉られた瞬間、半兵衛は思わず秀吉の腕を掴み爪を立てた。
「ッ、ああぁぁぁッ!」
 甲高い悲鳴を上げ、白い身体が弓のようにしなり痙攣する。
「っ、ぐ……っ」
 同時に搾り取るように畝る半兵衛の中で秀吉も気をやりそうになるが何とか持ちこたえた。
「あッ……う、あ……っ」
 二度目の絶頂に半兵衛の身体は小刻みに震えた。先程よりも少なくなった白濁が肉付きの薄い腹に滴る。
「はっ、ぁ……え、あッ!ちょ、待っ……あぁッ!」
 ぼんやりと潤んだ瞳が見開き、薄い唇から再び嬌声が上がる。
 秀吉が止めていた律動を開始したのだ。
「すまぬ、だが……堪えられそうに、ないッ」
 詫びながら腰を打ち付ける秀吉の呼吸は荒く浅い。限界が近いと自身で気付いてはいるが、この時間をまだ味わっていたいと歯を食いしばる。
 達したばかりで敏感な身体を容赦なく抉られている半兵衛は酷く乱れた。
「ああぁッ、や、んあぁッ……待っ、あっ、ひああぁッ……!」
 暴力にも近い快楽からなんとか逃れようと汗に濡れた髪を振り乱し半兵衛は啼いた。
「あっ、くるッ……ひぃッ、あッ、イく…ッ!」
 身体中をがくがくと震わせながら半兵衛が秀吉にしがみつく。
「くっ、半、兵衛……ッ」
「ひッ……っ、ーーッっ!」
 細い身体を抱き締め、畝る後孔に秀吉は思い切り肉棒を突きたてた。堪えていた欲望が一気に溢れ出し、目の前がちかちかと光る。
 同時に三度目の絶頂を迎えた半兵衛はしがみついた身体を震わせながら、自身へ注がれる白濁を受け止めた。
「ーーッ、……は、ッ……っ」
 射精を伴わず身体の奥から湧き上がる絶頂は長く深い。薄い唇を開いたまま半兵衛が熱く苦しそうに呼吸を繰り返す。
 秀吉は何度か腰を揺らし後孔から肉棒を引き抜くと、慎重に半兵衛の身体を横たわらせた。
「半兵衛、大丈夫か」
 浅く短い呼吸を繰り返す半兵衛の頬を撫でるとそれすら刺激になるのか小さく身体が震えた。いつの間にか溢れ出した涙で濡れた瞳が秀吉を捉える。
「うん、大丈夫……ちょっと、すごかったけど」
 最後の言葉に思わず秀吉が吹き出した。
「それはすまなかったな」
「いいんだ」
 重い身体を起こし半兵衛が軽く秀吉に口付けをする。
「こうして君に触れられることが、嬉しいから」
 そう言って半兵衛が心から幸せそうに微笑んだ。
 それは秀吉が守りたいと思ったあの笑顔だった。
「そうだな」
 半兵衛につられて秀吉も微笑む。あの日惹かれた笑顔が目の前にある、それが秀吉には堪らなく嬉しかった。
「そうして笑っていてくれ」
 細い身体を両腕で抱き秀吉が囁く。
 温かい体温に包まれた半兵衛は心地よさそうに瞼を閉じ、何も言わずに頷いた。

「えっ!」
 翌朝、リビングで朝食を摂っていた半兵衛が声を上げた。その視線はテレビの液晶に真っ直ぐ向かい、箸に白米を乗せたまま映し出された文字を追う。画面の中では見覚えのある会社名や建物、そしてその社長が大量のフラッシュを浴びながら記者達に追われている映像が流れた。
「なに、これ……解任、倒産の兆し?……え?」
 映し出された文字を声に出して繰り返すがいまいち理解が追いつかない。画面の中にあるのは先日半兵衛が襲われた会社で、解任だ倒産だと騒がれている社長は半兵衛を襲った張本人だった。中身こそ最低だが敏腕と称され着実に業績を伸ばしていったあの社長が何故、半兵衛は疑問が絶えなかった。
「横領」
 戸惑う半兵衛とは真逆に何事もなかったかのように秀吉がぼそりと呟いた。
「それに加え未成年に対する猥褻行為、売春。主な要因はこちらの方だろうな」
 テレビ画面を見もせず秀吉は淡々と食事を続ける。
「……そんなこと一言も書いてない」
 持ち上げたままの白米を茶碗に戻して半兵衛は眉を顰めた。そしてさも当然のように言い放つ秀吉の方へと恐る恐る視線を移す。
「君、まるで知っていたみたいだ」
「……」
「ねぇ」
 焦れたように問う半兵衛の声にようやく秀吉は箸を止めた。
「あぁ、我だ」
 横目でテレビ画面を一瞥し秀吉が口を開いた。
「我が吉継らに命じ、マスコミへ流させた」
 あの日、半兵衛を傷付け蹂躙した男が何事もなく、何の罪にも問われずにのうのうと生きていくことが秀吉は許せなかった。そしてそれは三成をはじめとする今回のことを知る者達も同じ気持ちだった。
 正確に言えば、この報復の方法を提案したのは吉継だった。半兵衛を救出してすぐ三成から連絡を受け吉継は考えた。恨みつらみを抜きにしても今後あの会社がこちらの弱みを握ったままというのは思わしくない、交渉を持ち掛けたところで不利な状況のこちら側の要望はほとんど通らないであろう、それなら潰してしまうしかない、その結論に至ったところで吉継は秀吉へ電話を掛けた。
 翌日、吉継は自身が持つコンピューターの知識と技術を駆使し相手の会社の深部へと潜り込んだ。同時に左近へも指示を出し、営業の仕事で得た広い人脈を生かし相手の会社の関係者から情報を収集させた。豊臣の中でも群を抜く実力の持ち主の二人が動けば驚くほど容易くその綻びは見つかり、数日後には今回のスキャンダルを掴み取ることができた。
「太閤よ、これらをマスコミに流す。よいな」
 纏められた資料を秀吉へ提示し、吉継は許可を請う。部下からの気持ちを嬉しく思いながらも秀吉はすぐには頷けなかった。
「だがそれでは、半兵衛のことも世間へ晒されてしまうのではないか?」
 恐らく半兵衛は、自身の過去が晒されることよりも、自身が会社の重荷になってしまうことに心を痛めるだろうと秀吉は考えた。
「案ずるな、これに記してあるのはかの愚人がかの場所で賢人と出会う前に起こした不祥事ばかりよ。余罪を晒し己が罪を重くする程の阿呆でなければ、自らの罪を悔い自白する程できた人間でもあるまい」
「吉継、お前そのこと……」
「やや深く潜り過ぎたようよ、だが身内の過去などどうこう言うつもりは毛頭ない」
 スキャンダルについて探っていく内に、吉継は半兵衛が平蜘蛛にいたことを知った。吉継にとって半兵衛の過去など大して興味は無いが、世間に知られてしまった時に三成が心を痛めてしまうのではないかと一番に考えた。吉継にとって三成は親友であり大切な身内だった。心優しく不器用なまでに真っ直ぐな三成なら、自分のせいで半兵衛様がと自身を責めるに違いなかった。どんな理由であれ吉継は三成が傷つくのは嫌だった。それを避ける為、半兵衛に被害が及ばず且つ相手を潰せるようにと吉継はフルに頭を働かせた。
「これが最善よ」
 吉継が資料の束を指差す。これなら確実に相手を潰せるし半兵衛や三成を守れるという自信が吉継から溢れていた。
「分かった、任せたぞ吉継」
 普段無口な吉継がここまで推してくるのならばとようやく秀吉は頷いた。
 後日、吉継が匿名で流した情報はあっという間に世間へ拡がり、例の会社は分かりやすく傾いていった。
 吉継の提案した報復だが全てを吉継のせいにしてしまう気がして秀吉は自分の指示だと半兵衛に伝えた。最終的に流せと指示したのは自分であり、もし何か起こったときは自分が責任を取ろうと覚悟していた。
「そんな、危険なこと」
「我も含め皆がお前を助けたいと思ったのだ、仮にこれが三成に起こったとしても同じ事を皆思うだろう」
 自分のせいで言い出しそうな半兵衛に秀吉は先手を打った。
「半兵衛、お前が我らの身内と認められた証拠だな」
 半兵衛の不安をかき消すように秀吉がにかっと笑った。
「我も皆も、お前が好きなのだ」
「秀吉……」
 言葉だけではなく、誰かが自分のために動いてくれたという証が目の前にある。それは半兵衛にとって大きな安心感と喜びを与えてくれた。
 胸の奥がじんわりと温かい。人の優しさが泣きそうなくらい温かかった。
「僕は皆に恩返しをしていかなければならないね」
 満たされるというのはこんなにも心地がいいものなのだと、改めて半兵衛は知った。
「あぁ、ゆっくり返してやれ。時間はいくらでもある」
「もちろん君にも返すよ」
 よしと意気込む半兵衛に秀吉は思わず笑みが零れた。
「なんだい?」
「いや」
 何故笑われたのかと首を傾げる半兵衛を尻目に、秀吉は完食した食器をキッチンへと運ぶ。
「我はこうしてお前の笑顔が見られるだけで十分だ」
 ぼそりと呟いた言葉は流しのシンクを叩く水流にかき消された。
「秀吉?」
 少し遅れて自身の食器を運んできた半兵衛がまた首を傾げる。
「いや、今日も頼むぞ半兵衛」
 視界のやや下でふわりと揺れる銀髪を撫でるると半兵衛は瞳を輝かせた。
「あぁ、任せてくれ秀吉」
 こうして半兵衛が嬉しそうに笑う度、秀吉の心は何度も満たされた。
 今日、ここからが二人の本当の始まりだと告げるように秀吉が半兵衛に口付けをした。

End

長い間お付き合いいただきありがとうございました。今回は過去の傷が癒えず人を好きになることを諦めた半兵衛様が、秀吉によって少しずつ立ち直っていく話が書きたくて始まったものです。予想を遥かに超える長さになってしまいましたが最後まで読んでいただけてとても嬉しく思います。

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朝顔の夜